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ダリアさんは半分近くのじゃがいもをスライスしてくれていた。素晴らしい速さだ。流石に疲れただろうと思い、私とアンネさんが交代し、ダリアさんにはクッキーの焼き具合を見ててもらうことにした。ダリアさんの横では愛がまだかまだかと窯を覗いたり、私たちの方を見たりと忙しそうにしている。


ちょうどクッキーが焼き上がった頃に、じゃがいものスライスが終わった。私もアンネさんも少し汗をかいてしまった。

一度じゃがいもを水に晒す必要があるので、焼き立てのクッキーを少しつまんで休憩した。

10分ほど水にさらしたあと、キッチンペーパーでうんざりする量のじゃがいもの水を拭きとった。後半は雑になってしまったがきっと大丈夫だろう。随分と大量のキッチンペーパーをスキルで出すことになってしまった。

しかし、そこまで終わればもう簡単で、色がついてカリッとするまで揚げれば出来上がりだ。網の上に置いて油を切り、塩をかけたら出来上がりだ。


ポテチが完成する頃にはもうへとへとになってしまったが、満足いく物が作れたと思う。

私たちはみんなでその場で食べることにした。望の分は塩は少なめだ。

私と愛は久しぶりに食べるその味に感動して、手が止まらない。

ダリアさんとアンネさんも気に入ってくれたのかパクパクと食べ進めている。危うく大量のポテチを食べ切ってしまうところだったので、厨房に持っていく分は先に避けておいた。それから、ポテチとクッキーをライドンさんとユウにも差し入れようと思い、その分も用意した。


アンネさんはポテチを随分と気に入ったようで、家でも作ると意気込み、上機嫌で片付けを引き受けてくれた。

ダリアさんは厨房にポテチの差し入れをしに行ってくれるそうなので、私と愛と望みはライドンさんのところに差し入れに行くことにした。

愛も望と一緒にキャリーワゴンに入れて第一部隊を散歩しながら、環境部へ向かった。








「らいどん、おみあげ!」


愛はライドンさんに会うと早速お土産を渡していた。望はキャリーワゴンの中からライドンさんに手を伸ばして抱っこをせがんでいる。ライドンさんの抱っこはすっかり望のお気に入りだ。

ライドンさんはニコニコしながらお土産を受け取り、望を抱き上げた。

部屋の奥に案内してもらうと、緊張した面持ちのユウがちょこんと座っていた。愛にユウのことを説明しておくのをすっかり忘れていたので、愛はびっくりしてしまったようだ。私の後ろに隠れてしまった。


「ユウ、こんにちは。昨日は眠れた?」


私は愛と手を繋ぎながらユウに近づいたら。ユウは緊張したまま、こくんと頷いていた。私はホッとして、愛にユウの分のお土産を渡すように促した。愛も緊張した様子でお土産をパッと渡す。

ユウはびっくりし、不思議そうにお菓子を見つめている。


「さっきみんなで作ったの。甘いほうがクッキーで、しょっぱいのがポテトチップス。両方とも美味しくできたからお裾分け!」


「…食べ物?」


「そうだよ。食べてごらん?」


ユウは渡された物がなんなのか分からなかったらしい。食べるのも躊躇しているようだったが、もらった瞬間にバクバク食べていたライドンさんを見て遠慮がちに食べ始めた。

すると、パァッと表情が明るくなり、勢いよく食べ始めた。

その食べっぷりに笑ってしまう。


「おいしい?」


愛が嬉しそうに聞くと、ユウはブンブンと頷いた。

それをきっかけに愛はユウへの警戒心が解けたようで近付いて一方的に話しかけている。

私は微笑ましくその様子を見ながら、ライドンさんに状況を聞いてみた。


「ライドンさん、その後どう?」


「ああ、まだ熱は下がってないっぽい。でもジェーンさんに診てもらったから随分楽になったはず。」


あんな環境に長く住んでいたから免疫力が下がってしまっているのだろう。早く良くなればいいと思う。


「名前考えるのに性別知っておきたいんですけど、分かります?」


「女の子だってさ。」


女の子かぁ…

私は名前を考えるのに、ユウに聞いておきたいことがあった。

私は戸惑いながらも愛の相手をしてくれているユウのところへ行った。ユウはクッキーとポテチを既に食べ終えていて、愛は満足げにそれをアピールしてきた。

私は愛とユウの頭を撫でて隣に座った。


「ユウはあの子にどんな風になってほしい?」


「どんな風に?」


ユウはここに来る前に少しではあったが一緒に過ごしたときに、性格の一部を知ることができたのでそこから名前を付けた。しかし、もう1人の子はまだ会話もできていないし、動く姿を見ることさえできていなかった。なので、候補が無限に出てきてしまう。

そこで、ずっと一緒に過ごしていたユウにどのような名前がいいかヒントをもらおうと思ったのだ。


「優しい子とか、明るい子とか…」


ユウは腕を組んでしばらく考え込んでいたが、ふと思いついたように呟いた。


「…しあわせに…幸せになってほしい。」


私はその言葉に頷くことしかできなかった。ありきたりな願いかもしれないが、彼らの生い立ちを思うと、それがどれほどに重い言葉なのかと胸が締め付けられたからだ。


「だとしたら、名前は決まりかな…」


私はノートに『幸』の字を書いた。


「これは私たちの国で、幸せっていう意味の感じなのね。読み方はしあわせの他に、幸運のコウ、とか、サチ、ユキ、ミユキとかそういう感じだけど…」


「ユキがいいんじゃないか?ユウとユキで。」


ライドンさんがクッキーとポテチを食べながら参戦した。ユウも顔を赤くして嬉しそうにしている。


「じゃぁ、ユキにしようか。幸せになれますようにって願いを込めて。」


「うん!」


思ったよりも早くに名前が決まってしまったが、皆で考えた名前だ。きっと喜んでくれると思う。

お土産も渡したし、名前も決まったので私たちは満足して客室に戻ることにした。

ユキが目覚めたら知らせてもらうように頼んで、私たちはライドンさんの部屋を出た。






客室にはアンネさんもダリアさんも先に帰ってきていた。2人とも何故か疲れた顔をしていた。お菓子作りや片付けによっぽど疲れてしまったのかと思ったら、厨房にポテチを持っていってひと騒動あり、その後シリウスさんに差し入れてひと騒動あり…その対応をしてくれてたそうだ。

厨房ではポテチを皆気に入ってくれたようで争奪戦になり、シリウスさんは自分もやりたかったと拗ねてしまったそうだ…いい大人を相手に宥めるのは苦労したようで2人で一緒にため息をついていた。

読んでいただき、ありがとうございました!

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これからも頑張りますー!

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