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2回目の訓練もファーガスさん達と一緒に参加するつもりだったのだが、イーサンさんがやってきて他のチームにも入るように言われた。
私が入ったファーガスさん達のチームが勝ったことで、納得できない人や、反対に意見を聞きたい人が出てきたそうだ。
せっかくこれからだという時に残念だが、色んなところを回れるのは、それはそれで楽しいのかもしれない。
どうせ行くならばと、先程のファーガスさん達と戦ったチームに入りたいとお願いした。
土、植物、水を扱っていたメンバーのところに行くと、複雑そうな顔をされたので私は苦笑しながら挨拶をした。
土を扱った魔術を得意とするのはガストン。頭に真っ黒なバンダナを巻いており、日焼けした肌に、ゴリゴリの筋肉を纏っている。腕っ節も強そうだ。
水を使っていたのは、トリーと同じ藍色の髪と瞳の男の子だ。名前はメーリンというらしい。サラサラの髪を横分けにしており、好青年という印象だ。植物を扱っていたのは茶色の癖っ毛の男の子で、名前はロレンツォ。長い前髪のせいで目が見えない。それで前が見えているのか心配になる。細長い身体で、姿勢は悪く猫背だ。
このチームは印象がバラバラのチームだ。しかし、お互いを信頼しているのはさっきの訓練の時によく分かった。
「あんたが余計なことしなきゃ勝てたのに。」
そう言ったのはガストンだ。見た目通りに負けん気が強いらしい。私はその言葉に思わず笑ってしまった。笑う私に対して、ガストンは苛立ちを隠さない。メーリンはガストンを宥め、ロレンツォはオロオロとしている。
ひとしきり笑って、私はガストンに質問した。
「いつもは勝ってるんですよね?」
「あぁ?当たり前だ。」
「やっぱり。あの、さっき戦った時疑問だったんですけど、トリーさんが櫓を作った時に、なんで地面割らなかったんですか?」
「…何?」
ガストンは元々目つきの悪い目を更に細めて私を睨みつけていた。
「前回の訓練見てた時に、空中戦してる人1人もいなかったから、魔術で空を飛びながら戦うって出来ないのかと思ったんですけど、どうなんですか?」
私は苛立っているガストンではなく、落ち着いているメーリンに向かって質問を投げかけた。
メーリンは、困ったように微笑んで、空中戦を出来る人は全くいないわけでは無いが少ないということを教えてくれた。
「だとしたら、私はトリーさんが櫓を組んだ時点で地割れを起こします。そこで足場が乱れれば次の攻撃を始めるまでに体制を立て直す必要があるので、その間にロレンツォさんの蔓を使って敵を捕獲して地面に叩きつけるか、メーリンさんの水を使って溺死させます。」
「な…!?訓練だぞ!?」
「それは分かってますよ。どちらも加減するなり、そのフリをするなりすればいいじゃないですか。判定をするのは審判なんですから、審判にこちらが勝ちだと思わせればそれでいいんだから。」
ガストンさんはワナワナと震えながら、私に掴みかかりそうになっているのを必死で堪えている。ロレンツォさんは顔が見えないので何を考えているか全く分からないが、メーリンさんだけは好意的に聞いてくれているようだ。顎に手を当てて、真剣に考えている。
「…ヒカリ様、他にはどんな方法があると思いますか?」
「メーリン!!」
ガストンさんは私に質問をしてきたメーリンさんを怒鳴りつけた。しかし、すっかり慣れっこなようで全く気にせずに話を続けるように促してきた。私の方がガストンさんを気にしてしまう。殴りかかってきたら結界が発動してしまうので困る。そもそも相性がいい魔術が集まってる上に、チームプレー自体のレベルは高いので、私が何か言う必要も無いように思う。さっきはガストンさんに意地悪したかっただけだし…
チラリとメーリンさんを見ると、笑顔で圧をかけられたので観念して話すことにした。
「えっと…ガストンさんの土とメーリンさんの水を混ぜて土石流みたいなので相手を飲み込んだり…さっきの戦いの時の水の玉の中にガストンさんの石を入れて破壊力増したり…その玉を巨大化させて、ロレンツォさんの蔓を使ってパチンコみたいにして飛ばす…とかですかね…」
「…そのパチンコってなんだ?」
こっそり聞いていたらしいガストンさんが不満げながら質問してきた。私はノートとペンを取り出してY字型パチンコを作り出した。3人はギョッとしていた。まぁ、魔法陣じゃなくて絵だからな…私のスキルは…。
私はパチンコをロレンツォさんに差し出した。ロレンツォさんはオロオロするばかりで全然受け取ろうとしない。蔓を使って飛ばすのはロレンツォさんなのでロレンツォさんに使って欲しかったのだがめんどくさくなったのでガストンさんに渡す。ガストンさんは恐る恐るパチンコを受け取り、しげしげと眺めている。
私はその辺に落ちている石を手渡して、使い方を説明する。ガストンさんのその筋力を使って飛ばす石はそれはそれは速いスピードで、遠くまで飛んでいった。
あまりにも遠くに飛んでいったので、全員がポカンとしている。幸い、石に当たった人はいなかったようだ。私はメーリンさんと見つめ合い、一緒に吹き出してしまった。
「すげー!こんなに飛ぶと思いませんでした!!」
「僕もです…!」
思いっきり笑う私とメーリンさんを、ガストンさんはなんとも言えない顔で見ていた。フンっと鼻を鳴らして、パチンコをロレンツォさんに押し付ける。笑われたのが恥ずかしかったのかもしれない。耳が少し赤くなっている。パチンコを渡されたロレンツォさんはゴムを引っ張って離してを繰り返している。
「…トリーさんといい、ロレンツォさんといい、無口な人が多いんですね…」
メーリンさんにこっそりと言うと、メーリンさんはクスクスと笑って頷いた。
「まぁ、とにかく私はスキルを別々に使うんじゃなくて、混ぜて使ったほうがチームプレーとして面白いんじゃ無い?って思っただけです。」
「なるほど。参考にさせていただきますね。」
メーリンさんはガストンさんとロレンツォさんの間に立って、2人の肩に手を置いた。ガストンさんはまだ納得しきれていないのか、そっぽを向いて拗ねた顔をしているし、ロレンツォさんはモジモジしている。
どんな戦いになるのか分からないが、次に戦うのを見るのが楽しみだ。
なーんて、思ってたのはさっきまでのこと。
対戦相手を知って、そうも言っていられなくなった。だってそこにはヘクターがいたのだから。
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