お休み満喫してみた
まだ空が明るくなり始めたばかりの頃だったと思う。
私は耳元で大声で呼ばれた。
「ママー!おなかすいたってば!」
何度も何度も声をかけたようで、愛は少し怒りながら大きな声で私のことを起こした。
私はぼんやりしながら目を開けると、愛の姿を見て頭を撫でた。誤魔化してもう一度寝ようと思ったが、昨日あったことを思い出して飛び起きた。
「愛!?大丈夫なの!?何処か調子悪くない!?」
体をペタペタ触ったり、背中やお腹を見たり、口の中を覗いたりしたが、どこも異常はない。愛はくすぐったそうに身を捩って笑っている。私はその姿に胸がいっぱいになり、ぎゅうぎゅうと抱きしめた。よかった、本当によかった。喜びを噛み締める私とは対照的に、愛は早くご飯が食べたくて仕方がないようだ。
そうは言っても何もないし、アンネさん達もまだ来ていない。本当はやりたくなかったが、仕方なくスキルを使っておにぎりを一つ出して食べさせた。
こないだライドンさんも食べてたから大丈夫だろう…。
まだ食べたいと言うが、アンネさん達が朝ごはんを用意してくれるだろうからそれまで待つように伝える。
昨日からほぼ一日眠っていたので、私は愛をお風呂に入れようとお風呂の準備をし始める。
暖かいお湯が湯船に溜まっていくのを眺めながら、私は昨日起きたことについてどう説明しようか悩んでいた。
そもそもどこまで覚えているのか分からないから、そこを確認するところから始めなくてはならない。
アランさんが大きな傷を負ったのを見ていただろうから、正直なところそこは覚えていてほしくはない。怖い思いをしたに違いないから、改めて聞くのも躊躇ってしまう。
しかし、今きちんと説明しておかないと今後同じようなことがあった時に、またスキルを発動してしまうかもしれない。そのことを考えるとしっかりと話さなければならない。
そんなことを考えていたらいつの間にかお湯が溜まったので、愛を呼んで服を脱がせる。その時にしっかり確認して、どこにも傷や痣がないことを改めて確認して安心する。
私も濡れてしまうので服を脱いで一緒にお風呂に入ることにした。
朝風呂なんて贅沢なこと久しぶりだ。
朝の寒さで冷やされた肌にお湯の温かさがじんわりと広がる。
愛も気持ちいいのか、ぽけーっとしている。
私は迷いながらも昨日のことに触れることにした。
「愛ちゃん、昨日のこと覚えてる?」
「おにいさん、けがした?」
「そう…。」
しっかりと覚えていたようで、ハッキリとした口調で愛は答えた。
「その後、愛ちゃん何したか覚えてる?」
「…いたいいたいよとんでけした。」
愛は少し申し訳なさそうにそう答えた。ミルドレッドさんや私とした約束を思い出したのだろう。
私は愛を膝の上に乗せて、濡れて顔に張り付いてしまった髪を避けながら慎重に話をする。
「愛ちゃん、あのお兄さん…アランさんってお名前なんだけど、シリウスさんの弟なんだって。」
「おとーと?」
「そう、愛ちゃんとのんちゃんみたいな家族。愛ちゃんは、すぐにアランさんを助けられて、勇気があって、とてもかっこよかったよ。」
「あいちゃん、いいこ?」
愛がした行為は部分的に見れば賞賛に値するものだろう。反射的に人を助けたのだから、親バカかもしれないけれど、とてもいい子に育ってくれている。その優しい気持ちは否定したくない。だから、まずは良いところは誉めてあげた。それに先程の様子から本人が反省していることも分かったので、あえて強く怒る必要もないと感じた。私はキツい言葉を使わないように気をつけながら話を進める。
「うん、とっても素敵だった。だけどね、愛ちゃん、ミルドレッドさんとママとしたお約束忘れちゃったかな?」
「…とんでけしちゃだめ。」
「そうだったよね。なんでか分かるかな?」
「…あいちゃん、ねんねしちゃった。」
「うん、愛ちゃんの具合が悪くなっちゃったよね。ママ、すごく心配したよ。ママだけじゃなくて、ミルドレッドさんも、イーサンさんも、シリウスさんも、アンネさんもダリアさんも、みーんな心配した。悲しかったよ。」
愛はちょっと泣きそうになりながらもちゃんと話を聞いてくれている。話の内容も理解できているようだ。
「愛ちゃんはとーっても優しいから、きっとこれからも誰かが痛い痛いってしてたら助けてあげたくなると思うの。」
「…でもしちゃだめ。」
「うん、今はやらないほうがいいね。でもね、その助けたい気持ちはだめじゃないんだよ。だから、ママと一緒に練習しようか。」
「れんしゅう?」
「そう。愛ちゃんが、困ってる人を助ける練習。どれくらいの怪我なら、とんでけーってできるかママ知りたいんだ。」
魔力がどれ程あるのかという説明をしても難しくて分からないだろうから、なんとか噛み砕いて話してみる。愛は黙って話を聞いている。
「愛ちゃんがまた眠い〜ってなっちゃうとママも悲しくなっちゃうから、そうならないように練習してみよう。できる?」
「ん、やる!」
愛は顔をぱぁっと明るくさせて頷いた。随分と約束を破ってしまったことを気にしていたようだ。
スキルの使い方を知る訓練が、どれ程愛にとって負担になるか分からないが、自分を守るためにもしっかりと取り組んでもらえるように私もサポートしなくてはならない。
心配でつい口を出しすぎてしまいそうだが、シリウスさん達のような専門家の意見も聞きながら、愛にとっていい方法を見つけられたらいいと思う。
随分と長くお風呂に入っていたようで、アンネさん達が朝ごはんの準備をし始めようとしていた。
アンネさんは愛が元気にしている様子を見て、目に涙を浮かべながら愛を抱き締めた。
このところアンネさんをたくさん泣かせてしまっているし、ダリアさんにも心配させてしまっていて胸が痛い。
今度アンネさんやダリアにもきちんとお休みを取ってもらおうと決意した。
朝ごはんは病み上がりの愛にも食べやすいように、柔らかい物や果物をたくさん用意してくれた。愛は嬉しそうに食べている。私は望を起こしてきて、ご飯を食べさせながら、自分もいただく。特に果物は美味しくて、3人でぺろりと食べ終えてしまったのだった。
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