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「はいっ!」
ぐっと体に力が入り、肩が上がってしまう。
ガチガチに緊張して王后様を見ると、こっちにおいでーと手招きしている。
どうしようか迷っていると、ミルドレッドさんもこっちに来いと目で訴えていたので向かおうとする。
その拍子に、ぐんっと手を引かれた。
シリウスさんだ。
痛いぐらいに掴まれた手首はびくともしない。
これはやばいだろ。離して欲しいが無理そうで、泣きそうになる。
「ちょっと!シーちゃん!!見せてくれたっていいでしょ!!」
でた!!シーちゃん!!
まさかの王后様もシーちゃん呼び!!
シリウスさんは、隠そうともせずにムッとした表情をする。
お願いだからやめろ!!こんなところで余計な問題を抱えたくない!!
「もー大丈夫よ、取ったりしないから!!」
クスクスと笑う王后様に、疑わしげな目線を送りながらもなんとか手を離してくれた。
手をさすりながら王座へ向かおうとすると、子供達も連れて行っていいとのことだったので、望を抱え、愛と手を繋いだ。
転ばないように歩いているのでゆっくりになってしまうのを見かねたミルドレッドさんが降りてきてくれたので、結局ミルドレッドさんに望を抱っこしてもらい、私は愛を抱っこして階段を登った。申し訳ない。
間近で見る王后様はとても美しくて言葉を失ってしまう。陶器のような滑らかな肌はシミひとつない。瞬きをするたびに長いまつ毛が揺れ、そのまつ毛が顔に影が落ちる様子が逆に輝きを増しているかのように見える。更に薄く色付いた頬やふっくらとした唇は色っぽい。40代半ばにはとても見えない。私より少し上くらいに見える。
そんな王后様は、もっと近くに寄りなさいと私の手を取り、引き寄せた。躓きそうになるのをなんとか堪えると、殿下はまじまじとドレスの刺繍を眺めている。
「まぁー、素敵なドレスねぇ…近くで見たかったのよー!」
「あ、ありがとうございます!」
怒られると思った学ランドレスだったが、王妃様は割と好意的に受けとってくださったようだ。
むしろ、もっと早く見たかったのに!あなたが難しい話するから!と陛下が責められていた。居た堪れない…。
「こちらのドレスはあなたが?」
「いえ、ほとんど魔術師団第三部隊の衣装部の皆様のお力をお借りしました。ドレスに馴染みのない私のワガママを通す形となり、皆様の文化とは異なる物となってしまい申し訳ありません。」
どうしてこの形になったのか、経緯も加えて説明する。
「さすがはチャーリーね。素晴らしい出来だわ。
…貴方達のこと、色々話は聞いてるわ。ごめんなさいね、私たちの国の者が。」
「いえ、えっと、はい…」
もうなんと言えばいいのか分からなくて口籠ってしまうが、王后様はにこにこと頷いてくれている。
笑顔でいてくださるだけで、だいぶ救われる。緊張は解けないけど。
「貴方のスキルも勿論素晴らしいものだけれど、私たちにはないその発想が素晴らしいわ。
…そばに置いておくと面白そうだけれど…シーちゃんがあれじゃねぇ…」
ニマニマと笑った顔を扇子で隠しているが、面白がっているのは丸わかりだ。
しかし、王宮で暮らすことは無さそうで、申し訳ないがホッとした。ちょっと別の問題でめんどくさくなりそうだが、とりあえず一番の不安は取り除かれた。
「ねー、ママー、いたいいたいよとんでけーする?」
愛が急に話を遮ってきた。私が手をさすっていたのを気にしていたようだ。どうしようとミルドレッドさんを見ると、補足説明で、愛が癒しの聖女であることに加え、すでにスキルが使えるということを伝えてくれた。
ならばちょうどいいと、愛のスキルも見てもらうことになった。
「いたいいたいよとんでけー!」
愛が、私の手を触っていたいのいたいのとんでけをすると、赤かった手首はすぐに元に戻った。
「まー!アイちゃんすごいわねぇ!」
王后様に褒められて愛は恥ずかしそうに私の後ろに隠れた。ありがとうと、よくできましたの気持ちを込めて頭を撫でてあげる。
「んー尚更そばにおいておきたいわねぇ…」
「あの、そのことなんですけど…
本来なら、私から提案することは許されないことかもしれないのですが、聞いていただいてもよろしいですか?」
王様と王后様に許可を得て、今後についての話をさせてもらう。
「今後こちらの世界で暮らしていくにあたって、最初は家族3人で暮らしていきたい、それまで魔術師団でお世話になろうと思っていました。
しかし、私たち3人の役職やスキルを考えるとそうも言っていられないのが現状だと思います。ただ、何もしないでこの世界にいるわけにはいかないと思うのです。
だから私は、この世界で私ができることを探していきたいと思っています。
その為にはこの国について学び、考え、行動しなければなりません。
しかし、私にはこの国のことが分からないので、間違えた認識を持ってしまうかもしれません。それはこの国のためにはならないと思うのです。
そうならないために、最低月に一度、陛下にご相談させていただきたいのです。」
「あら、例えば?」
王妃様が首を傾げたので、ノートとペンを取り出して、スキルを発動させてオムツを出現させた。
突然出現したオムツに皆困惑顔だ。
「これは私たちが使っていたオムツです。紙でできており、洗濯して何度も使うことはせず、使い捨てです。
現在こちらで使われている布オムツが悪いとは思いません。
しかし、旅行が楽になったり、布オムツが乾かなくて困っている時など、この紙オムツがあれば、少し生活が楽になる場面が出てくると思うのです。
そういう風に、今あるものに加えて、あると少し楽になるものを作って、役に立てればと思っています。」
王様も王后様も黙ってこちらを見ながら話を聞いてくれている。
「そこで、私が作りたいものや、やりたいことを一度陛下に確認していただきたいのです。この世界に必要か、不要か。それを教えていただきたいのです。」
国のトップに確認してもらうのだ。それ以上確かなものはないだろう。
商品とするなら、殿下のお墨付きほど影響力のあるものはないはずだ。
他の人からしたら、直接見て判断してもらえるなんて狡いことかもしれない。ただ、これをしなければ、私がこの世界をガラリと変えてしまう可能性だってあるのだ。
ずっとそばにという王后様のご希望には添えないが、私がやろうとすることは全て王妃様が把握することとなる。
「…いいわ。面白そうだもの。約束よ。」
「ありがとうございます!!」
王后様への報告は基本的には月1、何かあったらミルドレッドさんを通して連絡してもらい、臨時で会うこともできるようにしてくださるそうだ。
「色々と調整をすることになるから、すぐに対応できることばかりではないでしょうけど、私も貴方のやることに興味があるから、できる限り協力するわ。」
こうして今後とも魔術師団で生活していけることとなったのだ。
ちなみに、王后様は写真を大変気に入った様子で、娘達の写真は飾ってくださるそうだ。更にポーズを細かく指定した私の写真も撮られた。
なんでだ。
このまま謁見は無事に終了するかに思われたが、王后様がまたトンデモ発言をする。
「ねぇ、みんなにお披露目パーティーしない?」
「なんのですか…?」
嫌な予感がしつつも、確認する。
「貴方達に決まってるじゃないのよー!」
「いや、しなくても!?いいのでは!?」
晒し者にされたくないので全力で断るが、もう王后様の気持ちは固まってしまったようだ。
すぐにはできないそうだが、出来るだけ早く予定を決めてパーティーをすると決定した。
王様を恐る恐る確認すると大きなため息をついて、私の肩を叩いた。
「諦めろ。」
私は、まだまだ気を抜けないらしい。
色々あった謁見も一旦お開きになった。パーティーについての詳細は、また後日連絡が来るらしい。
「まぁ、今回シリウスが聖女召喚しちまったってことは、いつかは報告しなきゃならないことだったし、仕方ないんじゃないかねぇ。」
ミルドレッドさんは他人事のように言っているが、私はこれからやらないといけないことが山積みだ。
ある程度礼儀作法を頭に叩き込まなきゃいけないし、念のため、ダンスの練習もしなくてはならない。もしかしてドレスもまた作り直さなきゃいけないのか!?信じられない!!
頭がパンクする!!
「団長〜、それより前に、団員に報告しなきゃですよ〜」
それもあんじゃねえか!!
くそ!!目立ちたくないのに!!無理だよねー!?そうだよね!!分かってた!!
「今日の午後、イーサン達集めて早いこと決めちまうよ。
…ヒカリ、こっちで決めるけどいいね。あんたは今日はもう休みな。顔がひどいよ。」
「…あい…」
一難去って、また一難。
早く帰って昼寝したい。
私はアンネさんが用意してくれているであろう昼食に想いを馳せながら、馬車に乗り込むのだった。
読んでくださり、ありがとうございます!
評価、ブックマークもありがとうございます。
また、とんでもない誤字をしていたようで…お知らせいただいた方、本当にありがとうございました!