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痛みはないが、魔石を入れたところがジンジンと熱いような気がしたので、鏡を借りて顔と口の中を見てみる。


「やっぱり顔は腫れましたね…」


「そりゃ、そんだけやりゃ腫れもするさ。」


ミルドレッドさんは呆れたように言った。他の人はきっと悲しい顔をしているだろうから見ない。罪悪感でいっぱいになるから。

食事も終えたので早速GPSとして使えるかどうか試してみることにする。

私はミルドレッドさんと一緒に魔術師団のどこかへ向かう。シリウスさんには魔力を通してどこにいるか探してもらい、転移魔法でその場に来てもらうという方法だ。まず最初は10分移動し、次は20分、30分と言ったように少しずつ時間の経過と距離を変えて試してみることになった。


まず私とミルドレッドさんが向かったのは第一部隊の環境部だった。環境の中でも人体と魔術の研究を行なっている班に連れてこられた。

何をするのかと思えば、魔石をはめ込んだので診てもらうそうだ。


「ヒカリ様!?その…それ!どうしたんですか!?何かありましたか!?」


ぴっちりと七三分けにしているメガネのお兄さんが顔を青くしてオロオロしている。ミルドレッドさんが第二部隊で起こったことを説明し、歯を抜いて魔石を嵌め込んだことを伝えた。


「あんたら馬鹿ですか!?馬鹿ですよね!信じられない!!」


速攻でお兄さんに指差されて怒られました。

ものすごく怒りながら、抜いた歯と口の中を観察してメモを取っている。

なんやかんや興味はあるようだ。

ミルドレッドさんは使用した魔石の種類や魔石の歯を形成した人などの細く説明をしつつ、そのメモをチェックしている。


「ヒカリ様はともかく、団長は知識をお持ちなんですから慎重に事を進めて頂かないと、万が一何かあった時はどうするおつもりなんですか?」


「なんとかするさ。」


「そういうことじゃないでしょう!?」


いやー、第一部隊の人たちって本当こういうことに振り回されて可哀想だなと他人事のように思った。

お兄さんは怒りながらも私の頬に触れて治癒魔法をかけてくれた。元々痛みはなかったが、腫れが随分と引いて話しやすくなった。他に吐き気や頭痛がなどの症状がないかも聞いてくれた。今のところなんの問題もない。腫れさえ引いてしまえば完全にいつも通りになった。


「すみません。早急になんとかしたかったので…」


私が謝ると、ムッとしたりしょんぼりしたりと表情がコロコロと変わる。

何を言おうか迷っている様子だったが、深呼吸をして、こちらを真っ直ぐに見つめてきた。


「ヒカリ様、焦ってしまう気持ちお察しします。しかしながら、現在ヒカリ様がどれほどの魔力を持っているのか、どのような健康状態なのか全く分かっていません。そのような状態で無理をなさることはお勧めできませんよ。」


それはそうだと思う。もしかしたら顔の腫れだけでは済まされなかった可能性だってあった。私も考え無しにやった自覚はある。とりあえず謝罪した。

私のとりあえず謝っておこうというのが伝わってしまったのか、お兄さんは深くため息をつきながら今分かる状態について説明してくれる。


「…現在魔石には隊長の魔力は確実に込められております。いい魔石を使ってはいますが、歯の大きさなので普通の魔石よりも小さいですから、込められる魔力も限られます。なので、その魔力を発動してもしなくても週に1度は魔力を込め直しておいた方が無難でしょう。」


「分かりました。」


「ノア、この歯のことは極秘で頼むよ。周りに知られてしまったら意味がないからね。」


現段階で第二部隊についての疑いがはれたわけではない。もし、私の歯に居場所が分かる機能が付いていたと分かれば、アクセサリー同様歯も抜かれてしまう可能性がある。その為、秘密にしておく必要があるのだ。

ノアと呼ばれたお兄さんは眉を顰めて頷いた。

とりあえず、このままGPSとして機能するかどうか、シリウスさんがやってくるまで待機させてもらうとことなり、研究に必要な内容の質疑応答をしながら過ごした。






「あっつ!!!」


急に口の中が熱くなり、思わず大声を上げてしまう。

熱いというか痛い。ピンポイントで針を刺されてるような鋭い痛みが走り、うずくまってしまった。

ノアさんは慌てて駆け寄ってきて背中をさすってくれているが、ミルドレッドさんは眉を顰めるだけで冷静だ。

あまりの痛さに冷や汗をかいていると、転移魔法で怖い顔のシリウスさんが登場した。

すると急に痛みは引いたが、呼吸を整えるのにいっぱいいっぱいだ。


「…見つけましたよ〜。」


そう言ってシリウスさんは私の腕を引いて立ち上がらせた。あまりの痛さに血の気が引いてしまった私は立ちくらみが起こってしまって、シリウスさんの腕をグッと掴んだ。


「シリウス、魔力込めすぎだ。もっと加減しな。」


「すみませ〜ん。ちょっと気が急いてしまって〜。」


ヘラヘラとしながらそう言うシリウスさんをミルドレッドさんは睨みつけた。ノアさんは不快感を隠そうともしていない。


「やはり無茶です!あまりにも歯髄に近いところで魔術の展開をすれば当然痛みを伴います!」


「…だそうだが、どうする?」


ミルドレッドさんは片眉を上げて私の方を向いた。私は口を閉じることも出来なくなったが、首を横に振ってまだ続ける意思を伝えた。

ノアさんは必死に止めてくるが、そう言うわけにもいかない。


「…次はお手柔らかにお願いひまふね。」


シリウスさんを掴んだ手に更に力を加えてシリウスさんを見る。シリウスさんは悲痛な面持ちながら頷いてくれた。

私はノアさんにお礼を言うと、ミルドレッドさんに手を引かれながらその場を後にする。シリウスさんはノアさんに先程はどの程度の力で場所の探知をしたのか説明するそうだ。








「大丈夫かい?」


ミルドレッドさんはこちらを見ないままそう聞いてきた。もう痛みもだいぶ引いたので、大丈夫だと伝えたが、うまく喋れなかった。また頬が腫れてしまったようだ。

次に向かったのは第三部隊の衣装部だった。パーティーの日程が決まったそうで、チャーリーさんとアイリスさんとマリーさんにそのことを伝えに行くそうだ。

私も聞いていなかったのでその場で聞くことになった。

チャーリーさん達はやはり私の顔を見て驚いたが、ミルドレッドさんになんでもないと言われたのでそれ以上聞くことはしなかったが、心配そうな顔をしていた。


パーティーは2ヶ月後に決まったらしい。思っていたよりも先に決まってほっとする。それまでに色々準備できる。

しかし、すでにアイリスさんとマリーさんは2人で相談しながらいくつかデザインを描いてくれていたようだ。

以前チャーリーさんと話していた時に、中性的なものにするか、男女の良いところを詰め込んだものにするかと話していたが、今回は華やかさを重視すると言うことで後者のイメージでデザインしてくれたそうだ。


「私たちのお勧めはこれね。」


チャーリーさんが指差したデザインは男性のシャツと女性のドレスを組み合わせたような形をしている。

首元はシャツっぽいが、袖がない。首元にはフリフリしたジャボという胸飾りが付けられている。パッと見た感じではシャツには見えず、アメリカンスリーブに近い形だ。

シャツの上には胸元がハートカットになったドレスがついており、シルエットはマーメードドレスだ。スカート部分の真ん中に大きなスリットが入っていてそこからズボンを履いた足が見えるようになっている。


「これで、襟元とレースとズボンは白、ドレス部分は赤にしようと思うんですけどどうでしょうか?」


「…これわたし着こなせますかね…?」


紅白歌合戦もびっくりの攻めた衣装に私もびっくりしてしまう。

特にマーメイドタイプのドレスは身長が高くてすらっとした人しか似合わない印象だ。私とは全く違う。

しかし、チャーリーさんが大丈夫だと言うなら大丈夫だろうと思い、とりあえずそれで作ってもらおうとお願いする。そんな話をしているとまた口の中が暖かくなった。今度は痛みはない。

先程同様シリウスさんが転移魔法で現れた。シリウスさんは痛がっていない私を見て少しホッとしたようだった。

急に現れたシリウスさんにチャーリーさん達は驚いて壁際に逃げている。


「アンタなんなのよ!?」


「あたしが来るように言ったんだよ。」


シリウスさんが口を滑らせないようにミルドレッドさんが先に答える。チャーリーさんは鋭いので、きっと何かをやろうとしているということは分かっているのだろう。険しい顔をしながらも口を継ぐんだ。

シリウスさんは私が見ていたドレスの図案を見ながら考え込んでいる。


「…赤ではなく青ですね〜。」


「何が?」


「いや〜ヒカリ様は青がお似合いですので、このドレス青にしてくださいね〜。」


「はぁ?」


チャーリーさんとミルドレッドさんの声が見事にシンクロする。表情も何言ってんだコイツ感がすごい滲み出てる。私もそう思っている。なんでシリウスさんにドレスの色決められてんの。


「いいですね、チャーリー。青ですよ、青。青はヒカリ様の色なので〜。」


シリウスさんはいい笑顔でチャーリーさんに念押しした。アイリスさんとマリーさんは困惑している。

チャーリーさんは珍獣を見たような顔をしていたが、何か思いついたのか急にニヤッとし出した。


「ああ、青い薔薇ね。」


その言葉を聞いてますますミルドレッドさんとアイリスさんとマリーさんは困惑した顔になり、シリウスさんは顔を赤くして、私はげんなりした。

もういつまでその話引っ張んの。

シリウスさんはこほんと咳払いをして、いいから青にするようにと伝えて部屋を出て行った。

ミルドレッドさんも首を傾げたが、チャーリーさん達にドレスのことは頼んでシリウスさんに続いた。

チャーリーさんはお茶目にウインクをしていたので、私は嫌な予感しかしなかったが知らんぷりして部屋を出た。




「今回はちょうど良さそうだった。」


「光栄です〜。」


ミルドレッドさんは先ほどの私の表情から痛みがないことが分かったようでそれを伝えていた。10分、20分とやってみたが、どちらも無事に私の居場所は分かったようだ。

次は30分だ。

シリウスさんとは一旦別れて、また私はミルドレッドさんに連れられて次の場所に向かった。








「これは反則では?」


私はミルドレッドさんと馬車に乗っている。魔術師団の中というルールのはずだったのに私たちはなぜ街に出かけているのか。


「どうせ今日のあたしの仕事はあんたの護衛になっちまったんだ。だったらあんたの行きたいところに連れて行ってやった方が効率的だろ?」


意地悪な笑みがよく似合う人だよ、本当。

実際問題、第二部隊の疑いが晴れないままでは街に出かけるのは難しかっただろう。だから連れてきてくれたのかもしれない。

私達は馬車を降りて軽く散歩をしながら街を見ることにした。

オシャレな店が並んでいるが、怖くて入れなかったので、そこから更に進んだところの屋台を見ることにした。

果物や野菜が置いてあったり、料理が並んでいたり、雑貨があったり…まるでお祭りにでも来たような感じだ。


「…愛ちゃんも連れてきてあげたかったなぁ…」


きっと一緒にいたら愛は目を輝かせていただろう。まだ眠っているであろう娘に想いを馳せて胸が痛む。

ミルドレッドさんは黙って背中を叩き、歩みを進める。

屋台を見ていて気付いたことがある。


「なんで値段が書いてないんですか?」


「ん?そりゃ書いたって分からないからだろうよ。」


「え?どういう意味ですか?」


「だから、文字が読めないやつもいるだろ。」


「…この国の識字率ってどれくらいなんですか?」


「難しい言葉知ってんだねぇ。大体6、7割ってところじゃないかい?」


衝撃で口をあんぐりと開けてしまった。つまり、残りの3、4割の人は文字が読めないというわけだ。

屋台で売っている物の値段は安価のものが多いそうで、学校へ行く余裕がない家庭の人もよく買い物に来るそうなのだ。だから値段を書かずに、聞いてもらうようになっているらしい。

学校に通うのは自由だと聞いてはいたが、文字が読めない人がいるというところまで考えきれていなかった。

日本では小学校と中学校が義務教育なので識字率はほぼ100%だ。日本にも見えない問題はあっただろうから自信を持って100%とは言えないけれど、それに近しい割合になっているはずだ。そのことをミルドレッドさんに言うとミルドレッドさんは驚いていた。


ミルドレッドさんに連れられて屋台を見て回っていた私はふと足を止めた。

細い路地にはポツポツと人が座り込んでいた。路上生活者のようだ。私はぼんやりとその辺りを見つめていた。

すると不意に口の中が熱くなり、顔を顰めた。1番最初ほど痛みもないし熱さもないが、2回目よりも熱い。

ミルドレッドさんの腕を掴んでシリウスさんが来ると伝えると同時に、シリウスさんが登場した。


「悪趣味ですよ〜。」


シリウスさんは私の腕を引っ張ってミルドレッドさんから離す。

ミルドレッドさんは気にしていない様子だ。


「これでだいたい分かったね。」


「…そうですね。」


シリウスさんは不機嫌な様子を隠そうともせずにムスッとして言った。

分かったというのは、どれほどの魔力を使えば場所が探知できるかということと、その範囲のことだろう。

シリウスさんがここまで来れたということで今日の実験はとりあえず終了らしい。次はもう少し遠くに行くそうだ。

ミルドレッドさんは先に帰るからあとはシリウスさんに付いててもらうように言って、転移魔法で帰って行った。


シリウスさんは私の手を掴んだまま歩き始めようとした。

しかし、私はどうしても路地裏が気になってしまって仕方なかった。







読んでくださり、ありがとうございます!

評価、ブックマーク、感想、レビューも嬉しいですー!

誤字報告助かっております!

これからもよろしくお願いしますー!

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