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嘔吐の表現があります。苦手な方は御気をつけください。




「ぉおぅえええぇぇぇぇ…」


初っ端からすみません。無理でした。




「では、行きましょうか〜。」


ニンマリと笑う口元は、まるでチェシャ猫のようだなとぼんやりと思う。この不審な猫は、一体私たちをどうするつもりなのだろうか。

きっとすぐに殺されてしまうようなことはないだろう。しかし、いい待遇が受けられるかどうかは分からない。

せめて愛と望だけは何とかしてやりたい。

不審者達に導かれ、少し歩いたところに魔法陣のようなものが描かれていた。本当にこんなものが存在する世界なんだな。


「この上に立てますか〜?」


望を抱っこしたままの不審者に告げられ、大人しく上に立つ。何が起こるか分からなかったので愛を抱き上げて、力一杯抱きしめた。

そんな様子の私の顔を、愛が不安そうに撫でる。そりゃそうだよね。私が怖がってたら、愛も怖くなる。私は覚悟を決め、同じように愛の顔を撫でて微笑む。少しだけ力が抜けたような気がした。


「みなさん乗りましたね?行きますよ〜。」


なんだかのんびりした声で言われ、そのまま大きな杖を地面に突く姿を眺めた。その瞬間、高速移動するめちゃくちゃ不安定なエレベーターに乗っているような感覚が襲った。

びっくりしたのか、愛も望も泣き出し、私は吐き気に襲われた。


「ぉおぅえええぇぇぇぇ…」


「おやまぁ…」


こんな移動無理…。





私は出るだけ吐いてしまい、娘たちの顔も涙やら鼻水やらでぐっちゃぐちゃになってしまった。

体調と気持ちが落ち着くまで少し待ってもらった。

よろける体を不審者の一人に支えられながらなんとか起こして、娘二人を抱えて座り、不審者達に向き合う。

不審者達は全部で4人いたようだ。みんな同じようなマントを羽織り、フードを深く被っているため顔も分からない。

チェシャ猫のような奴だけが発言していたので、その声から男性だと分かった。

テーブルを挟んで私達の向かいに3人が座り、私を支えている人が1人私の後ろに控えている。実際のところ、支えられているのか見張られてるのかは分からないが。


お茶でもどうかということだったが、子供達にはオレンジジュースのようなものを、体調最悪な私には何やら果実水のようなものを出された。

ものすごい飲みたいけど怖くて飲めない。


「お名前をお伺いしてもよろしいですか〜?」


チェシャ猫が興味津々というような態度で聞いてくる。しかし、素直に答えていいのだろうか。愛はすぐに答えそうだったので口を塞いでおく。

私たちの常識がここの常識とは限らない。魔法を使う国の常識なんて分からない。


「そちらのみなさんからお名前などをお伺いしてもよろしいですか?私たちはここのマナーが分からないので、失礼があると申し訳ないので。」


何も分からない人に対して、こちらが一方的に情報を与えてしまっては良くない。教えたくないという意味合いも込めてそう伝えると、案外すんなりと答えてくれた。


「私は魔術師団の第一部隊隊長のシリウスと申します〜。」


魔法使いのシリウスとかマジか。

某小説を思い出した。


「私の右にいるのが副隊長のルウ、左にいるのが補佐のライドン、あなた方の後ろに控えているのは隊員のサラと申します〜。」


紹介された人たちは順番に会釈をしてくれる。ただ、声も聞こえない姿も見えないじゃ見分けがつかないのだけれど。


「確認してもよろしいですか?」


自分のことを話す前にいくつか確認しなければならない。


「家名というか、私たちでいうと苗字って言うんですけど、それは名乗らない方がいいのでしょうか?あと、申し訳ないのですが、見分けがつきません。フードはずっと被ったままなのでしょうか?」


普段読んでいたラノベがこんなところで役に立つなんて思わなかった。

魔法系だと、真名は伝えると良くないとかあるし、偉い人しか苗字がないパターンもある。気にしすぎているかもしれないが、用心するに越したことはないだろう。


「見かけによらずしっかりなさってるのですね〜。そうですね、家名は相手が貴族ならば名乗った方が良いでしょう。ただ、あなたの場合ですと、現在どの家にも属していないので名乗る必要は無いかと〜。」


シリウスさんは感心したような呆れたような口調だが、きちんと説明をしながらフードを外してくれた。

シリウスさんは白い髪に赤い目の男性だった。


「うさちゃんみたい!」


「イケメンかよ…!!」


そう、あまりにも綺麗な顔で驚いた。異世界やべー。愛はシリウスさんから真っ白なうさぎを連想したらしい。興奮して指さしたので、嗜める。望は抱っこされたまま寝始めた。なんてマイペースな奴なんだろう。


シリウスさんがフードを取ったのをきっかけに、ルウさん、ライドンさん、サラさんもフードを取ってくれた。

ルウさんは女性で褐色の肌に、金色の目、黒くてまっすぐな艶髪がよく似合う。こちらは黒猫のようだ。

ライドンさんは男性で、赤っぽい髪を後ろで括っている。体が大きく、魔術師よりも騎士っぽい風貌だが、目元の小さなメガネが可愛らしい。クマさんぽい。

サラさんはとても若い。女子高生くらいに見える。茶色の髪を二つに三つ編みしている。髪が多いのかすごく太い三つ編みだ。緊張しているのか、茶色の瞳が少し潤んでいて、表情が硬い。小動物系だ。


私の反応にライドンさんなんかは少し引き気味だが、皆さんが挨拶してくれたのでこちらも返すことにする。


「私は光、こちらが愛、こちらが望です。」


「あいちゃん、じぶんでいいたかったのにー!」


サラッと紹介したら愛から反感を買う。すみません。プンスカ怒る愛の頭を撫でながら、謝る。

えっと、後は何を言うんだっけ。役職を言ってもらったから私たちは続柄でいいか。


「私は愛と望の母親で…」


「ははおやぁ!?」


私の発言はみんなを驚かせたようで4人同時に声を上げた。

そんな驚くこと?


「失礼ですが…ものすごく若く見えるのですがお年をお伺いしても…?」


ルウさんは少し震えながら、遠慮がちに聞いてくれた。ちなみに24歳だそうです。お若い。


「私が30で、望は1歳で…愛ちゃんはいくつか言えるかな?」


「あいちゃんよんさい!」


同じミスは犯さないように、愛には自分で紹介してもらった。ふんぞり返って、指を4本立てながらそう言う姿に思わず笑ってしまう。

しかし、微笑ましく思っているのはこちらだけで、魔術師団の方々は驚きを隠せないようだ。


「タメじゃん!!」


ドンっと机に拳を叩きつけたのはライドンさんだ。

ええ?ライドンさんとタメ?私が?

ちょっとそれはお互い微妙な気持ちになるな。私もこの中にいたら童顔だとは思うけど、ライドンさんは老け顔だ。

そしてその音に驚いた望が起きてしまい、場が更に大荒れになったのは言うまでもない。



読んでくださりありがとうございます!

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