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今回、センシティブな内容に触れる部分があるかもしれません。あらかじめ、ご了承ください。
シリウスさんは目を見開いて固まっている。
き、気まずい。
なんかものすごい恥ずかしいものを見られているような気持ちになり、居た堪れない。おばさんがはしゃいでめかし込んでるのなんて恥以外の何者でも無いじゃん…!!
アンネさんとダリアさんはニヤニヤしてるし、マリーさんはど緊張してるし、娘たちはマイペース!!
なんかもうあれかな!?呆れて言葉も出ない感じかな!?そうよね!?さっき寝ながらメソメソしてたのも見られてるしね!?浮かれてんなよって感じですよね!?
見られたくなかったものを見られて、しかも反応が無いことでどんどん精神的に追い詰められてしまった。誰かこの状況どうにかしてほしい。助けてー!!と心の中で叫んだら、現れたのは救世主。
「ちょっと退きなさい。恋愛偏差値30魔術バカ。」
チャーリーさんのご登場です。恋愛偏差値30魔術バカこと、シリウスさんはビクーッと肩を震わせてチャーリーさんを見る。チャーリーさんは呆れたようにコソコソと何かを話してから、こちらにやってきた。何を言われたのか分からないが、シリウスさんはそのまま固まってしまって、私からは顔が見えない。
「まぁー化けたわね。」
今まで男か女かも分かんないガキンチョだったのにと言いながら、チャーリーさんは私のことを上から下までじーっと眺めて、ジョンさんとマリーさんを褒めている。
「でしょぉ!?これですよ!まさにこの瞬間!!俺はねぇ!この瞬間のために仕事やってんですよ!!」
いや、うるさっ。声でかっ。
ジョンさんはなんだか髪の毛やら化粧やらドレスやらについて一つ一つ説明し出したが、もう何言ってるのか全く分からない。チャーリーさんにはしっかり伝わってるようで、うんうんと頷きながら楽しそうに話している。
「わー!楽しそうだから見に来てみたらヒカリちゃんすっごいかわいいじゃん!!」
「エリックさんも来たんかい。」
ちょうどエリックさんも衣装部に来ていたところだったらしく、大興奮でチャーリーさんを呼びに来たジョンさんから話を聞いてついてきたそうだ。
流石は腹黒マジシャンホストエリックさん、ジョンさんがやいやい言ってたところを一つ一つ褒めていってくれる。恥ずかしくてもうやめてくれと泣きそうになってしまった。
「前に着ていたドレスも似合ってたけど、流石マリーとジョンだねぇ。僕もドレス贈りたくなっちゃったよー!」
「エリック!!」
エリックさんがお得意のリップサービスをかましてきたところで、シリウスさんが大きな声で止めに入る。
シリウスさんはムッと怒るような顔をしていて、エリックさんはニヤつきながら両手を上げて降参のポーズ。
エリックさんまた面白がってんなー。エリックさんとチャーリー以外はポカーンとしている。ちなみに私はげんなりしてる。
「ドレスもいらないし、もう着ませんよ。」
はーっとため息をついてみんなに伝える。ジョンさんは泣いた。
「あら、似合ってるんだからたまには着たらどう?」
チャーリーさんはちょっと気になることがあったのか、私の顔や頭を触ったり、ドレスの皺を伸ばしたりしながらそう言ってくれた。
私はこれからお世話になるであろうジョンさんへのお礼のつもりだし、ずーっと言い続けている通り、とにかくドレス動きづらいから嫌だ。できることなら着たくない。
反論してくるジョンさんの話を受け流しながらチャーリーさんにそう伝えた。
「んー、勿体ないけど、まぁそれでいいのかもね。」
ドレスに肯定的なエリックさんだったが意外にもすんなり私の気持ちを理解してくれた。
しかし話をよくよく聞いてみると不快な気持ちになる。
どの世界にもやはり様々な性的趣向をもつ人がいるようで、ここにも同様に存在しているそうだ。こちらの世界も子供に手を出してはいけないというルールはあるそうだ。私はこちらの世界の基準で見ると見た目こそ幼いが、実年齢はだいぶ上だ。
「つまり触れる少女って感じ?しかも聖母ってスキル持ちでしょ。絶対変なやつに目ぇ付けられちゃうよ。」
「ふざけんな!だれが合法ロリだよ!!」
「合法…?」
気持ち悪い発想に鳥肌を立たせながらエリックさんにブチ切れてしまった。
他の女性陣もドン引き気味。チャーリーさんだけは納得している感じだ。
「お、俺の腕が素晴らしいばかりに…!!」
ジョンさんはまた訳の分からないことを言っている。つまりあれか?ジョンさんが私を綺麗にしてしまったから他の危険が出てきて、結局もうできなくなってしまったことを嘆いてるのか?
…ちょっとザマァみろだな。
とにかく、公の場でこの格好をするのは控えようということで話はまとまった。そうなった理由はさておき、逆に一回着てみてよかったかも。
着なくていい理由がはっきりとできたからだ。
犯罪の香りがするから着てはいけません…って正直気持ちのいい理由では無いが、まぁ、この際もういいです。
「公の場に出なければいいんだから、たまにジョンに付き合ってやんなさい。」
「…まぁ、それは仕方ないですね…たまにですからね。」
ジョンさんの腕がいいのは分かったし、今後も本人にとっては不本意な仕事をしてもらうことになるのだから、それくらいはいいだろう。
ジョンさんは嬉しそうに部屋の中で踊り出してしまった。
それを見て、エリックさんは愛の元に行き、跪いてダンスを誘った。
まるで御伽噺の王子様のような所作に愛は照れながら応じていた。
可愛いけど、複雑だ。
いつかこんなふうに私の元から去る日が来るのだろうか。
好きにダンスを踊っている愛にエリックさんが調子を合わせてくれて歌ってくれている。みんなで微笑ましげに見ていると、ジョンさんはマリーさんの手を取って踊り出した。
…あれ?もしかして、マリーさんのこと…?
新たな事実発覚に驚くとともに顔がニヤついてしまう。トキメキとは縁遠い生活をしていたので、急に湧いてきた恋模様に目が離せない。
ダンスの輪は広がり始め、チャーリーさんはダリアさんを誘い、アンネさんは望を持ち上げて踊っている。
ものすごい外国っぽい様子に呆気に取られる。こんなの日本じゃありえない。
「ほら、坊っちゃんも!ぼーっとしてないで!!」
ダリアさんは踊りながらシリウスさんの背中に突撃する。
その衝撃でよろけてしまったシリウスさんはギリギリ踏みとどまった。すると深呼吸をして、私の前に跪いたのだ。
「私踊ったことないから無理です。」
申し訳ないが、本当に踊ったことない。足を踏んでしまったら怪我をさせてしまうかもしれないので、ここは回避したい。
「大丈夫よ!!ほら早くなさい!!」
散々渋ってたらチャーリーさんに怒られた。手の組み方さえも分からないのでシリウスさんに全部任せることにした。足のステップは全く分からないので、最悪カニ歩きしよう。
当然ながら体がくっついて恥ずかしい。こちらの人はダンスは教養として身につけるようなので、恥ずかしさも無いんだろうが、慣れてない私からすればちょっと困る。
シリウスさんは大丈夫なのだろうかと見ると、割と大丈夫そうだった。ドレス姿見て動揺するくらいだから、ダンスもダメかと思いきや、案外頼りになる。とりあえず私はこの謎のダンスタイムが早く終わることを祈った。
一通り踊ったらみなさん気が済んだのか、皆さん優雅に礼をして終わった。
最初は足を動かすのに必死で、楽しむ余裕も無かったが、アンネさんが望を抱いて華麗に踊る姿を見て笑ってしまい、なんだかんだ楽しく踊れたと思う。だけど、みんなの体力すごい。私は疲れて肩で息をしているような状態だが、みんなはケロッとしながらお茶を楽しんでいる。エリックさんなんて歌いながら踊ってたのに全然平気そうだ。
体力オバケの皆様とは違い、私はもうヘトヘトなのでダリアさんに頼んでドレスを脱ぐために違う部屋に移った。
「ちょっとシリウス。アンタ、おめかししてる女を褒めることすらできないわけ?」
「チャーリーさん…うるさいですよ〜?」
「はっ。本当に魔術バカね。今まで対人関係サボってたツケが回ってきたんだわ。」
「…だから、うるさいですって〜。」
「耳が見えない髪型で良かったわね。ダンスの時、馬鹿みたいに赤かったわよ。」
「…黙れ。」
「あらやだ、怖いわ〜ねぇ、エリック。」
「僕に振らないでよ!!」
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誤字報告本当に助かってます!いつもとんでもない誤字してすみません!