試着してみた
今日は学ラン風ドレスの製作状況を見に、エリックさんと一緒に、チャーリーさんの元へと向かっている。
「じゃぁ昨日はエミリーに会ったんだね。元気そうだった?」
「エリックさんもエミリーさんのこと知ってるんですか?」
「うん、僕とエミリーは同期なんだよ。」
ここでまた新事実。
エリックさんともエミリーさんは交流があったそうだ。
第二部隊隊長のイーサンさんと結婚していて、第一部隊隊長のシリウスさんの先輩で、第三部隊隊長のエリックさんと同期…エミリーさんすごいな。
「エリックさんとも仲良かったなら、エリックさんの面白い話も聞きたかったなー。」
ちょっぴり残念だ。次会った時はエリックさんの話も聞いてみよ。女関係でものすごい武勇伝持ってそう。
「ははっ!僕はそんなに面白いエピソードはないはずだよ。どんな話聞いたの?」
「…シーちゃんの話。」
エリックさんと私は顔を見合わせてにやーっと笑った。
エリックさんもシリウスさんの話は色々知ってるんだろう。
あ、そうだ。エリックさんに聞いてみよ。
「エリックさん、こっちの世界で人に花を渡す時ってなんか意味ある時ですか?」
「何急に!まぁ、そりゃ意味はあるだろうけど…お礼とかお祝いとか好意とか?」
お礼とかお祝いとかは当てはまりそうにないな。うーん…
私ももう三十路なので、好意ってのはなんとなく分かるけどさ、自惚れだったらやだし、もしそうだとしても困る。
難しい顔をしていたのか、エリックさんは覗き込んできた。イケメンのアップは心臓に悪いよ。
「ちなみに何の花をもらったの?」
「ああ、青い薔薇とカスミソウでしたね。なんで?」
「ヒカリちゃんの世界には花の意味とかなかった?花を渡すことの意味はその花が持ってることが多いよ。」
「意味?花言葉のことかな?それならありましたけど…」
「そっか。青い薔薇の意味は『不可能』『存在しない花』『神の祝福』『夢が叶う』カスミソウの意味は『無邪気』『清らかな心』『幸福』『親切』『感謝』なんだよ。」
あーなんか聞いたことあるような気がするな。同じような意味だったかも。
エミリーさんにも、カスミソウを贈ったので、変な意味がないと分かってほっとした。
「青い薔薇はさ、ヒカリちゃんみたいだよね。できないって思われてた召喚術で、本来ならここにいないはずの人がここにいるんだもん。存在しないものから、ここにいる人になったんだ。だから、青い薔薇はヒカリちゃん、カスミソウは送り手の気持ちが表れてるんじゃない?」
「っはー!!!花贈るのにそんなことまで考えなきゃいけないなんて!ただ綺麗で見せたいからってだけじゃダメなんですね!!」
ロマンチックとは無縁な私にはその繊細な心は残念ながら分からないので、世の中の人々は大変だなって他人事のように思った。
ついでにピンクの薔薇の花言葉を聞いたら『上品』とか『暖かな心』とか『感謝』『誇り』などだったので、失礼にはならないし、エミリーさんにも合ってるんじゃないかなと思う。変な花言葉じゃなくて良かった…!!
「んで、ヒカリちゃんは誰にもらったのかなー?」
口元に手を当てても隠せないくらいのニヤニヤ顔で聞いてくるエリックさんは本当楽しそうにしている。私が関わってて、花を渡してくるような人なんて限られる。更に花の意味を聞けるほど親密じゃないとなれば必然的に誰か分かるでしょ。
「腹黒マジシャンホストめ。」
「え、なにそれ?僕のこと?ホストって何?悪口か褒め言葉なのかも分からないんだけど。」
「褒め言葉ですよ、褒め言葉。」
怪訝な顔をするエリックさんに向かって、出来るだけ意地悪に見えるようにニヤリと笑ってやった。
エリックさんとギャーギャー騒ぎながら衣装部に着くと、げっそりと青い顔をしたチャーリーさんが燃え尽きた様子で椅子に座っていた。
女優さんのように美しかったチャーリーさんは今はゾンビのようになっている。
私たちが来たことに気付くと、のっそりと立ち上がり、近づいてくる。
本物のゾンビってこんななの!?怖すぎるんだけど!!無理!!
泣きそうになりながらエリックさんに助けを求めたけど、ヘラヘラ笑って何もしてくれない。
チャーリーさんから伸びる長い腕から逃れられそうもなくて、肩をガシッと掴まれる。
ひー!怖すぎる!怖くて声も出ない!
黙っていると、肩に指がどんどん食い込んでいって痛すぎる…!!
「…できたわよ…!!最高の服がね!!!」
充血した大きな目が至近距離で見開いて、痛いし、怖いしで硬直してしまった。
チャーリーさんは私のことなんかお構いなしで、オーッホッホッ!!と魔女のように笑っている。
どうしたの、ほんとに…
困っていると、エリックさんがチャーリーさんの手を外してくれて、学ランドレスのところまで連れて行かれる。
「わぁ….」
チャーリーさんに作ってもらった学ランドレスは素晴らしい出来だった。
黒い学ランドレスには相談した通りに銀色の雪の結晶が散りばめられたレースが裾の部分と襟の部分と袖の部分にも付いていて、キラキラと輝く宝石のようなものまで付いている。まるで星空のような輝きを放っていて美しい。
一方、驚いたのは白いドレスの方だ。
白いドレスはレースは縫い付けられていない。
「気合いで刺繍してやったわよ!!」
細かく蔓や蔦模様が、黒い学ラン同じ部分に施されている。白地の布に金色の植物が伸びる絵はなんと神々しいのだろう。更によく見ると、白い糸でも刺繍が施されており、布が動くたびにその白い刺繍が光を反射して、違った表情を見せるのだ。宝石なのどの装飾はないが、上品に輝く美しさだった。
これを仕上げていて、チャーリーさんはあんなにボロボロになっていたのか。作品の素晴らしさにも、チャーリーさんの思いにも胸を打たれて涙が溢れてきた。
ギョッとしているチャーリーさんに突進して抱きつく。感謝の気持ちを伝えたいのに言葉が出てこない。すごい嬉しい。
チャーリーさんは私の衝撃に耐えられずによろつき、エリックさんに支えられていた。
「どう?うちの衣装部は?」
エリックさんは誇らしげに聞いてきた。
「さいっこう…」
私は震える声を振り絞った。チャーリーさんは黙って頭を撫でてくれた。
出来上がった学ランドレスを順番に着させてもらった。
まずは黒い方。長ラン着てるヤンキーみたいになっちゃうかと思ったけど、全然そんなことなかった。広がる裾が揺れるたびに、キラキラと、刺繍と宝石が輝く。色味も派手な装飾もほぼ無いのに、ここまで美しく輝く服を作るのには相当な経験と技術がいるはずだ。
次に白い方だ。白い方は後ろから見ると、まるでウエディングドレスのようだ。純白の質の良い生地は高潔な印象を受ける。そこに施された金の刺繍が繊細ながらも力強さを演出していた。
「どうかしら?やっぱり魔術師団っぽいのは黒よね〜」
「そうだねぇ〜白はいかにも聖母って感じするね。」
うんうんと唸りながら2人は相談しているが、私の中ではもう決まっていた。
「白にします。」
だって、チャーリーさんがボロボロになるまで刺繍してくれたんだ。
私の思いを形にしようと、そのためにはレースではなく、刺繍がいいと思ってわざわざ手を入れてくれたんだ。
私はその気持ちがとても嬉しかった。
「そう…じゃあ決まりね!!」
明後日に控える謁見に向かう、勝負服が決まった。
この服を着れば、私は無敵になれる。
そう強く思ったのだった。
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