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ライドンさんの研究室に着き、肩から降ろされた私は痛む首筋を摩りながら部屋の中に入った。寝ていた場所に座りながら話をするユウとユキの姿を見て、腰が抜けてその場に座り込んでしまった。

よかった。本当に、よかった。本当はもう目が覚めないんじゃないかと思っていた。いくら劣悪な環境だからといって、ここに連れてくるべきではなかったのではないかとも考えていた。

しかし、まだ本調子ではないだろうけれど、体を起こして座れる体力か回復したのだ。私はそれが嬉しくて、鼻の奥がツンと痛んだ。

部屋に入るなり座り込んだ私にユウが駆け寄ってくる。


「ヒカリさん…!」


私を心配して伸ばされたユウの手をそのまま掴み、引き寄せた。ユウはバランスを崩して私の胸元に倒れ込んでしまったので、私はそのままユウをぎゅっと抱きしめた。ユウは一瞬固まったが、私の背中に腕を回してグッと力強くマントを握りしめた。ユウの体は何かを耐えるように震えていた。力いっぱい抱き合ったあと、ゆっくりと体を話すと、ユウは腕で自分の目元を擦ってユキの元へ戻り、手を引いて私の方に連れてきた。


「これがヒカリさん。俺たちをここまで連れてきてくれて、名前をくれた人だ。」


「は、はじめまして…。」


ユキはガチガチに緊張しながら私に挨拶をした。お風呂に入れてもらったようで、体も髪も洋服も綺麗になっていた。茶色だと思っていた髪は、艶やかなオレンジ色をしていた。汚れがひどくてくすんでしまっていたのだろう。青白かった顔も、今は緊張してるせいか赤くなっている。初めて見る目の色は明るい茶色だ。今まで見れなかったのが勿体なかったと思うくらい綺麗な瞳だった。

私は泣きそうになるのを堪えながら、ユキに挨拶をした。


「初めまして。光です。目が覚めて知らない場所にいて、驚いたでしょう。これからは私達と一緒に、楽しく過ごせたらいいなって思ってます。よろしくね。」


心の中ではカーニバル開催中!ってくらいにはしゃいでいるのだが、陽気なテンションで挨拶をすることで、また怯えさせてしまってはいけないので、グッと堪えて大人な挨拶をした。ライドンさんとユウはいつもの私を知っているのでポカンとしているけれど。

ユキは恥ずかしそうに頷いて、スカートをぎゅっと握っている。その可愛らしさに思わず顔が緩む。


「もう大丈夫だろうから、今日から俺と一緒に暮らすことになったよ。」


ライドンさんが後ろから声をかけてきた。ユキが研究室に来てから、ライドンさんもユウも研究室で寝泊まりしていたので、ようやくゆっくり休むことが出来るのだろう。

チャーリーさんとライドンさんは実家暮らしだそうで、ユウとユキのことは既にチャーリーさんが説明してくれたそうだ。ご両親も最初は驚いていたものの、今では張り切って色々な準備をしてくれているそうだ。チャーリーさんとライドンさんのところだから、元々心配はしていなかったけれど、それを聞いて安心した。無責任に連れて帰ってきたのは私だ。連れてきた子供達に辛い思いをさせるのも嫌だし、保護してくれる人に迷惑をかけるのも嫌だ。私に出来ることがあればちゃんと伝えてほしいとお願いする。ライドンさんは手をひらひらとさせながら笑った。


私とシリウスさん以外の人とはだいたい顔合わせを済ませているらしい。

私が気掛かりだったのはオリビアのことだ。オリビアはまた何か余計なことを言わなかったか、ユウにこっそりと確認した。


「それが、オリビアのねーちゃん、強がってたけど、だいぶデレデレしてたぜ。私が着られなくなった服あげてもいいわよーだってさ。」


ユウは肩をすくめ、呆れた様子を隠さずにそう言った。横たわっていたユキを見た時に暴言を放ったののと同一人物がした発言とは思えないが、その素直じゃない物言いはオリビアらしいなと笑ってしまう。他にも特に傷付けるようなことを言ったわけではないようなのでホッとした。

ユウもあれから特に何か言われたりはしていないらしい。


「食べ方とか、歩き方とか細かいところはうるせーけどさ。まぁ、よく見てくれてるとは思うよ。」


素直に認めるのは癪なようで、不満げにしながらそう言うユウは子供らしくてかわいい。私がガシガシと頭を撫でると煩わしそうに手を払われた。

ユウが言うには、ユキが大変なのはこの後だそうだ。


「チャーリーの姉ちゃんさぁ…めちゃくちゃ服着せるんだよね…」


ユウも初めてここにきた時、チャーリーさんに色々なところに連れまわされて着せ替え人形にされていたらしい。その時を思い出しているユウはどこか遠くを見つめていた。

チャーリーさんは服飾のプロなので気合いが入るのだろう。私はユキがこれからチャーリーさんのおもちゃになるであろうことを予想して、静かに手を合わせた。







しばらくライドンさんの研究室で話していると、アンネさんが愛と望を連れてきたので、ユキに紹介する。

愛は寝ていたユキと会っていたので、もうずっと友達だったかのように喋っている。ユキは戸惑いながらも話を聞いてくれている。


「アイ様、大切なことをお忘れですよ。」


アンネさんは興奮状態の愛にクスクスと笑いながらそう言うと、ハッとしたようにアンネさんの元に戻った。愛はアンネさんから花冠を受け取り、ユキの目の前に差し出した。


「これね、あいちゃんがつくったの!ぷぜれんとだよー!」


プレゼントと言いたかったのだろうけど、言えてない。愛が編んだものをアンネさんがまとめて冠にしてくれたようだ。ところどころほつれそうになっているが、愛が一生懸命作ったことが伝わる代物だ。

ユキはそれを見たことがないのだろう。目を輝かせながら、手に取ってじっくりと角度を変えながら隅々まで観察している。何のためのものなのか分からないようだったので、私はユキからそれを受け取って頭に乗せてあげた。頭の上に乗せられてもピンとこないのか首を傾げている。

残念ながらライドンさんの研究室には鏡なんて置いていないので、私はノートに手鏡を描いた。これは私からのプレゼントのつもりだったので、頑張って細かい模様も描き込んでみる。ハンドル付きで、先程愛が渡した花冠の材料となったシロツメクサとクローバーの模様だ。四葉のクローバーは持っていると幸せになれると言われているし、ユキの「幸」にぴったりだろう。

手鏡を渡して自分の姿を見てみるように言う。

ユキは恐る恐る覗き込んでびっくりして、愛と私に何度も何度もお礼を言いながら目を潤ませていた。私も愛も、ユキが喜んでくれたのが嬉しくてハイタッチをした。

更に、どうせなら持ち運べる方がいいと思い、コンパクト型の丸い鏡にした。丸形で、蓋を開けると上側に鏡がついていて、下側には小さな櫛が入っているものを作った。傷がつかないように鏡と櫛の間には中蓋をつけた。模様はハンドル付きの鏡と同様、シロツメクサとクローバーにした。

ユキはその二つをぎゅっと抱きしめて宝物にすると言っていた。


ユキの元気そうな姿も見られたし、プレゼントも渡せたので私たちは自室に戻ることにした。病み上がりにあまり長居しても良くないだろう。

愛はまだ遊びたいと駄々をこねたけれど、晩御飯を一緒に食べる約束をしてなんとか納得してくれた。

ちょっぴり不満げな愛と手を繋いで、ライドンさんの研究室を後にする。

ユキが目覚めたことで、これからまた皆で楽しいことがたくさん出来るようになるだろう。何をしようか考えながら、愛と繋いだ手をブンブン振って客室に向かったのだった。

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