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「では、こちらの通過儀礼のようなものをしていただきます。」


殴られたシリウスさんと、泣き腫らしたライドンさんに代わり、今度はルウさんとの対話だ。

ルウさんは自分の杖の上のところにある丸い水晶のようなものを掴み、もぎとった。


「ええ!?それ取れるんですか!?」


なんともワイルドな所作にびっくりして思わず声を上げてしまった。杖も水晶らしきものもすごく高そうなのでビビる。


「ええ、これは魔法石でここに自分の魔力を貯めて杖を使うのです。杖がなくても魔術は使えますが、魔法陣などを書くときに杖を使うし、魔法石に魔力を移して置くと魔術を使うときに体力の消耗が少なくて済むので魔術師団の殆どの人間は杖に魔法石を嵌め込んで使っています。」


なるほど、さっぱり分からん。

とりあえず壊したのではないようなので安心した。


ルウさんは私の手をとり、掌にその魔法石とやらを乗せる。

するとホログラムのように文字がふわふわと浮かび上がってきた。

日本語でも英語でもないそれが浮かび上がる光景は異様で、しかし美しく思わず目を奪われた。ゆらゆら揺れる文字を見ると不思議なことに気付く。


「え、読める…」


見たこともない文字なのに、何となくどのような意味合いの言葉なのか分かった。読めるというか、感じ取ることができたのだ。学んだこともないのに、脳内に広がる未知の言葉が分かる現象に気持ち悪さを覚える。

わー、マジでゲームみたいで怖すぎる。


****

役職:聖母

スキル:創造

****


「…」


誰も言葉を発さなくなってしまった。

どうしたもんかと思っていたら、ルウさんが突然立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。

シリウスさんは初めて見る真剣な表情で浮かび上がる文字を見ているし、ライドンさんは口を大きく開けて呆然としている。そんな2人の様子を見ると、とんでもないことが起きてしまったのだろうということは分かったので不安になる。


ドタドタと大きな駆け足の音と一緒に、愛と望を2人一緒に抱えたルウさんが戻ってきて2人を私の隣に座らせる。愛はびっくりして泣きそうになっているし、望は抱えて走ってもらったのが楽しかったようでキャッキャしている。

ルウさんは私の掌にあった水晶を鷲掴みにすると愛に手渡す。

愛は私の表情を伺いながら、その水晶を受け取った。随分と不安そうにしているので、愛の頭を軽く撫でてやると、戸惑いながらも水晶に目を移した。

そして先程と同じように水晶をからは文字が浮かび上がってきた。

そこには同じように役職とスキルが書いてあった。


****

役職:聖女

スキル:癒し

****



「こっちが聖女…」


ぽそりとルウさんが呟き、高速でメモを取る。そしてまた水晶を鷲掴みにして、望に手渡した。ただ、望は手が小さくて掌に乗せられなかったので、机に水晶を置いて、私が望の手を支えながら、水晶に手を添えさせた。



****

役職:聖女

スキル:守護

****



「聖女が2人!?」


「やべー!こんなことあんの!?」


「いや〜まさかここまで術が成功するとは思わなかったですね〜」


ルウさん、ライドンさん、シリウスさんはまた賑やかに反応してくださる。もう愛ちゃんは泣きべそかいてるからその辺で騒ぐのやめてもらえませんかね。

とりあえず騒いでる大人はほっとくことにして、娘たちに目を向ける。


「愛ちゃん、サラお姉ちゃんと何してきたの?」


「さらちゃん!おはなさんとおはなしできるんだよ!!」


サラさんと一緒に過ごしていた時の様子を聞こうと声をかけると、パッと表情を明るくした愛は身振り手振りを交えながらサラさんの魔法について教えてくれた。

サラさんは外に咲いていた花を引っこ抜くと、その花を動かして遊んでくれたようだ。人形遊びのように、花を操っておままごとのような遊びをしてくれたようだ。キラキラと目を輝かせる愛の顔を見ると、癒された。

さすが癒しのスキル。

ほんわかしていると、後ろから息を乱したサラさんが立っていた。


「副隊長っ…急に…!!」


この感じだと、ルウさんは娘たちを掻っ攫って来たんだろう。


「サラ!!」


大人3人に声を揃えて名前を叫ばれて、ビクリと肩を揺らしたサラさんは、走って来て赤い顔をしていたのにサッと青ざめる。

すると3人が詰め寄って目を輝かせて、逃がさんとばかりに肩を掴んで思い思いのことをマシンガンのように話し出す。

不憫担当はサラさんのようだ。


「ちっこいの2人とも聖女だったんだよ!!こんなことあるか!?文献では聖女は1人しかいなかったんだ!それが今回は2人!すごくね!?」


「しかも、お母様の方は聖母よ!!聖母なんて聞いたことないわ!!それにスキルも、創造って!一体どういうことなのかしら!?ものすごく興味深いと思わない!?」


「ほら!サラ、やっぱり僕の魔術はすごいだろ!?なんでもやってみるもんだね〜!」


一気に話されては分からないだろうに、誰もそんなことは気にせずに話し続けるもんだから、サラさんの目はだんだんと潤んできてしまっている。

大人3人はなんだかんだ似たもの同士なのだろう。ルウさんなんか、反対してた感じだったのに興味が出て来ちゃってる。

流石にサラさんが可哀想になる。

それに私たちが生活していた世界とこちらでは時差があるようで、私たちは日中普通に生活していて、夜にこちらに呼び出されている。

娘たちももう限界だろう。


私の思考力も低下しているのでこの場を収める方法が全く思いつかない。

周りを見渡すと、テーブルの上に先程出されて、まだ口をつけていない果実水が目に入る。


もういいかー。


果実水が入ったコップを持ち上げ、サラさんに詰め寄る大人に近寄る。

さて、私が今一番頭にきているのは誰でしょう?


正解!シリウスさんです。


シリウスさんの真後ろに立った私は、シリウスさんの頭に目掛けてコップをひっくり返す。ビシャっと音がするのと同時に声が止む。


「いい加減にしてくんない?」


ねぇ、愛ちゃん。ママは怒ると怖いんだよね。



読んでくださりありがとうございます!

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