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あれ?
全然煌びやかじゃない…?
作業中の人たちが何人かいたが、それぞれが服を縫っていたり、必死に何か描いていたり、頭を抱えたりしていた。
呆気に取られていると、エリックさんが大声でチャーリーさんを呼んだ。
すると作業している人のうち1人が、さらに奥の部屋に入っていった。
そこからは恐ろしく高身長の美人が現れた。
「何よ、エリックじゃない…あんたなんてタイミングで来んのよ…アタシ今スランプなのよ…」
どんよりとした表情の、美人な…オネェさん…?
ものすごく美人だけど、声がめちゃくちゃ渋い男の人の声だった。
なるほど、シリウスさんやイーサンさんが苦手なのってそういうことか。
だったら私にはあまり関係がないだろう。
「チャーリーにちょっと相談があってさ!あ、こちらヒカリちゃんね!」
「ぇー…ちょっと、変なことじゃないでしょうね…あら、アンタ、シリウスんとこのお客さんじゃない?どうしてここに?」
綺麗なオネェさんのチャーリーさんは私のことを知っていたようで、首をかしげている。
エリックさんが、ここじゃ話せないからとチャーリーさんに、耳打ちをして、先ほどチャーリーさんがいた部屋に入り、そこで話すこととなった。
そこで、改めて自己紹介をする。
チャーリーさんに頼むのは陛下との謁見に臨む服装だったので、誤魔化しきれないと思ったので全て話すことにした。
チャーリーさんは表情豊かな人で、異世界から来たことを話すとビックリし、それをやったのがシリウスさんだと知ると呆れ、私が未亡人で、母親にも父親にもなりたいんだということを話すと泣いた。
なんて、感受性が豊かな人なんだろう…
なんかライドンさんっぽいな。
「OK、話は、分かったわ…アタシ、アンタのために素敵な服を作るわ…期限はいつなの…?」
「3日だよ。」
エリックさんがサラッと言った。
チャーリーさんは白目を剥いた。
「ええええええ!?エリックさんなんですかそれ!?1から服作るのにそんなの無理ですよ!?」
一気にやる気を失ってしまったチャーリーさんをなんとか支えながら、エリックさんに訴える。
あまりの無茶ぶりにチャーリーさんと一緒に泣きそうになる。
しかし、エリックさんはキラキラの笑顔を絶やさない。
「大丈夫だよ、ヒカリちゃん。君のスキルがあればね。」
「あ。」
そういえばそうかもしれない…いや、そうなのか?
服を作るのに3日とか有り得なくないか?こっちの服ってめっちゃ凝ってると思うんだけど…
「ちょっと、なんの話よ?」
チャーリーさんは、得策があるかのようなエリックさんの言い方に食いついた。
エリックさんは、私のスキルを使うことを前提に考えていたのか、準備よくノートとペンを取り出した。
しかも、これ、私が自転車描いたやつじゃん。持ってたんかい。
「えっと…じゃぁ、チャーリーさん。ちょっとできるかわかんないですけど…見ててもらえますか?」
許可をとって、テーブルの一部をお借りして、ざっくりとしたドレスの絵を描いた。これは私が先ほどまで着ていたドレスだ。
確かこんなだったような…と思い出しながら描いてみる。
チャーリーさんはその絵をじっと見て観察している。
描き終えてから、ボンっという音が鳴ると、やはりドレスは出現した。
あんぐりと口を開けているチャーリーさんにドレスを渡した。チャーリーさんはドレスを手に取り、角度を変えたり、裏返したりして隅々まで見た後、そっとドレスを置いて、頭を抱えた。
「エリック…アンタ…やるじゃない…」
「でしょ?これなら3日でなんとかなりそうじゃない?」
「…やれるだけやるわ…」
チャーリーさんはなんとか引き受けてくれることになった。
しかし大変なのはここからだ。
デザインを最初から考えなくてはならない。
「アンタはどういうの作りたいと思ってんの?」
そう聞かれて、頭をフル回転させる。
私は根本的にシンプルなものが好きだ。ただし、この世界でそれが美徳とされているのかはわからない。
シリウスさんからお借りしたドレスはどれも飾りがたくさんついていて、ふわふらキラキラしたものが多く、そういうものが女性には求められているのかもしれない。
「…とりあえず私の世界のパンツスタイルのドレスを描いてみるのでそれを見て、意見をもらってもいいですか?」
了承を得て、いくつかパンツドレスを描くことにした。
一つ目は、首元や肩がレースのようになっていて、下半身はスカーチョのようなワイドパンツ になっているドレス。
二つ目は、肩の部分がフリルの袖になっており、ズボンはテーパードパンツですっきりとした印象の物。
三つ目は、ノースリーブの袖で、ウエストに大きなベルトが付いていて、腰回りがすこし広がっているトップスの物だ。これはスカーチョでもテーパードパンツでも合いそうだったので、トップスだけ描いた。
その3着を見てチャーリーさんは唸った。
「地味よぅ…」
ですよね。
なんとなく分かってた。
やはり女性らしい物だともっとふりふりキラキラしたものがいいらしい…。
もうちょっと方向を固めたほうがいいのかもしれない。
チャーリーさんと私の長い話し合いが始まった。
「私個人的には2パターンの分類があると思ってます。」
「どういうこと?」
コンセプトは母親であり父親だということだ。
だから、女でも男でも着られるということ。つまり中性的なパターン。
もう1パターンは、女のいいところと、男のいいところを取った、いいとこ取りパターンだ。
「私の印象だと、夜ほど煌びやかに、派手なドレスで…って印象だったので、いいとこ取りパターンは式典で使えればなと思っています。」
「そうねぇ…」
「私が今優先的に作らなきゃいけないのは陛下との謁見のためのドレスなので、ここはあえて中性的なものがいいかなと思っています。」
「なるほど…」
そこで、私は今までチャーリーさんが手掛けてきた男性用の衣装の記録を見せてもらうことにした。
男性用をベースに考えた方が、そこに女性らしさを出していきやすいと思ったからだ。
まずはスーツのような服のジャケットの丈を長くしたものを描いた。
「これじゃただの燕尾服よねぇ…」
ありきたりで、普通に男性の服だった。
次に目をつけたのは軍服だ。
カッコいい!と思って軍服メインで考えたのだが、今度はゴスロリみたいなごてごての服になってしまった。
そこから先も同じようでぐちゃぐちゃとした次々とできあがる。
うーん。
2人で唸りながら頭を抱えた。
私が一番好きな男の子の服装はなんだ!?
カジュアルじゃなくて、正装で、一番好きな服…
「学ランだ。」
私が思い浮かべたのは、夫の高校時代の制服姿だった。
元々、学ランが好きだったが、夫の学ラン姿を見て、より一層学ランが好きになったのだ。
「なんなのよ、それ?」
チャーリーさんは首をかしげたので、一旦学ランを描いて出してみる。
詰襟で、シルバーのボタンが輝く黒い学ランが出てきた。
しかし、これだけではまだまだ駄目だった。
読んでくださり、ありがとうございます!