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「…これ、カッコいい…?」
チャーリーさんとエリックさんは首をかしげていた。まぁ確かにこれだけじゃそう思うかもしれない。
学ランの素晴らしさは、人が着用した時に輝くのですよ…!!
無理矢理にエリックさんのマントを脱がせ、マントの下のジャケットも脱がせ、ワイシャツになったところで、学ランの上着を着せた。
するとどうでしょうか!?
イケメン!!学ランを着用したイケメンがそこに立っているではないですか!!
「恥ずかしいんだけど…」
エリックさんは恥じらっている。
レア顔、いただきました。
ニヤニヤとエリックさんの学ラン姿を堪能していると、チャーリーさんが口元に手を当てて考えている。
「なるほどね。この詰襟はつかえるわね。これをベースに考えるわ。」
チャーリーさんは、先程私が描いた絵をじっくりとみると、私に書き換えるように指示を出した。
「前の部分が中心で開くようになっているじゃない?そこをコックコートみたいって言ったらいいのかしら…
そうそう、少し開く部分をズラすのよ。
そして、そのまま丈を長くして、スリットみたいな感じ。
いいわ、そして中はすっきりとしたパンツスタイルで…どうかしら。」
ボンっと、チャーリーさんの指示通りに出したドレスは、上半身はチャイナドレスとか、アオザイのような形になっているが、下に向かえば向かうほど大きく広がっている。後ろから見るとAラインドレスのようだ。
裾はジャケットがそのまま伸びているような状態なので、大きくスリットが入っている。なので歩くとテーパードパンツが見えるようになっている。
「どうですか!?」
チャーリーさんのアドバイスを受けてできたそのシルエットはとても綺麗で、自分が描いた絵がこんなにも素敵なドレスになるとは思いもしなかった。
はしゃいでチャーリーさんの方を向くと、チャーリーさんはなんだか考えている。
「ねぇ、ヒカリ。なんでこれ黒なのかしら。」
「え…」
確かに言われてみればそうだ。
私が今チャーリーさんと描いた絵は、色をつけておらず、白の図案だったのだ。
それなのに出てきたのは黒いものだった。
しかし、最初にチャーリーさんに見せたドレスは淡いグリーンのドレスだったし、そのほかもいろんな色ができていた。
どうしてこれは黒になったのか。
「ねぇ、ヒカリちゃんさ、学ラン?ってのをベースにしたから、この色なんじゃない?」
口を開いたのは様子を見ていたエリックさんだ。
「シリウスが用意したドレスを描いた時はさ、そのドレスをそのままイメージして描いてたよね?他のも、チャーリーの記録を見て描いてたし…もしかして、頭で思い描いたものとリンクするんじゃないかな…?」
なるほど…!!
つまり、私の頭の中と、私が描いた絵の両方が合わさり、実体化するのだ。
言われるまで気付かなかったが、確かに全ての絵は白黒というか、色つける作業はしていない。
それなのに出てきたものは色が付いているのだ。
全然気にしていなかった…!!
まさかの衣装部でスキルの謎が一つ解明してしまった。
「じゃぁ、このドレスなんだけど、白だと思ってもう一着作ってくれないかしら。」
チャーリーさんに言われて、白だと思いながら同じデザインのものを描いた。
すると、白と黒で色違いのドレスが出てきたのだ。
「エリックさん!やっぱりエリックさんの言う通りかもしれません…!!」
気付いたチャーリーさんも、推測したエリックさんもすごい!たぶん私とシリウスさんだったら気付かなかった…!!
デザイナーの色彩感覚は素晴らしいなと感心して、チャーリーさんの顔を見ると真剣な表情でドレスを睨んでいた。
「これ、どちらもこのままだと地味よね。」
形は中性的で、いいとは思うけど、確かにそう言われてみればそうかもしれない。
「これに飾りをつけるとまたゴテゴテした印象になっちゃうわ。かと言って刺繍を全体に施す時間は取れない…」
うーん…
私も洋服のことはさっぱり分からないのでなんとも言えない。
考え込んでいると、私がさっき出現させて、ボツになったドレスたちが目に入った。
バサバサと一つ一つを見ていくと、私がいた世界のパンツスタイルのドレスに目が行った。
「レース…」
私は咄嗟に思いつき、チャーリーさんからハサミを借りた。そして、私が出したドレスの首元から肩部分にあったレースを出来るだけ大きめに切り取った。
「チャーリーさん、こうやって裾部分にレース縫い付けるのはどうですか…?刺繍するよりは時間がかからないですよね?」
「…色は?」
「うーん…私の勝手なイメージなのでありきたりかもしれませんが、白い方なら金色っぽいのとか…黒い方は銀色のとか…」
なんか、白魔道士とかって、白と金じゃない?
黒いのは銀色と一緒なら星空っぽくて綺麗じゃない?
なんて安直な考えだったので、チャーリーさんに何か言われそうで怖かった。恐る恐るチャーリーさんの方を見ると、ウインクしてくれた。
そのままチャーリーさんは部屋を出て行って、帰ってきた頃には両手に抱えるように、金色のレースと銀色のレースを持って帰ってきた。
「さぁ!ここから選ぶわよ!!」
チャーリーさんの目は輝いていた。
机の上にレースを並べて話し合う。
エリックさんにも男性目線で参加してもらった。
「花柄のレースは男はちょっとキツイんじゃないかなー?」
「確かにそうですよね…」
「じゃぁ蔓か蔦ならどうかしら?これでも結構ゴージャスになるとは思うわ。」
「わ!素敵ですね!!金のレースはこれにしましょう!」
「銀はどうする?」
「そうねぇ…」
「星がないなら…雪の結晶とか…」
「なるほど!いいわね!」
三人寄れば文殊の知恵というか、たくさんのレースの中から候補はあっさりと決まった。
キラキラと光を反射させているレースは眩しいくらいだった。
あとはどの部分につけるかが問題だ。
「膝より下がいいんじゃないでしょうか?」
「そうね、グラデーションがいいと思うの。レースを使えるなら、範囲も狭いし、その辺は刺繍を上手く使ってみるわ。」
「ありがとうございます!」
どんな仕上がりになるのか、ものすごく楽しみだ。
3日後に締め切りがあるということで、2日後の午前中に一度見に来ることになった。その時はエリックさんがまた迎えにきてくれるらしい。
「もしかしたら式典などの衣装も必要になるかもしれないので、その時はまたお世話になると思います。」
「もちろん!アタシに任せてちょうだい!中性的なんて、腕が鳴るわー!!」
腕まくりをして見せてくれたその腕は、顔に似合わずムキムキの筋肉がこんもりと山を作っていた。
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