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「何だい、随分騒がしいね。」


大騒ぎしているジョンさんを無視しながら、皆で食事を進めていたら珍しくミルドレッドさんが部屋に来てくれた。

ミルドレッドさんを見るや否や、チャーリーさんを含める衣装部の皆さんは食事をやめて椅子から立ち上がり、お辞儀をしていた。

いつもフランクに接してくれていたからすっかり忘れていたが、この魔術師団で一番偉い人はこのミルドレッドさんだ。

ドキッとして、私も立ち上がろうとしたが、私よりも先に愛が動いて、ミルドレッドさんのところに走って抱きついていた。

ミルドレッドさんはぎゅっと抱きしめたあと、愛と手を繋いでそのまま部屋に入り、衣装部の皆に座るように手で合図した。

愛がミルドレッドさんから離れたがらないので、アンネさんが愛の隣に椅子を用意してくれた。ミルドレッドさんはそこに腰掛けながら話し出す。


「ヒカリ、団員への説明は明日することにしたよ。こういうのは早めに済ませた方がいい。」


ミルドレッドさんは軽くご飯をつまみ食いしながら話し始めた。

謁見も終わったし、先延ばしにする必要もなくなったので、早速明日報告をするらしい。

今日これからやるとか言われなくてよかった。流石に今からじゃ辛い。

ちょうど衣装部の皆さんもいたので、そのまま明日の衣装についての話をしている。

団員への挨拶なのだから、魔術師団の服でいいんじゃないかと思う。普段は魔術師団の服を着ているのだから。

しかし、せっかくチャーリーさんが作ってくれた黒の学ランドレスもあるのでそっちを着てみたい気もする。

ジョンさんは横で女の子のドレス着ようよおおおおおおっと嘆いている。


「…私、聖母として振る舞った方が都合いいとかありますか?でも自転車で暴走してたことあるし、今更ですよね?」


女性らしい服を着ている方が魔術師団の人たちも受け入れやすいというメリットはあるだろう。ジョンさんは極端なパターンだけど、女性は女性らしく振る舞うというのがこちらの世界の常識だからだ。きっと聖女についても理想像はあるだろうから、それを人前で演じて受け入れてもらいやすくした方がいいのかとも思った。

しかし、エリックさんと二人乗りした自転車で爆走する姿を見られてしまっているのでそれは今更通用しないような気もした。

ミルドレッドさんはそんな必要はないと言ってくれたので、女性らしいドレスを着なくてもいいらしい。ジョンさんはより一層大騒ぎだ。もう本当にうるさい。

ただ、普段の魔術師団の服で登場させるとやや印象が弱いそうで、あえて学ランドレスを着て登場させることで異世界から来ているということを印象付ける方がいいのではないかということだった。確かに私はこちらの常識を知らない。それを知っていてもらった方が、トラブルを未然に防げるのではないかということだ。

それだったら、遠慮なく黒の学ランドレスを着ることとする。

開き直るつもりはないが、まだ常識的なことを学べる段階ではないので、ここは甘えておこう。


「というわけで、明日も髪の毛よろしくお願いしますね、ジョンさん。」


「あああああああああ!!!」


再びジョンさんは取り乱してしまった。

あまりにも騒ぐのでちょっと可哀想になった。今日はもうこれからやることがないので、仕方ないから一度ジョンさんの好きなように仕立ててもいいと伝えてみる。長時間女性らしいドレスを着ているのは苦痛だが、着てすぐ脱げるのであれば別にいい。


「あああああああああ!!!」


また改めて泣き出したジョンさんだが、そんどは両手を握りしめてガッツポーズ上の方に伸ばしながら、体をのけぞらせて泣いていた。


この人本当に気持ち悪いな。

その場にいる全員の人がそう思っている顔をしていた。









食事が終わった後、ジョンさんとマリーさんが残り、チャーリーさんとアイリスさんとミルドレッドさんはそれぞれ仕事に戻った。アイリスさんは早速パーティー用のドレスのデザインを考えると意気込んでいた。まず、アイリスさんが大まかなデザインを決めて、刺繍や飾りなどをマリーさんと一緒に決めるのだそうだ。

本来なら戻って一緒にやりたかっただろうマリーさんは、可哀想なことにチャーリーさんに指名され残されてしまった。

マリーさんは私に似合うドレスを選び、着替えを手伝ってくれるようだ。


「マリーが選ぶドレスなら間違い無いですからね。」


ジョンさんはマリーさんのセンスを信頼しているようで、ドレスは任せると伝えていた。マリーさんが私の着替えをしている間は愛の髪をいじるようだ。望はまだ髪の毛が薄いのでいじれない。なので、アンネさんが望の面倒を見てくれるらしい。


「ヒカリ様、すみません…こんなことに…」


「いや、それは私のセリフ…」


ドレスを選びながらマリーさんは申し訳なさそうにしている。私もジョンさんが一人で好き勝手すると思っていたが巻き込んでしまって申し訳ない。

マリーさんはクローゼットの中にあるドレスを一つ一つ眺めて行く。私には分からなかったが、シリウスさんが用意してくれたドレスはどれも高価なものだったようだ。うっとりとしながらドレスを見るマリーさんに癒される。


マリーさんはグリーン、青、赤などの濃い色味のドレスを何着か選んでくれた。女性らしくすると言っていたので可愛らしい色合いのものを選ばれるかと思ったが、そうでなくて安心した。


「ヒカリ様はご自分が似合うものを分かってらっしゃいます。ご自分に似合い、更に好きなものをお召しになられるので、中性的なものが多くなられるのだと思います。だからドレスもうそういう色を選ばせていただきました。」


ジョンさんが信頼しているのも納得だ。短時間でここまで私のことを考え、私が気に入り、更に似合うものを提案してくれる。

私は一番好きな青いドレスを選んで着せてもらうことにした。

青いドレスはオフショルダーになっており、両肩が出るほど大きく開いている。私は肩幅が広めなのであえて肩を大きく出すことですっきりと見せることができるデザインを選んだ。

肩紐のないビスチェタイプはサイズが合わないと下がってしまいそうで抵抗があるが、オフショルダーならその心配はない。胸元があまり目立たないデザインなのも嬉しい。

ジョンさんのいう女の子らしいシルエットのプリンセスラインでボリュームのあるスカートが可愛らしい。ふんわりと広がっていて華やかな印象だ。

深い青に白く花の刺繍があしらわれている。

早速ダリアさんとマリーさんに手伝ってもらいながらドレスを着てみる。

うーん、やっぱり窮屈だなと感じた。

見る分にはいいが、自分が着るとなるとやはりどうしても抵抗があるな。

楽しみきれないまま、ジョンさんに見せに行った。


「そうこれだよ!!これ!!マリーでかした!!」


オーバーすぎるくらいのリアクションを見せるジョンさんはキラキラと目を輝かせている。

ちなみに愛はジョンさんに緩く編み込みをしてもらい、所々に花の飾りを差し込んでもらっている。あの髪が長ーいプリンセスのようでとても気に入ったようだ。

私は髪が短いので、ウィッグをかぶってヘアメイクをするそうだ。

ドレスに合うように、化粧もし直してもらった。

謁見前にヘアセットしてもらったとき以上に真剣な目で色々やってもらう。

ジョンさんが選んだのは地毛に近い色味のもので、思ったよりも馴染んでいる。

長さがあって緩やかにウェーブしたウィッグを丁寧に扱いながら、細かく捻ったり、編み込んだりしてシニヨンを作っていく。不自然にならない程度に後毛を出していて、それが素肌にかかっているのが色っぽく見える。

前髪は本来なら年齢的にも上げておでこを出すのがいいそうだが、ウィッグの付け根が見えてしまわないように、眉毛が隠れるくらいの長さだ。

化粧は落ち着いた色味を使いながらガッツリと仕上げてもらった。


「これです!!これですよ!!」


私はジョンさんの手ですっかりと女性らしく変身していた。

学ランドレスの時との振れ幅がすごい。まるで別人だ。改めて衣装部の技術の高さを目の当たりにし、驚いた。


「ヒカリ様、本当に聖母様なんですね。」


磨けば光ると思ったけどこれほどまでとは…となんだか失礼なことを言いながらも、ジョンさんは嬉しそうな顔をしていた。アンネさんやマリーさんもうっとりと見ていてすごく恥ずかしい。ダリアさんは、本当はこんなふうに私を仕上げたいという願望があったらしく、すごく悔しそうだ。


「俺、ちょっと先輩呼んできますわ!!絶対見せたい!!」


ジョンさんはそう言ってチャーリーさんを呼びに行ってしまった。

チャーリーさんだって仕事があるだろうし、そもそも、ジョンさんだってこんなことしてる場合ではないんじゃないのだろうか。

とりあえずジョンさんがいないと頭も戻せないので、愛と一緒にファッションショーのように部屋の中をゆっくり歩いたり、くるくる回ったりして遊びなが待つことにした。


しばらくしてノックの音がしたので、ジョンさんが帰ってきたと思い、アンネさんに扉を開けてもらった。

すると、そこにいたのはシリウスさんだった。


読んでくださり、ありがとうございます!

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