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「おーい、シリウスさーん。いい加減離してくれーい。」
どれくらい時間が経ったのか分からないけど、ずっと立ってるのも辛いので離して欲しいと訴える。しかししがみつきながら顔を振るばかりで動きそうもない。
どうしたもんかと考えていると小さくボソボソと何か言い出した。
「ごめんなさい…」
「いや、なにが?」
「僕のせいで…」
「なんでよ。」
「…。」
とにかくものすごく落ち込んでいると言うことは分かった。流石に人が拷問みたいなことされてるの見たらショックかもしれない。自分からやると言い出したことだったから気にすることないと思うが、まぁ怖かっただろう。
「私こそごめんなさい。怖かったですよね。」
「こわかった。」
「はい、すみません。」
「…どうしてそうやってあなたは真っ先に自分を切り捨てるのですか。」
シリウスさんが私を抱く手がさらに強くなってしまった。
切り捨ててるつもりはないけれど、そういうふうに見えたのだろうか。自分がやりたいことをするのに必要なことだから仕方ないと思うんだけど。
「私は助かりたいから、その為にやっただけだよ。」
「でも歯を抜かなくてもよかった。他に方法あったでしょ。」
「え?ある?アクセサリーとか服に仕込んでも全部ひん剥かれて、捨てられたらそれで終わるじゃん。皮膚に埋め込んだら引きちぎられそうだし、そもそもそっちのが痛そうだし、消毒とか大変そうだし、何より怖いわ。歯が一番いいじゃん。」
「僕がやだった。」
シリウスさんが赤ちゃん返りみたいになった。成人男性の赤ちゃん返りって何。どうすんの。
全く分からないので、愛が拗ねた時のことを思い出して背中に手を回してトントンと叩いてあげた。
「はいはい、ママは大丈夫ですよー。」
「僕はあなたの子供じゃない。」
「あれー?そうだっけー?」
笑いながら揶揄うと恥ずかしくなったのか、腕を緩めて解放してくれた。
それでも顔は見せてくれない様子なので頭を撫でた。
「私流石に疲れたからミルドレッドさん戻るまで寝てます。もしミルドレッドさん戻ってきたら起こしてくださいね。」
「…はい。」
私はアンネさんにシリウスさんを頼んで、愛達と一緒にベッドに入って眠ることにした。
愛は相変わらず寝続けている。その横では望も。
「ノゾミ様には軽食を食べさせました。食べたらすぐに寝てしまいましたよ。」
「ありがとう、ダリアさん。任せっきりでごめんね。」
ダリアさんがご飯を食べさせてくれたのでお利口にしていたのだろう。本当に助かっている。
私は子供達と休むことを伝えて、ダリアさん達もご飯を食べて欲しいと伝えた。
「ヒカリ様は召し上がらないのですか?」
「あー…大丈夫。それより寝たいです…」
抜歯をしたばかりでご飯を食べられる気がしない。ダリアさんは心配そうにしているので、アンネさん達に詳しく説明してもらうよう伝えると、静かに部屋を出ていってくれた。
私は愛と望みの間に入り込んで、2人のツヤツヤなおでこを撫でてから目を瞑った。
余程疲れていたのか目を瞑ってからの記憶がない。すぐに眠ってしまったのだろう。ダリアさんが起こしに来てくれた時にはもうだいぶ時間が経っていた。ダリアさんはあの後アンネさんから抜歯について聞いたらしく、私が食べやすいように野菜をみじん切りにして柔らかくなるまで煮込んだスープを作ってくれたようだ。それを食べに皆のところに戻ると、ミルドレッドさんがシリウスさんと話し合っていた。
「よく眠れたかい。」
「はい、スッキリしました!」
実際疲れはだいぶ取れていたので筋肉モリモリのポーズをして元気さをアピールした。
歯は無事に出来上がったようで、食べる前に入れてもらうことになった。白い歯をミルドレッドさんが見せてくれた。
「魔力を込めるのは今回はこのままやるよ。だけど簡単に抜けないようにするから、これからは口の中に触れて魔力を入れてもらうことになるよ。
私が位置情報を把握しようと思ったんだかね、私はあまり融通の効く方ではなくてね。その役はシリウスに頼むことになりそうなんだが、いいかい?」
「私は大丈夫ですけど…。」
シリウスさんやアンネさんの顔を見ても特に反対する様子もなかったので、シリウスさんにやってもらうことになった。
シリウスさんは私の歯を持ち魔力込めた。青白く光る様子が神々しいが、その光ってるものが歯だというだけでなんとも言えない気持ちになる。
シリウスさんから歯を受け取ったミルドレッドさんは洗浄魔法で綺麗にしていた。
そして私を呼び、グググっと力を入れて歯を埋め込んだ。また痛くないように魔術をかけてくれたようだようだが、押し込まれる不快感がすごい。
しっかりはめ込み、抜けないかどうかチェックしてもらった。
もうお腹がぺこぺこなので、野菜スープをいただきながら話を聞くことになった。
今回の事は現段階ではなんとも言えないが、不自然な点があるそうだ。あの時の戦闘訓練で、氷を出現させたチームは相手チームからの攻撃を氷山を出現させて防御しようとしたそうだ。それで攻撃に耐えきれずに氷山の一部が砕けたというわけだ。しかし、私に向かって飛んできた氷破片は、アランの手を傷つけたものだけだったそうだ。他の破片は全く別の方向に散らばっていて、しかも飛距離全く違っていたらしい。
そうなると誰かの手が入ってないとおかしい。しかし、不審な動きをしている人物を見た人はおらず、手がかりが全くないのだとか。
「偶然にしてはおかしいんだよ。」
ミルドレッドさんはギリリと歯を鳴らしながら悔しそうにしている。そりゃ部下が何かした可能性があるなら落ち着いていられないだろう。
まぁ現段階だと、物を動かす魔術を使えれば容疑者になってしまうレベルで情報が少ない。
もし故意に何かやったとしても、それが悪戯のつもりだったのか、殺意があったのかなどは本人に聞かないと分からない。
「その氷山作った子達と、相手のグループには話聞いてみたんですよね?」
「ああ、全員顔真っ青にしてたさ。あんたらにいい格好見せようとして変に力んじまったみたいでね。それ以外は何も分かんなかったよ。」
「そうですか…」
結局のところ、はっきりとした原因は分からなかったので、後はイーサンさん達に任せてミルドレッドさんだけ戻ってきたそうだ。確かに様子を見ていくしかなさそうだ。
なんとも言えないモヤモヤ感を抱えながら、温かな野菜スープを飲み干した。
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