準備してみた
「ヒカリ様、結界についてはご存知ですよね〜?」
「はい、ビニールハウスで見ました。」
ミルドレッドさん達との報告会から一夜明け、私とシリウスさんは今、雑木林に来ており、防御力を上げるための魔法について話し合っている。防御するということを考えると、1番最初に思い付いたのが、鎧や盾を身につけることである。しかし、鎧や盾を身につけるとなると、警戒しているということが丸分かりである。そもそも、重たい鎧や盾を持ってうまく動ける気もしない。
魔法を使った防御となると、こちらの世界では結界を使うことになるらしい。
この結界というのが現段階ではうまく応用ができないのだそうだ。ビニールハウスに結界を張った時のことを思い出してみると、ライドンさんがビニールハウスの中に入って、丁度中心となる位置の地面に魔法陣を描いていた。そして出来た結界は、その魔法陣を中心としたドーム型だったのだ。
問題点として、まず一つ目に地面に魔法陣を描くと、その周りしか結界が張れないため、私が動いたら結界から出て行ってしまう。訓練に参加しているうちに、結界の外に出てしまったら私は丸腰になってしまう。
二つ目は、その形状だ。訓練に参加するのであれば、魔術を近くで受けることになる。もし、真犯人が私に攻撃してくる前の段階で、何かしらが私に当たった時、私の体よりも離れたところでそれが弾かれたとしたら、結界の存在に気付かれてしまうのだ。事故に見せかけたいわけだし、結界があると分かっていながら、攻撃をすることはないだろう。
この2点を重視して改良していかなければならない。
そこでかなり難しいらしいのだが、魔法陣なしで結界を張ることにするらしい。シリウスさんは申し訳なさそうにしながら、私に口を開くように伝えた。
シリウスさんは深呼吸をした後、私の口の中に親指を入れて奥歯に触れた。
そして先日そこに込めた魔力の形を変えようとしたのだ。
私は身体中を何かが這い回るような感覚に鳥肌が立つ。ゾワゾワとした感覚が気持ち悪くて冷や汗が出てきた。怖くなって薄目を開けてシリウスさんを盗み見ると、シリウスさんも眉間に皺を寄せて辛そうにしている。
しばらく我慢すると終わったのか、指を抜き取られた。
「…どうなったか一度試してみます…」
シリウスさんは息を整えて、人差し指を振って水を出した。その水をバレーボールくらいの大きさに丸めて、私に向かって投げつけた。すると、その水は私に届くことなく弾け飛んだ。
どうやら無事に結界は張れているようだった。
「う〜ん。やっぱり球体ですよねぇ〜。」
「そうみたいですね…」
結界に沿って流れていく水の動きを見ると、まんまるのカプセルのようなものに入っている状態だと分かる。私の身長が150センチくらいなので、大体直径が160センチくらいの球体の中に私が入っているということになる。
「うーん…これ、魔術を遮断して、人を通れるようにした場合だと、刃物を持って突撃されたら意味ないし、人や物も入れないようにってすると結局バレちゃいますよね?」
「そうなんですよ〜…」
シリウスさんはガッカリしたようにため息をついた。
できる限り私の体に沿って結界を作ろうとは思い、イメージして作ってくれたらしい。けれども出来上がったのは球体だった。
酸素カプセルのような細長い円柱でもない。まんまる。
「う〜ん。結界を変形させる…悩みどころですね〜」
「マジか。」
この結界が出来ないとなると、私は限りなく100%に近い割合で怪我をすることになるだろう。
2人で頭を抱えているところにライドンさんがやってきた。
ライドンさんに結界の変形について悩んでいることを相談すると、ライドンさんは何でもないように言った。
「いや、俺いつもやってんじゃん。」
「えええええええええ!?」
「あれ?そうでしたっけ〜?」
私はびっくりして大声を上げてしまったし、シリウスさんは全く思い出せないのか首を傾げている。
口頭で説明するよりもやったほうが早いと言って、ライドンさんはハンカチを使って鳥を作った。その鳥を空中に投げると、まるでトンビのように優雅に舞っていた。するとライドンさんは手のひらにサッと魔法陣を描いて、その手を風に乗って飛んでいる鳥に向けた。
するとそこから漁師さんが海に投げ込むような網が、光を纏って飛び出てきたのだ。その光の網は見事に鳥を捕まえて、地面に落とすことができたのだ。
「これ、結界使ってたんですか〜…」
シリウスさんはその網を摘んで持って、まじまじと観察しながら呟いていた。
「そうそう。結界ってさ、基本外からの攻撃から守るためにあるじゃん?それって、中と外を遮断してるってことだから、裏を返せば中のものを閉じ込めるにも使えるだろ。ビニールハウスとかはそれね。だったら捕獲するのに使うと便利だなって思ったんだよ。それで、魔法陣を少しいじって、イメージと強く連携できるようにしたんだ。」
しゃがみこんで網を見ているシリウスさんの隣に行って、同じようにしゃがんだライドンさんは、地面に二つの魔法陣を描いて違う部分を比較しながら説明していた。私にはさっぱり分からないことだし、目の前で起こったことをうまく処理できなくて呆然としていた。
「…なるほど…さすがですね〜。でも、これできるようになったならちゃんと報告書を提出してくださいよ〜…」
「え、論文書かなきゃだろ?そんな暇ないよ。」
チクチクとトゲを刺すシリウスさんに対して、ライドンさんは全く気にしていない様子で笑っていた。普段シリウスさんも同じようなことをしているから強くは言えないのだろう。ぶつぶつと言いながら何か考えているようだった。
「でも結局は魔法陣を描かないといけないんですよね。
…歯にかけますか?」
「…ここまで高度な魔法陣を歯に描くのは無理でしょうね…口を大きく上げられるわけでもありませんし、指で描くわけですから…」
解決の兆しが見えたかのように思えたが、結局魔法陣という壁にぶち当たり振り出しに戻ってしまった。
「…なんで歯?」
ライドンさんが不思議そうにこっちを見ていた。
…あ、ライドンさんにもまだ話してなかったんだった。
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