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その後、自分の体に合わせた結界の範囲を広げていくと、次から次へと問題点が見つかった。
最初に左手に魔法陣を描いたので、そのまま結界を広げていこうとした。
しかし、左手から右足の先までの距離が遠いのか、いつも半身で止まってしまい、右足まで結界を広げることができなかった。
最終的には、背中の下の方に魔法陣を描くことに決定したのだが、次に問題だったのは服装だ。
周りをドーム型に囲む結界の場合は、その魔法陣を中心に球体に広がっているので、空間に結界が生じている。しかし、体に合わせた結界は、その魔法陣を描いた部分に沿って結界が広がっていくので、上下分かれた服で、背中に結界を描くと上半身の服にのみ結界が張られたのだ。
「…これ、結局体に描くしかない感じ…?」
「…もうちょっとやってみましょ〜…」
こちらの世界では上下が一つになっている服といえば、ドレスなどのワンピースしかない。ワンピースを着て、第二部隊の戦闘訓練に参加するなんて狂気の沙汰だ。
私は上下が一緒になってて動いやすい服を想像した。
動きやすいといえばズボンだ。ズボンで上半身がついているものといえば、オーバーオールを思い出した。
しかし、オーバーオールは胸とお腹と背中は布があるけれど、肩部分は紐だけだ。それでは腕が覆えていない。
腕まで覆われているオーバーオール…
「あぁ、つなぎ?」
「なんですか?」
「元の世界の作業着ですよ。」
私はいつものようにノートを取り出して、自分がつなぎを着ている姿を想像しながら描いてみる。
首元はスタンドカラーにして、隠れる範囲を増やした。着脱しやすいようにファスナーにして、ゆったりと着られるように大きめに描いた。ポケットは必要ないかもしれないが、たくさんあると嬉しいので、たくさん描いて自分好みのつなぎを作った。
シリウスさんは出現したつなぎを手に取り隅々まで見ていた。
私はつなぎを受け取って、急いで着替えて、シリウスさんのところへ戻り、魔法陣を描いてもらおうとした。しかし、一旦つなぎを調べたいシリウスさんから次々に質問された。
「着るとこんな感じなんですね〜その胸元の部分はなんですか〜?」
「これはポケットですよ。物を入れて持ち運ぶの。ここと、ここと、ここにもありますよ。」
「これはなんですか〜?」
「ファスナーないんでしたっけ…?えっと、この金具をこう、上下させると前が開いて着脱できます。」
「…これ、今度衣装部に持っていってくれませんかね〜?」
「いいですよ。今回のが終わったら、衣装部に持っていきます。」
そんなに気に入ったのだろうか?何のために衣装部に持っていくのか分からないが、とりあえず一通りの質問に答えたので、再び魔法陣に取り掛かってもらった。
「…やっぱりダメでしたね…」
「…そうですね〜」
つなぎを着て、背中に魔法陣を描いてもらったものの、やはり手と足、頭の部分はつなぎから出ているので結界が張られなかったのだ。
手と足はまだいいにしても、頭を守れてないとなるとだいぶ危険だ。
私は少しがっかりしてしまった。シリウスさんはそんな姿を見て苦笑する。
「新しい魔術の開発をして、さらにそれに適応させなければならないのを、ぜ〜んぶ合わせて1週間でやろうとしてるんですから〜今はこれくらいは妥協しなきゃいけないかもしれませんね〜…通常新しい魔術の開発は何ヶ月も、何年もかかるものですから…」
「まぁそれはそうなんですけど…なんか最近役に立ててないなぁって…」
私は最近色々不発に終わっている気がする。ビニールハウスも、あんなに大きいものを出現させておいて、結局使えそうになかった。
今回のつなぎもボツだ。私は結局物珍しいものを出現させられるだけで、これといって役に立てることなんてないのかもしれない。だとしたら、私ってやっぱりお荷物なのでは…?
なかなかうまくいかないことが続くと、流石に気分も落ち込んでしまう。
シリウスさんは目をパチクリさせている。
「そんなこと考えてたんですか〜?」
「そんなことって…」
「いや、そんなことですよ〜だって意見を出して魔術発展させてるじゃないですか?ライドンの紐付きの結界とか、今回のこととか…魔術は物体として存在するものばかりではありませんから、変わった視点からの意見は必要なものなんですよ〜」
「…うーん。」
それに関しても貢献できてるという手応えは全くないのだけれど。なんだか釈然としない感じだが、シリウスさんなりに励まそうとしてくれるのはわかった。
少しだけため息をついて、再び話し合うことになった。
「で、結局その魔法陣に触れた部分しか守れないって感じですよね。」
「そうですねぇ…」
魔法陣に触れればいいと言うことなので、素直に背中に書いて貰えばいいのだけれど…やっぱり素肌に触られるのは抵抗がある。
「じゃ〜つなぎの裏側に描くのはどうですか?その、つなぎの下に着る物は工夫しなければならないですけど…」
「背中が空いている服を着て、つなぎを着ればいいってことですかね?」
「そうですねぇ…」
だとしたらスポーツウェアかな…陸上選手が着るようなセパレートタイプのユニフォームなら背中は開けられるかもしれない。私は一度、つなぎを脱いでシリウスさんに渡して、私はユニフォームを出現させた。シリウスさんは出現したユニフォームを見て固まった。ここまで露出する服はないのだろう。私は苦笑しながら、シリウスさんからつなぎを受け取って、全身着替えることにした。
流石に目の前で着替えられないので、着替えてから合流することにした。
「…ねぇ、これじゃ魔法陣に触れないから結界張れなくない…?」
「ああ、それは歯を使えば大丈夫ですよ。」
「…まぁやってみますか…」
つなぎのゆったりとしたサイズ感も気になるが、それは服を少し前に引っ張って体に密着させるようにすれば問題ないだろう。
魔法陣に魔力を流し込むのは歯から干渉してみるそうだ。
もうこれでダメなら素肌に書いてもらうしかない。
私は覚悟を決めて口を開ける。シリウスさんも少し緊張しているようだった。
魔力が込められる感覚に目をぎゅっと瞑りながら、じわじわと全身に広がる痺れに手応えを感じる。不快感に震える体を、シリウスさんは支えてくれている。
つま先迄痺れが広がったのを合図に目を開けてシリウスさんを見ると、シリウスさんは優しく微笑んでいた。
「…なんとかなりましたよ〜」
試行錯誤の末、やっとボディスーツ式結界が完成したのだった。
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