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オリビアはしばらく黙り込んでいたが、長い時間をかけて今日起こった全てのことを把握したのか頭を抱え込んで蹲った。


「何よそれ…!?私はなんて大馬鹿者なんですの!?」


…それは否定できない。ごめん、オリビア。オリビアは恥ずかしくて堪らないようで、そのまま顔を上げることができないらしい。

私は何を言っても追い討ちをかけるような気がしてしまったので、何も言えずに気まずい思いをしている。

オリビアは今までシリウスさんとの結婚を目標にして、私やシリウスさん、アンネさんやダリアさんにまで食ってかかっていたこともあったのだ。そんなことをしていたのにも関わらず、憧れを抱いていたシリウスさんの姿は幻想だったのだ。今までの行いを思い返せばそれは恥ずかしくて堪らないだろう…。


「まぁ…本当に結婚ってなってから気付くよりは良かったんじゃないかな…?」


私は慰めにもならないであろう言葉をオリビアに言った。

元々相性も良いとは思えなかったし、万が一結婚することになっていたとしても、その後にこの事実を知ってしまったらそれこそ大惨事だ。

そうなる前に知れてよかったのではないだろうか…私のそんなフォローにもならない言葉を聞いたオリビアはゆっくりとこちらを見た。オリビアの瞳はすっかり死んだ魚のような目になってしまっていた。


「…それもそうね…。」


力なく笑うオリビアが痛々しくて見ていられない。

私はオリビアが可哀想になってしまい、頭を撫でてあげた。すると、オリビアはまた泣き始めてしまったのだ。

私はオリビアを抱きしめて背中をさすって落ち着くのを待った。








なんとか落ち着いたオリビアに、ライドンさんはハンカチを取り出して顔を拭ってやっていた。オリビアはびっくりしながらも、されるがままになっていた。もう抵抗する気力もないのだろう。ライドンさんはオリビアの前に座り込んで、ニカッと笑いながらぐしゃぐしゃとオリビアの頭を豪快に撫でた。そして、先程の研究室での事に触れ始めた。


「オリビアちゃんさ、さっきユウ達のこと、卑しい身分って言ったじゃん。」


オリビアはライドンさんを見つめながら、おずおずと頷いた。きっと自分が言った言葉が人を傷つける言葉であると分かってはいるのだろう。


「それは、オリビアちゃんの言う通りだと思うんだよ。最初見た時、ユウもユキもきったねーガキでさ。ユキは汚ねぇところで生活してたから免疫力落ちて全然目覚めないからまだ行けてないけど、兄ちゃんが綺麗にしてくれるまでユウもユキと同じような感じだった。手も足も…体中傷だらけでさ。今もまだ見えないところに痣たんまりあるんだ。

でも、それってアイツらのせいじゃないだろ?アイツら2人とも魔物遣いのスキル持ちでさ。魔物遣いはそのスキルのせいで魔物を引き寄せちまうんだよ。本来なら珍しいスキルだから重宝されるべきなんだけど、アイツらの親はそれを知らなくて、厄介払いしたくて裏通りに捨てたんだと。それで仕方なくそこで歯ぁ食いしばって生きてきたんだ。罵られて、暴力振るわれて、それでも耐えて生き抜いてきた。

そんな子供らにさ、自分の汚点だと思ってた部分がそうじゃなかったって気付かせてやるのって悪いことかな。

アイツらに正しく生きていくチャンスを与えるのもいけないことなのか?」


ライドンさんはオリビアに優しい目を向けながら、諭すようにゆっくりと丁寧に語りかけた。オリビアはグッと拳を握りしめて首を左右に振っている。

私は2人の様子を黙って見つめていた。研究室では感情的になっていたライドンさんも今は落ち着いて話せているし、オリビアもちゃんと内容を受け止めていて真剣に聞いてくれている。


「俺も兄ちゃんも、アイツらをちゃんと家族として育てていこうって思ってるけど、実際自信満々ってわけじゃないんだよね。だからさ、よかったらオリビアちゃんも手伝ってよ。アイツらをどこに出しても恥ずかしくないような立派な人間にしてやれるように。」


「…私なんかに出来ることあるのかしら。」


「そりゃ、そんだけ厳しい目があれば大丈夫だろ。」


ライドンさんがそうあっさりと言ったので私は思わず吹き出してしまった。


「確かにそうだわ!オリビア程の適任者はいないよ!」


私もライドンさんも笑ってそういうと、オリビアは目をパチパチさせた後で釣られたようにクスクスと笑い始めた。


「それなら…やっぱりやってみようかしら。お父様もなんとか説得してみるわ。まだ魔術師団にいられるように。それから、あの子にも謝らなくっちゃね。」


オリビアはどこかスッキリしたような顔をして笑っていた。今まで見たどのオリビアよりも輝いて見える。

私はオリビアに元気が戻ったようで安心した。ライドンさんは私とオリビアに向かって両手を差し出してきたので、握手かと思って握ったら違うと言われた。どうやら立つ手助けをしてくれようとしたらしい。オリビアは分かっていたらしく、呆れたようにこちらを見ていた。うん、やっぱりオリビアはオリビアだ。

私とオリビアはライドンさんの手に、自分の手を乗せてベンチから立ち上がる。私達3人は、グーっと背伸びをして、きっと怒っているであろうシリウスさんの待つ客室へ向かったのだった。








先に食事を始めていたシリウスさんはこれでもかというくらい不機嫌なオーラを漂わせていた。子供達も気を遣う程の機嫌の悪さに呆れてしまう。

今では憧れフィルターを通してシリウスさんを眺めていたオリビアだったが、今はそのフィルターは粉々に崩れ去ってしまっているので、現在のシリウスさんの大人気なさにがっかりしたようだ。

そんなシリウスさんを一旦無視してオリビアはユウの元へと行き、跪いた。

ユウは怯えたように身を引いて、ライドンさんに助けを求める視線を送る。

ライドンさんは柔らかく笑って頷いた。


「ユウ、さっきはごめんなさい。私はあなたに対して失礼なことを言ったわ。…でもね、悲しいけれど私と同じようなことを言う人はこの世の中に沢山いるの。あなたにはそれが痛い程分かってるわよね。」


オリビアは泣き腫らした目で真っ直ぐにユウを見つめて話し出した。ユウは怯えていたが、オリビアの話を聞いていくうちに憤りを感じたのか、どんどん険しい顔になっていく。

そんなユウの手に、オリビアは自分の手を重ねた。


「だから、さっきのお詫びってわけでは無いけれど…私があなたに色々教えるわ。もう、誰にも文句は言わせない。それくらい立派にマナーを身につけて、胸を張って生きていけるように、私が教える。」


「え…。」


「私にあなたが生きていくお手伝いをさせて欲しいの。」


ユウは思いがけない言葉にびっくりして口をあんぐりと開けている。

オリビアはユウの手をギュッと握りしめていて、少し震えているように見えた。握りしめられた手を見つめた後に、ユウが迷っているような視線をライドンさんに送っている。

先程、ユウは怖い思いをしただろう。オリビアの言葉に深く傷つけられただろう。もしかしたらオリビアの申し出を簡単には受け入れられないかもしれない。

ライドンさんはそんなユウの気持ちを分かっているのか、ただ優しく微笑むだけだ。

ユウはしばらく考える素振りを見せ、最後にはゆっくりと頷き、オリビアを受け入れたのだった。オリビアはホッとしたように微笑んだ。


「私は認めませんよ〜。」


ここぞとばかりに不機嫌大魔王が口を挟む。優雅に昼食を食べている姿の後ろに禍々しいオーラが見えるようだ。

大魔王に立ち向かうべく、私とライドンさんの攻撃が始まる。


「それがさーオリビアちゃんの視点とかって案外一般的な目線なんじゃ無いかって気付いたんだよねー、ヒカリ様。」


「そうなの。だから、オリビアの意見を取り入れていけば、周りから文句を言われることもなくなるんじゃ無いかって思って。だったら先生してもらうついでに研究にもアドバイスしてあるもらおうかなって思ったんですよねー、ライドンさん。」


「そうそうー魔物についても、結構鋭い視点を持っててねー。それが2年前のことが関係してるっぽくてねー!」


「ねー!」


私とライドンさんは顔を見合わせて仲良く首を倒した。

その様子にイラッとしたのか、禍々しいオーラはぶわっと増えたように感じたが、2年前という言葉を聞いてハッとしたようだ。


「…2年前…?」


「そうそう、2年前の宝石大好き魔物の事件のお店にいたんだよねー、オリビアちゃん。」


そのことを伝えると、ダリアさんは青い顔をしてシリウスさんを睨みつけ、シリウスさんはバツの悪そうな顔をした。よし、もう一息。


「その時から魔物に対して恐怖心があるみたいでね。今回のスライムの養殖をする上でそういう意見も予め聞いておくのって、続けていくのに重要になっていくんじゃ無いかなーって。ねー、ヒカリ様ー?」


「ねー、ライドンさーん?」


私達が追い討ちをかけるようにそういうと、シリウスさんは苦虫を噛み潰したような顔をした。自分のやったことのツケがこんなところで回ってくるとは思わなかったのだろう。

オリビアはそんなシリウスさんの様子を不安そうに見ていた。ここでシリウスさんが納得してくれなければ、オリビアは親を説得する材料がなくなってしまうのだから、気が気でないだろう。

シリウスさんは近くにあったグラスの水を一気に飲み干して呼吸を整えた。


「…迷惑をかけたら即クビにします…」


絞り出すような声でシリウスさんはそう言った。

私とライドンさんの勝利だ。私とライドンさんは喜びのハイタッチをした。オリビアも安心したようだ。そのまま立ち上がり、周りを見渡してから頭を下げた。


「今まで皆様には大変なご迷惑をお掛けしましたわ。申し訳ありませんでした。今後一切、シリウス様に言い寄るような事は致しません。教師として、皆様のお力になれるよう精一杯努力していきますわ。」


若干恨みのような物を感じるが、オリビアはハッキリとそう宣言し、清々しい表情で笑っていた。



読んでいただきありがとうございます!

評価、ブックマーク、感想、レビューも喜んでおります!

誤字報告もありがとうございます!!


今までの投稿文で、「王妃様」が出てきているのですが、よくよく調べてみたら「王后様」の方が適切だと分かりました。

勉強不足ですみません。徐々にではありますが、「王后様」に変更していきます。申し訳ありません。

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