魔術師団第一部隊にご挨拶してみた
第一部隊は魔術の研究をメインでやっているそうで、学問的な部署が多く存在していた。
大きく分けると4つに分かれているそうだ。
一つ目はシリウスさんやルウさんの総括部。これは人事と総務が合体したようなところらしい。シリウスさん達の他にも何名かいるらしく、第一部隊の採用関係から、備品の管理などそれぞれが分担して行っているそうだ。これはどの部隊にも共通してある部署らしい。
サラさんは二つ目の魔術史部という部署に所属しているらしい。魔術史部は歴史や考古学と同じもので、書物から魔術の歴史や基本的な事を学んだり研究したり、保存したりするらしい。また、書物だけでなく古くからある建物に残った魔術の痕跡の研究もするらしい。
三つめは環境部。一番大きい部署はここだそうだ。これは理科みたいな要素が多い。気候や自然物を取り扱う部署、動物に関する魔術を扱う部署、植物に関する魔術を扱う部署、地質や鉱山などに関する魔術を扱う部署では魔石についての研究もするらしい。それから、動物とは別に人体と魔術の関係やスキルそのものについて研究する部署もある。
そして最後の4つ目は開発部。総括になる前のシリウスさんはここで魔術の開発をしていたそうだ。ここでは生活の役に立つような魔術や、産業に関しての魔術も研究しており、経済学っぽいこともしているようだ。
今後私は環境部と開発部にお世話になりそうだなと思った。迷惑をかけるだろうからきちんと挨拶しなくては…と言っても流石に全員の顔と名前を覚えられるほどの記憶力はないので、今日は一通りの施設見学をメインに回って行くことになった。
まずは以前行ったことのある図書室から向かうことにした。
サラさんの持ち場である図書室は何度見ても素晴らしいものだ。
各部署の細かいグループにつき大体5人ずつくらいの編成で業務を行うようで、魔術史部は主に書物を扱う人たちが5名、主に遺跡での研究をする人が5名いるそうだ。しかし、書物整理が大変な時や、必要資料・知識の共有が必要な時などそれぞれのグループでのメンバーの行き来はあるようだ。
普段はシフト制だそうだが、今日は集会があったので全員いるらしい。本当に申し訳ない。
図書室のメンバーが一列に並んで緊張気味に挨拶をしてくれた。名前も教えてくれたが、ただでさえ聞き馴染みのない名前なので覚えるのに時間がかかってしまうだろう事を伝えておく。
ちなみにゴールデン君もいた。ゴールデン君の名前はレオ君らしい。
「ねーねー、ごほんある?」
愛の言うごほんとは絵本のことだ。魔術に関する本は基本的に何でもあるそうで、魔術史を基にした絵本もたくさんあるらしい。サラさんは今度読んでくれると愛に約束してくれた。
こちらの世界の絵本がどんなものなのか私も見てみたい。絵のタッチとか気になる。
本当はその場で絵本を選んでしまいたかったが、まだまだ回らなくてはならないところがあるので名残惜しいが次の部署へ移動することにした。
次に来たのは総括部だ。
総括に入るとそこは会議室のようにコの字型に並べられたテーブルに8人の人が座っていた。
「お待ちしておりました。」
髪の短くて、身長の高い男性が立ち上がると、他の皆さんも立ち上がって礼をした。全体的に随分と堅い雰囲気で、特に髪の短い男性は融通の効かなそうなタイプに見える。
「私は総括部で主に隊員の情報管理や採用部分の担当をさせていただいております。アルフレッドと申します。」
「初めまして。私は光です。そして、娘の愛と望です。」
アルフレッドさんが挨拶をしてくれたので私も自分と子供の名前を伝えて、お辞儀をする。アルフレッドさんはそのまま少し微笑んでくれた。
そしてキリッとした顔に戻って、シリウスさんとルウさんに向き直りものすごい低い声で話し始める。
「ヒカリ様達に話を聞く前にあなた方からお話を伺う必要があります。」
背景にゴゴゴゴゴという文字が見えそうなくらい怒りのオーラが漂っている。シリウスさんはいつも通りヘラヘラしているが、ルウさんは顔を引き攣らせている。
シリウスさんとルウさんはみんなの前に連れて行かれた。私とライドンさんは他のところに座らされ、サラさんは娘達を見てくれている。
「では、まず初めにことの経緯を一から説明していただきます。」
「は〜い。えっと、久しぶりに召喚術やってみようと思って、今まで召喚したことがないものを〜と思って。それで聖女召喚の文献を見つけたのでやってみました〜。」
「…意図は?」
「それらしく言えば、その文献の信憑性の証明ですかね〜?」
「…本意は?」
「好奇心です〜。」
アルフレッドさんは淡々と質問をしているように見えるが、おでこにピクピクと血管が浮き出ています。怖い。
ルウさんは気が付いているのか縮こまってしまっている。
「隊長はもういいです。しかし副隊長、あなたはなぜ隊長を止めなかったのですか。」
「止めました…。」
「…本当はあなたもやってみたかったのでしょう。」
「それは…!」
「そして私への報告を怠っていましたね。」
「したくてもできなかったんだもん…」
…ん?だもん?
急に幼くなったルウさんの口調に思わず反応してしまう。クールビューティーのルウさんのイメージとはかけ離れた口調に混乱してしまう。
ライドンさんはクスクス笑いながら、まぁ見てなとアイコンタクトしてきた。
私は複雑な思いで様子を見守る。
「最近隊長の仕事が疎かになっていた理由も分かりましたし、副隊長が最近帰りが遅かった理由も分かりました。隊長は自分がしたことがどれだけ大きく仕事に影響が出ているのかしっかり自覚していただきたい。今に始まったことではありませんが、あなたの最優先させるべき仕事をきちんとこなしていただかないと困ります。」
…帰り?
「ルウも、仕事をサポートするのは良いですが、隊長ご本人にきちんと仕事をしていただくようにしなさい。あなたも魔術バカなのは重々承知していますが、今は副隊長という立場なのですよ。それを自覚なさい。」
…呼び捨て!?
「…ご夫婦?」
思わず口からポロッと出てしまった。
ライドンさんは正解!と人差し指を立ててジェスチャーしてくれた。
えええええええ!?
ルウさん人妻だったん!?そして相手はアルフレッドさん!?
思いっきり叫んでしまいそうだったので慌てて口をおさえる。
しかし既にアルフレッドさんには気付かれていたようで、くすりと笑われた。
引き続き、どんどん縮こまって行くルウさんと、終始ヘラヘラしているシリウスさんへの尋問は続く。
「ライドンがその場に参加していた理由を述べてください。」
「もし失敗して違う生き物が召喚されてしまった場合に対応できる人を連れて行ってました〜。」
なるほど…!!
そういう理由でライドンさんがあそこにいたのか。単純に補佐だからってことだと思っていた。シリウスさんでも一応そう言うところの準備はするんだね。
サラさんがいたのはサラさんに文献を選んでもらって、それを持ち出して召喚をやってみようとしていたのでついて来てもらったそうだ。
あそこにいたのはきちんと理由があった人たちだったらしい。
「分かりました。処罰については団長に改めて相談させていただきます。ルウは1週間、野菜生活です。」
「そんな…にく…さかな…」
個別の処分を言い渡されたルウさんは顔色…と言うか表情も消え去り、ものすごく落ち込んでしまった。てか肉とか好きなんですね、ルウさん…
「では、次はヒカリ様にお伺いします。
…が、その前に。」
アルフレッドさんがその部屋にいた人たちに目配せをすると、皆さんが一斉に立ち上がった。そして頭を下げている。
私は一体何のことか分からずに目を丸くした。
「この度は、第一部隊の者が多大なるご迷惑をおかけしたことを、私達総括部が代表いたしまして謝罪を申し上げます。大変、申し訳ございませんでした。」
「ええ!?いやそんな!!」
もう十分に謝ってもらったし、よくしてもらっているから、謝罪なんてする必要ないのだと伝えるも、それだけでは気が済まないということだったので、きちんとその気持ちを受け取らせていただいた。
「あ、俺最初に会った時、話聞いたやつのメモあるよ。アルいる?」
ライドンさんが手帳を取り出して、アルフレッドさんに見せる。愛称で呼ぶくらいには仲が良いようだ。
ざっと内容を見たアルフレッドさんは、手元に手帳を置いて、そのほかに紙を取り出して紙だけ他の人に渡した。
「こちらで隊員情報の把握をさせていただくのに必要な書類を作成させていただきます。ライドンの手帳の内容を確認しながら行います。」
「はい。」
アルフレッドさんが質問したことを、先程紙を受け取った人が記入していくらしい。
そしてそこから私たちの面談が始まったのだ。
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