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チョコレートの魔女  作者: 梶野カメムシ
5/10

5 一世風靡




 就職しても、研究三昧の日々に変わりはない。

 雫が就いたのは、チョコレート開発のポストだった。大学に比べ予算は減ったが、裁量権は大幅に増え、自由度は高まった。

 芳乃は約束通り、雫専用の研究室と宿泊室を用意してくれた。チョコレート業界の埋もれた才能を社長にアピールし、引き抜く手はずを整えたのも彼女である。

 雫の研究は、あくまで先輩のためだが、その副産物も価値が高い。会社はそれで新商品を作り、雫はさらなる開発の予算を得る。

 芳乃の目論見は、みごとに当たった。

 入社早々、雫の開発した《溶けないチョコレート》は、開発部の度肝を抜いた。

 チョコが口内でとろけるのは、含まれるカカオバターの融点が33.8度だからだ。混ぜ物やコーティングをすれば融点は上がるが、口どけや風味は損なわれる。

 この難題を、雫は液体と反応して壊れる結晶を作り解決した。現時点では量産に不向きで商品化されることはなかったが、魔女の呼び名が伊達でないことを、社内に知らしめるには十分だった。

 雫たっての希望で、専属担当を任された芳乃は、二人三脚で新商品の開発に乗り出した。

 商品化の第一弾は《美肌チョコ》。

 カカオポリフェノールの美肌効果を追求した商品で、OLを中心に売れた。もっとも真鍋の販売地域は地方に限られ、人気はローカルに留まった。

 第二弾は《風邪にきくショコラショー》。ショコラショーとはホットチョコのこと。ミルクに溶かして飲めば、風邪を予防できる優れものだったが、地味すぎたのか売上はイマイチ。

「定番商品って難しいなあ」

「要するに、大勢が毎日食べればいいのね」

「何かアイデアある?」

「チョコレートに不可能なんてないわ。

 禁断症状をつけて依存性を高めるとか」

「ま●く、ダメ、ゼッタイ」

 第三弾は《恋するチョコレート》。バレンタインの原点に戻った商品。食べると鼓動が高鳴り、頬が染まる。元は雫が作った《興奮チョコ》で、効果が絶大すぎたため効き目を弱めたバージョンである。

「媚薬みたいなチョコが作れたらなー」 

「作れるわよ」

「えっ、ホント?」

「異性に惹かれる際の生体反応をチョコで再現するのよ。

 体が感じれば心も騙される。吊り橋効果とかあるでしょ」

「それ、先輩に使えばいいのに」

「私は先輩を騙したいわけじゃないもの」

 その先輩は、大学卒業後に彼女と結婚してしまった。

 媚薬でもなければ失恋確定だと思うが、雫にそのつもりはない。今まで通りチョコを作りながら、離婚する日を待つらしい。 

 ともあれ、発売された《恋するチョコレート》は大ヒット商品になった。

 ヒットの理由は「変化が見える」ことだ。チョコを食べ赤面する女性の動画が続々とSNSにアップされ、全国規模の宣伝効果を生んだ。地方販売という弱点も、レアものとして購買意欲を煽った。TVに取り上げられ、《恋チョコ》を求める声で会社の電話がパンクするに至り、社長は販売網の拡大を決断した。

 空前のチョコ景気を受け、真鍋製菓は工場を増築し、かつてない規模の新入社員を雇い入れて、新たな支社に送り込んだ。

 全国展開の立役者は芳乃だった。プロジェクトの要職に就いた彼女は、営業から広報まで八面六臂はちめんろっぴの活躍を見せ、販売網を広げた。

 ブームに合わせ、ロゴマークを一新したのも彼女である。魔女をモチーフにしたデザインは魔女印として、後に真鍋製菓の社用ロゴに昇格する。それほどまでに、《恋チョコ》は売れた。その年の流行語大賞にも選ばれた。

 数年が飛ぶように過ぎ、真鍋製菓は菓子業界の大手に変貌した。

 芳乃は破格の昇進を受け、雫は専用の研究所を手に入れた。先輩夫婦は二人目の子供を授かった。

 

 


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