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「うわああああああああ」
これは愛とルーカスくんが手を繋いで2人一緒に大声で泣いている声です。
クッキーを食べた後、室内に場所を移して、おままごとや、かくれんぼ、人形遊びなど出来る遊びは全てやったんじゃないかってくらいたっぷり遊んだ。そして、夕方になり、シリウスさんが迎えにきてくれたのだ。
ところが、余程楽しかったのか、愛とルーカスくんが大泣きしてしまったのだ。
「かえんないで!」
「まだあそびたい!」
2人は意見が一致しているので、結託して大声で泣いている。
「困りましたね〜」
「そうねぇ〜」
シリウスさんとエミリーさんはのほほんとしている。ソフィアちゃんはオロオロ。望はうとうと。私とイーサンさんはムムムって感じだ。
私とイーサンさんは無理矢理2人を離そうとしたが、逃げるわ叫ぶわで状況が悪化した。愛は疲れて眠いから余計にワガママだ。
仲良くなってくれたのは嬉しいが、ここまでとは…
泣いても喚いても抱えて馬車に乗ってしまおうかなと思っていた。
「ただいま!…あ、こんにちは。」
声の下方を見ると、イーサンさんそっくりの男の子が立っていた。
「あら、おかえり、オーウェン。」
そうだ、長男のオーウェンくん。
泣いてる愛とルーカスくんはそのままに、オーウェンくんに挨拶をする。
礼儀正しく、元気に返してくれた。
かわいいイーサンさんって感じ。
オーウェンくんは、泣いているルーカス君と愛のところに行った。
「俺、オーウェン。君は?」
「…あいちゃん…」
「はじめまして!」
愛もルーカスくんも、オーウェンくんを前に泣き止んだ。
「ルーカス、あんまり泣いてると愛ちゃんがビックリしちゃうだろ。」
「でも…」
「今度はさ!俺がいる時に遊び来てよ、アイちゃん!」
愛は人見知りしてるのか、恥ずかしいのか、俯いている。ルーカスくんは泣くのを我慢している。
するとオーウェンくんは、どこかへ行ってしまう。
このままどっか行っちゃうの!?と思っていたらどこからか縄跳びをもってきた。
「オーウェンの馬車へようこそー!ソフィアさん乗ってくださーい!」
そう言って、電車ごっこならぬ馬車ごっこを始めたのだ。
オーウェンくん賢い…
ガラガラガラガラと言いながら、ソフィアちゃんと部屋の中をぐるぐる回っている。
愛とルーカスくんはオーウェンの馬車をずっと目で追っている。
「はーい!ママも乗せてくださーい!」
エミリーさんが手を振りながら馬車を呼ぶ。
「乗ってくださーい!」
馬車にはオーウェンくん、エミリーさん、ソフィアちゃんの順番で乗っている。
ガラガラガラガラと楽しそうな声がする。
「ぼ、僕も乗る!」
「あいちゃんも!」
2人も一緒に遊びたくなったようでエミリーさんの前に入れてもらった。
そこからどうするのかと思ったら部屋を一周した後、オーウェンくんは外に向かった。
なんて賢い子なの!!!
そのままオーウェンの馬車は、シリウスさんの馬車に向かって進んでいる。
私たちも慌てて荷物を持って追いかけた。
「到着でーす!みんな降りてくださーい!」
「はーい!」
あんなに泣いていたのに、素直に降りたが、到着したのが馬車の前だと気付くとまた2人は泣きそうになる。
するとオーウェンくんはルーカス君を抱っこして、ルーカス君を説得してくれた。
「また来てもらおうよ。俺もあそびたかったし。」
「でも…」
「俺、愛ちゃんのお家にも行ってみたい!ルーカスは?」
「…僕も…」
オーウェンくんはルーカスくんの返事に満足そうに笑って、今度は愛のところに行って話しかけてくれる。
「だから愛ちゃんは、俺たちが行った時のためにお家で準備して!」
「じゅんび?」
「そう!おもしろいもの見つけておいて!」
「わかった!」
愛は使命感たっぷりに頷いていた。
今住んでるところをお家と言っていいか分からないし、そもそも呼べるか分からないんだけど…あとで確認しておこう。
とりあえず上手いこと帰る気になってくれたようなので気が変わらないうちに馬車に乗り込む。
イーサンさんにこっそりと、オーウェンくんのことを素敵なお子さんですねと伝えた。
「…まあな。」
こほんと咳払いをして、微笑みながらそう言っていた。
レア顔見れました。
「エミリーさん、何から何までありがとうございました。」
「いえいえ〜お土産たくさんありがとうね。また、来てちょうだいね。」
「はい!もちろん!!今度はイーサンさんとの馴れ初め聞かせてくださいね!!」
「まぁ〜どうしましよう。」
エミリーさんは口元をおさえて、ふふふと笑っていた。
「いいからさっさと行け。」
イーサンさんは恥ずかしいのか、シッシッと手を振って追いやろうとしてくる。ついニヤニヤしてしまう。
怒られるのもいやだったので、ニヤニヤしながら馬車に乗り込んだ。
色々あったが、とっても楽しい一日だった。
最後に改めてお礼をして、また遊ぶ約束をして、馬車は走り出した。
ガタガタと揺れる馬車の中で限界が来たようで、愛と望は寝てしまった。
さすがに2人は抱っこできなかったので、愛はシリウスさんに抱っこしてもらった。
「随分と楽しかったようですね〜」
「そうですね。お迎え、ありがとうございました。」
眠っている愛と望の顔を覗き込みながら、シリウスさんはよーく観察していた。聖女どうこうよりも、小さな子と触れ合う機会もなかったのだろう。
たまに指でツンツンとつついている。
「たくさん話聞いてもらったし、聞いちゃいました!」
うかれた私の声色に気付いたのか、シリウスさんは望から私に目を移した。
「シーちゃんの話とかー!」
「シ…!!それは…!!」
顔から湯気が出てるんじゃないかってくらい顔を赤くして動揺している。そんな姿初めて見たので、思わず大声で笑ってしまいそうになる。
「色々やらかしたこととか〜その柔らかい話し方の始まりとか〜」
にまにましながら話すと、手で顔を覆って見えなくなってしまった。
十分楽しんだので、もう何も言うまいと必死に笑いを堪えた。
「…ど〜でもよかったんですよね〜」
「え?」
「魔術を使うことだけが、僕のやるべき事で、楽しい事だったから、他の人のこと、考えたことなんてなかったんです。そりゃ、もちろんアンネやダリアのような存在には感謝はしてましたけどね。でも、それだけでした。
それこそ、感謝の気持ちを示そうとか、相手のことを思いやる?とか、した事なくて。」
顔を覆ったまま、ぽそぽそと話す言葉を逃さないように、じっとシリウスさんを見つめた。
「だからエミリーさんに言われたことも分かんなくて。まぁ確かに面倒が続くのも面倒だから形だけでもと…でも全然ダメでしたけどね〜余計腹立つなんて言われたりして。なら仕方ないですね〜って、それだけ。」
「でも、シリウスさん、私たちには謝ってくれたし、色々気に掛けてくれてるし、変われてるんじゃないですか?」
エミリーさんだって言っていた。成長してるって。
私は元々シリウスさんがどういう人だか知らないし、今だって全然掴みどころない人だなって思ってて、何考えてるかなんてさっぱり分からん。
でも、私たちのことを優先して行動してくれてるのは分かる。その行動に、責任とか、同情とか、罪悪感とかそういうものが含まれているとしても、私たちのことを思ってシリウスさんなりに考えて行動してくれてるのは分かっているつもりだ。
「…団長に言われたんですよ。」
「ミルドレッドさんに?」
「ええ、初めて団長にヒカリ様をご紹介したときに。
言われたと言うか、見せられたと言うか。」
確かにあの時、シリウスさんは遅れてきていた。そして、その後に改めて謝罪をしてくれたんだった。
その時、シリウスさんはミルドレッドさんに聖女召喚の魔術について、それはもう自信満々に説明したそうだ。
いかに自分がやった魔術が素晴らしいもので、困難なものか。そして、これができたならありとあらゆる聖女ないし、賢者や剣士を召喚できて、国も魔術も発展するのではないかと。
そして、その研究をもっとやるべきだと説いたそうだ。
するとミルドレッドさんは、シリウスさんにある魔術をかけたそうだ。
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ここでシリウスが話し始めているのは、寄宿舎に泊まってみた2(8話)で遅れてくるまでの話です!