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とても気になる発言をシリウスさんがしていたが、正直それどころではない。

ライドンさんには元気がない子を任せて、私は元気な子に説明をし始める。


「ここは魔術師団で、色々な研究をするところ。私達はここで働いている人間です。私の名前はヒカリ、今あなたの家族を治療しているのはライドンさん、あっちのちょっとよく分からない人はシリウスさんです。あなたたちは?」


「…わかんない。あいつは兄ちゃんって呼んでる。俺はチビって呼んでる。」


自分たちの名前が分からないということは早い段階で親と別れているのだろう。よくここまで大きくなってくれたと思う。

私は泣きそうになりながら話を続けた。


「ここに来たから、ある程度ちゃんとした治療は受けられるから安心して。とりあえず君は綺麗にしてもらおう。」


本当ならばお風呂に入れてあげたいところだが、きっとここから離れたくはないだろうと思ったので、シリウスさんに洗浄魔法をかけてもらった。

服は相変わらずヨレヨレだけど、体の汚れが綺麗になっただけで、随分と見違えた。とても綺麗な子だ。

私は伸び切ったままの髪を頭の上でまとめて縛ってあげた。


「じゃぁ、お兄ちゃん。あの子はあなたの兄弟なの?」


「…違う。俺たち、2人とも魔物に囲まれやすいから一緒にいるだけ。」


「そっか…。」


今までどれだけ怖い思いをしてきたのだろうか。私は思わず抱きしめてしまった。突然のことに驚いたのか、少年は腕の中で硬直している。


「こっちはとりあえず傷は塞いだ。傷は炎症起こしてないから破傷風ではなさそうだよ。多分風邪拗らせてるんだと思うから、休んで栄養ある物食べさせてあげれば大丈夫だよ。」


ライドンさんがそう言ってくれて、少年は随分と安心したのか、またポロポロと泣き始めてしまった。私が抱きしめながら背中をさすってあげると、グッと背中に手を回してしがみついてきた。こんな小さい体でどれだけの思いをしてきたのだろう。


「そんで、お土産ってどういう意味?」


ライドンさんは腕を組んでシリウスさんに問いかける。私もそれは気になっていた。魔物使いって何?


「この子供たちが住んでるところにスライムがいたんですよ〜しかも群れで。通常スライムは人の近くに寄らないんですけど、ある特定のスキルを持っていれば共生が可能なんですよね〜そのスキルが魔物遣いです〜。」


「で?」


私とライドンさんは首を傾げる。一体なんの話をしているのか分からない。

少年も同じように何を言っているのか分からないようだった。

シリウスさんはこれだけ話しても分からないのか?という蔑む目をしている。う、ごめんなさい。


「だから、スライムの養殖なさるのでしょ〜?これ以上ない逸材だと思うんですけど〜。スライムもさっきのところから連れてくればいいじゃないですか〜。」


「ああーーーー!!なるほど!!」


確かに、この子達の能力を使ってもらえれば難なくスタートさせられる。

それに単純に保護して育てるってだけじゃなくて、仕事を任せることで生活する為のお金を自分で稼がせることができる。直接金銭を渡すのは危険なのでお小遣い制にして、残りは大人になった時まで貯金してあげようと1人でわくわくしていた。

しかし、勝手に子供達の生活を変えるわけにはいかない。チラリとライドンさんを見ると、任せとけ!というようにニカッと笑った。

ライドンさんはしゃがみこんで私の腕の中にいる少年に話しかけた。


「突然ごめんなー?俺、ライドン。よろしく。」


少年はこくんと頷いた。


「俺、魔物の研究しててさ。そこのヒカリ様がスライム使って物を作りたいんだって。だけど、俺たちだけじゃスライム育てられないから、君たちに手伝って欲しいんだ。」


「俺たちに…?」


「そう。君たちじゃないとできないことなんだ。」


ライドンさんの話を聞きながら困惑しているようだ。

突然連れてこられてそんなこと言われても理解できないのも当然だろう。しかしライドンさんは話を続けていった。


「ここなら寒さに凍えることも、食べるものがないってことも…大人に殴られたりすることもない。」


私はライドンさんの言葉に拳を握りしめた。そうだろうとは思っていたけれど、ビクリと肩を震わせた少年の反応で虐待を受けていたという確証を得た。体に残る痣から推測するに、不特定多数から暴力をふるわれていたに違いない。

少年は私たちの顔を順番に見て、下を向いてしまった。


「でも、俺魔物呼んじゃうから…」


「なんだ、それなら俺対処法分かるし、教えてやるよ。そしたら自分たちで撃退もできるだろ?」


「迷惑かかるだろ…」


「あー大丈夫、大丈夫。もっとすごい迷惑かけるやついるから!!」


私はシリウスさんをチラリと見ると、咳払いをされてしまったので目を逸らす。少年は驚いたようにライドンさんを見つめると、こくんと頷いてくれたのだった。

私とライドンさんはハイタッチして喜んだ。子供も保護できたし、人員の確保、スライムの確保までできちゃうなんて!ライドンさんは小躍りまで始めてしまった。


「じゃぁ、ライドンこれからよろしくお願いしますね〜今日からあなたがこの子達の親です。正式な手続きが必要なら言ってくださいね〜書類用意しますから〜。」


「え。」


私達は驚いてシリウスさんを見たが当然だろうと言わんばかりの顔だ。てっきり私が引き取るのかと思っていた。


「私の子になるんじゃないの?」


「本当はヒカリ様の方が適任だと思うんですけどね〜魔物の対処ができないでしょ〜?」


確かにそれを考えると私では不十分だ。しかしライドンさんに子育てできるか不安に思う。


「ま、いっか。じゃぁ、俺の子供ってことで。」


ライドンさんは思いの外すんなりと受け入れていて、それが余計に不安を煽る。大丈夫なのかな…

ライドンさんは少年の脇に手を差し込んで高い高いするように持ち上げ、抱っこしてあげた。

少年はビックリしてライドンさんにしがみつく。ライドンさんはいたずらっ子のように笑った。


「じゃぁ名前決めよう!」


「名前…?」


「何がいい?」


それを本人に聞くんかい。

せっかく落ち着いたのに少年はまた困った顔をしてしまった。

ライドンさんは必死に考えている。


「ポチ!ポチは?」


「ダメに決まってんだろ!!」


それ犬につける名前でしょ!?ライドンさんに任せておけそうにないので、私が考えることにする。

少年の顔をじっと見つめ、先程までの出来事を思い出す。

小さい子を守るために私たちに立ち向かった勇敢な姿、小さい子を思いやる優しい気持ち。


「ユウは?」


「ユウ?」


私はノートに『勇』の文字と『優』の文字を書いた。

『勇』は勇気や勇ましいという意味があり、『優』には優しいという意味があることを説明した。そして、どちらもユウと読むことも伝える。


「私から見たあなたは勇敢で優しい子だと思ったの。だから、ユウって名前はどうかな。」


少年、改めユウは恥ずかしそうに頷いてくれた。ライドンさんも大喜びだ。何度も何度も名前を呼んでいる。

シリウスさんはその様子を目を細めて見ていた。


「俺!兄ちゃんに見せてくる!あ、でもスライムとりにもいかなきゃ!どうしよう!?」


興奮のあまりいつもよりも知能が低下しているライドンさんを嗜めて、まずはミルドレッドさんに報告に行かなくてはならない。また怒られる気がしているが、許可を取りに行くことになったのだ。


読んでいただき、ありがとうございます!

評価、ブックマーク、感想、レビューも喜んでおります!

誤字報告も助かってます!


今後ともよろしくお願いします!

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