魔術師団の皆様にご挨拶してみた
少し更新まで時間がかかってしまった上に、短めかもしれません。すみません。
結局夢を見られないほどに深い眠りについたようで、目を開けたら朝になっていた。両脇に寝ていた娘達はどうしてそうなったのか、90度回転しており、私の体に向かって双方から足が伸びている。重たい。
二人の足を順番にずらして起き上がる。早めに起きてしまったので、まだアンネさんもダリアさんも来ていない。もう少し寝ていたい気もするが、二度寝して起きられなかったら大変なのでベッドから降りて体を動かしてみることにした。
「たんたーたたたたたん」
ラジオ体操を口ずさんで、なんとか思い出しながらやってみる。やってみると案外覚えてるもので、全部踊り切れてしまった。体が覚えてるってこともあるんだなと痛感する。
ちょうど踊り終えたところで、ダリアさんとアンネさんが入ってきてくれた。
朝の挨拶をしながら食事を準備してくれるので、手伝わせてもらった。今まで色々やってきてもらったが、本来私は二人の雇い主ではないので、全てやってもらわなくてもいいだろうと思ったのだ。甘えてばかりいては自立は遠のく。
子供達も起こしてみんなでご飯を食べた後に、衣装部の方々も来てくれたので着替えを手伝ってもらいながら準備をした。
「ダリアさん、ちょっと自分でメイクしてもいいですか?」
「え、それは…」
ダリアさんは渋っていたが、少し強引にメイク道具を借りて化粧をした。
使ったことのない道具もあったが、日本でしていた化粧を思い出しながらガッツリ化粧してみた。
所々ダリアさんに直してもらうところもあったけど、日本にいた時の自分のように仕上がった。
私は昨日アンネさんと話して、私はシリウスさんの付属品のようなものなのだと感じた。与えられてばかりではダメだ。例え世界が変わっても、私は私であるべきだ。
少しキツめの仕上がりにはなったが、これが私だと思えた。
そんな私に少し驚いたような衣装部の皆さんだったが、特に触れずに髪を整えてくれた。
「…くっ…不本意ながらいい出来です…」
ジョンさんは相変わらず嘆きながらもかっこよく仕上げてくれる。煌びやかな衣装も相まって中性的な男性アイドルになった感じ。
気合を入れるように深く深呼吸をして、私は一人でミルドレッドさんのところに向かう事にした。
シリウスさんがもし来たら、団長室にいるということを伝えてもらうようにお願いした。その時に娘達を連れてきてもらうようにも伝えた。
扉に触れて開くところをイメージをする。ゆっくりと扉が動いたのでほっとする。中にはミルドレッドさんが書類を眺めていた。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
「ああ、よろしく。おや?そういえばシリウスは一緒じゃないのかい?」
やっぱり聞かれたか、と思った。本当はこのままここを出て暮らしたいと言ってしまいたいところだが、私達には財力もないので、それは流石に言えない。収入がない状態では生活していくことはできない。
「すみません。こんなこと聞くの申し訳ないんですけど、私たちはここでの扱いって団員になるのでしょうか?それとも…研究材料なのでしょうか。」
「…どういう意味だい。」
ミルドレッドさんの声が低くなる。緊張感が漂い、気圧されてしまいそうだが、曖昧にしておくのは嫌だった。
「今の生活に不自由しているとかはありません。とても良くしてもらっています。しかし、私自身に収入がありません。私はいずれここを出て、娘達と3人で暮らしていきたいと思っています。3人で暮らしていくには収入が必要なんです。だから…とても言いづらいのですが…お給料は欲しいなと…」
言いづらくて尻つぼみになってしまったが、なんとか伝えることはできたと思う。ミルドレッドさんは、大きくため息をついた。
「金なんて必要な時に必要なだけくれてやるってのに…わざわざそんな苦労することもないだろう?」
「でも、それじゃダメです。私が…私じゃなくなっちゃう…」
私は焦っている。夫の夢を見て、自分の前の生活を思い出してしまったからだ。夫がいた時のこと、夫を亡くしてから3人で生きてきたこと、全てのことを思い出した。そして、今している生活とのギャップを改めて思い出してしまったのだ。日本の生活よりも今の生活の方が遥かにいい生活はしているだろう。娘達と過ごす時間だってだいぶ多い。しかし、本来の自分はそういう立場の人間ではないのだ。日本で生活していた自分はもういなくなってしまうような気がしてしまう。
それがものすごく怖いのだ。
正直、今まではもう甘えられるなら甘えとこうくらいの認識しかなかった。それでいいと思っていた。
でも、そのままでは怖いのだ。不安になってしまったのだ。自分で何かしていかないと現状は変わらない。
ミルドレッドさんは一通り話を聞いてくれたが、深いため息をついた。
「もちろんお前達のことは団員として扱うつもりだよ。だけどね、今すぐに働くって言ったって子供達は誰が見てるんだい?アンタらがいたところにはそういう場所があったみたいだけどね、こっちにはないんだよ。」
そうだった。
保育園なかった。子供達を見てもらえる人がいなければとてもじゃないが働けない。イーサンさんのところに頼るわけにもいかないだろう。
「だったら今のまま、シリウスんところのメイドに見てもらって、アンタは魔術師団の団員として仕事をしな。それでも出ていくならせめて子供達が学校いくか、家庭教師をつけてからにしな。」
やはりまだどうにもできないか…しかし住むところだけはどうにかしたい。客室にいつまでもいるわけにはいかない。
そこの部分については考えなきゃいけない。
「…その話はまた今度しっかりしよう。シリウス達が来たよ。」
ミルドレッドさんがそう言った瞬間、大きな扉が動いて、娘達とシリウスさん、ルウさん、ライドンさん、サラさんが立っているのが見えた。
ミルドレッドさんは椅子から立ち上がり、私の肩を叩く。
「行くよ。」
私は自分の非力さが悔しくて、情けなくて、恥ずかしくて。感情がぐるぐると渦巻いていた。ミルドレッドさんは肩に置いた手をそのまま私の背中につけて押してくれた。
それでも私は一歩踏み出すことができなかった。
「ミルドレッドさん、ちょっとだけ待ってくれますか?」
私はノートとペンを取り出して、無心に絵を描いた。
そしてストレス解消アイテムを出現させた。
「…ヒカリ、これはなんだい?」
「起き上がりこぼしです。」
私は高さ約150センチ、横幅約40センチの巨大空気式パンチバッグを出現させた。この私とほぼ同じ大きさの起き上がりこぼしを見たみんなの顔はポカンとしている。私はみんなが見つめている中で、起き上がりこぼしを力一杯殴った。
パシーン!!
軽い音を鳴らして、思いっきり倒れた起き上がりこぼしはすごい勢いで跳ね返ってきた。それを何度も何度も繰り返して、息切れするくらいまで続けた。
情けない自分も、悔しい思いも、不安なことも、怖いことも全部起き上がりこぼしにぶつけた。
みんな口を開けて黙って見ている。
「よし、次!愛ちゃん!!」
「わーい!!」
スッキリして、愛を呼んで一緒に押して倒して、押して倒してと遊んでみた。愛がきゃっきゃと笑いながら楽しむ姿を見て気分が上がってくる。
望もやりたそうにしていたので触らせてみるがあまり倒れずに返ってきてしまい、その勢いで望が尻餅をついてしまった。泣くかと思ったが、ビックリして呆然としていて、その姿が笑いを誘った。
「俺もやりたい!!」
ライドンさんが挙手してきたので一緒にやろうと誘おうとしたら、ミルドレッドさんからライドンさんにゲンコツをプレゼントされていた。
い、痛そう…!!
ミルドレッドさんはそのまま私の方に来て、私の髪をさっと直してくれた。
「気は済んだかい?」
眉をグッと顰めながら聞いてきた。本当はスッキリとまではいかない。けれど、だいぶマシになった。
私がミルドレッドさんにお礼と謝罪を込めて頭を下げると、ふんっと言いながら腕を組んだミルドレッドさんは部屋の外に向かって歩き出した。
「団員を待たせちまう。急ぐよ。」
ミルドレッドさんの言葉で、私たちは団員達の元へ向かい始めた。
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