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久しぶりに3人だけの時間を過ごしているような気がする。

ただ、私たち3人だけで絵本を読んだり、人形で遊んだり…そんなことをするのが懐かしく感じることに驚く。


こちらに来る前は、そんな時間がたまに苦痛に感じるほど、当たり前で。

そらー大変なことも山ほどあったけれど、こうしてそれがないところへ来たら、その日々がどれだけ大切なものだったのかを思い知らされる。

いつも以上に甘えてくる愛と、私と愛の顔を交互に見ながらはしゃぐ望の姿を見ると、やはりどこかで無理していたんだと改めて気付いた。


しばらくそうして過ごしていたが、徐々に望の機嫌が悪くなり始め、愛の口数も減っていく。どんなに楽しい時間を過ごしていても、やはり睡魔にはまだ勝つことはできない。


「じゃぁ、この続きは明日やることにして今日は一旦寝ようね。」


私はお絵描きをしていた2人の手からクレヨンを受け取り、片付けを始める。

望は泣いて嫌がるし、愛も少しムッとした表情になる。そんな2人の行動さえも、あーこんな感じよねと受け入れられるのが不思議だ。

だって今までギャーギャー泣かれたり、不機嫌そうにされたら、私もどうしてもイライラしてしまっていたもん。


人の手が多いというのは、それだけで心強い。それはこちらの世界に来て痛感している。

元の世界にいた時は、全て自分でやらなければならない。お金を稼ぐこと、食事を作ること、掃除や洗濯…自分のことだけではなく、子供たちが過ごすのにどのように過ごせばいいのか考えて行動すること。


そう考えると、こちらの世界で私がしてることって一体なんなのかと考えさせられる。

お金は持ってないけど、なんか、誰かが何かを買ってくれてて、物に不自由はしてない。ドレスなんかオーダーメイドで作ってもらっちゃってさ。そんなの元の世界でなんかしたことない。

食事や洗濯、掃除なんかは、アンネさんとダリアさんがやってくれる。なんならアンネさんとダリアさんは愛と望のお世話もしてくれてる。

…私ここで何やってんの?自分でもよく分かってなくね?その状況って普通に考えてやばいと思うんだけど…

至れり尽くせりされてて文句言うのもどうかと思うんだけど、それでもこんだけ自分が何者なのか分かってないって、すんごい怖いことだなと思う。

だって、このまま放り出されたら、私たち3人は確実に野垂れ死ぬ。

逃げ道を失っているように思う。


改めて考えるとめちゃくちゃ怖くない?

今自分が置かれている状況が謎すぎて、ゾッとしてしまう。

…いや、冷静に異世界に飛ばされてること考えるとそれがありえなさすぎてまず大混乱なんだけども。

その状況にあぐらをかいていて、周りに流されてここまで来てしまった感がすごいな。

あまりにも、他人におんぶに抱っこなこの現状に茫然としていると、愛が心配そうに見上げてくる。


「…ママねないの?」


「寝るよ、寝る。トントンする?」


いかんいかん。

さっきまで楽しく過ごしていたのに、ここで不安にさせてしまってはいけないと、慌てて取り繕うが、子供はよく親の顔を見ているものでそう簡単には誤魔化されてはくれない。


「ママ、あした、ちゃんとあいちゃんといっしょにシリウスのところいくからね。」


「…ハイ。」


「あいちゃんもいっしょにおはなししてあげるからね。」


「んーそうね、愛ちゃんは優しいねー。」


諭すように4歳児に言われる30歳児がここにいますよー。

私は苦笑いしながら愛の背中をトントンと叩く。まだ何か言いたそうな4歳の小さな先生はそのリズムに身を委ねることを決めたらしく、ゆっくりと瞼を閉じたのだった。






寝かしつけのつもりがいつの間にか一緒に寝てしまっていたようだ。

少し肌寒く感じる違和感に、子供たちに布団を蹴られてしまったのだろうと思い、手探りで布団を探す。

しかし、更なる違和感に飛び起きる。


「望!?」


私は子供達の間に挟まれて寝ているのだが、望がいたであろうところに温もりがない。

愛はちゃんと布団をかぶって寝ているようだ。

慣れない目を凝らしながら部屋の中を見回すと、窓が開いていてカーテンが揺れているのに気付いた。

まさか窓から外に出てしまったのかと慌ててベットから降りて窓へ走り、カーテンを思い切り開けた。






「いやお前誰やねーーーーーーん!!!!」






カーテンを開けた先にある小さなバルコニーには、望みを抱っこしてるなんだか訳わからんほど美人がいた。

望は私のデカい声に驚いているようだが、お利口さんに抱っこされたまま、その美人の緑がかった白く長い髪をいじっている。

本当に誰!!怖い!!


「…騒がしい奴だな。」


「は!?男!?おとこ!訳わからんすぎ!夢!?夢か!?」


あまりにも綺麗すぎて女の人だと勝手に思い込んでたけどめちゃくちゃ低い声で男だと気付いた。

とにかくこのまま望を抱っこさせたままだと怖すぎるので、返してもらうように交渉したいが、得体がしれなさすぎてどうすりゃいいか分からない。下手をしたら望が殺されてしまうかもしれない。

夢であってほしいと思うが、肌に当たる夜風の冷たさが現実に引き戻してくる。


「そう慌てるでない。別に取って食おうとなどせん。貴様も親ならこの子の警戒心が解かれている時点で分かりそうなものだがな。」


目の前の美男子はくすくすと笑いながら、髪に絡まりついた望の手を丁寧に外し、そのまま望みの手に自分の指を握らせて遊んでいる。

確かに、望は今まで自分や身の回りの人が危険に晒されていたら反射的にスキルを発動させてしまっていた。

しかし、まだ油断はできない。今までは物理的に攻撃されそうになっていたから、そうなっただけで、敵意を表に出していないものに対する対応は見たことがない。

この美男子が敵か味方かなんて分からない。


てか普通に不審者でしょ。


「…あなたは誰なんですか。」


私はどこか薄気味悪さを感じながら、その美男子に問いかけた。


「最近、我が子の魔力の起伏が激しいようでな。ちと様子を見に来たのだ。それに、しばらく前から貴様のことは気になっていてな。ちょうどいい理由ができた。」


…子供…?


「…まさか、ユウかユキの親…?」


「違う。我が子はこっちだ。」


ハッと馬鹿にしたように笑うと、美男子は人差し指を軽く振った。

するとズドンッと大きな音と共に現れたのは


「ロレンツォ!?」


「…ったぁ…て父さん!?」


「おう。久しいな、我が息子よ。」


「うっそだろおおおおおおお!?」


ロレンツォのパパ!

ロレンツォのパパって言ったらアレでしょ!?もう昼間にモメたやつの!!なんで!!

まさかこんなにすんなりと顔を合わせらる…というか、精霊から突撃訪問を受けるだなんて思わなかった。

てかもういい加減休ませてくれ!!

次から次へとやってくる災難に私は頭を抱えるしかなかった。


望とロレンツォパパだけは何故か和気藹々と楽しそうにしているのだった。

大変遅くなりました。

こんなに長く時間が空いてしまうとは私も思いませんでした。

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