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ドラゴンが黒光りする翼を広げて、グルグルと上空を飛んでいたあの光景が蘇り、思わず身震いをする。

何故そんなものを…と思わずにはいられない。

あの時の恐怖を誤魔化すように両腕をさすっていると、ユウとユキは申し訳なさそうに下を向いた。


「何故あなた達がそんなものを持っているんでしょ〜?」


シリウスさんが二人に質問した。

私も二人がそれを持っている理由は気になる。

ユウとユキは顔を見合わせて、何かを覚悟したように頷き合う。

ここに来てから色々な人と関わるようになったユウとユキだが、まだまだこの二人にはこの二人にしか分からない世界がある。それはとても素敵なことだけれど、それと同時に今後の二人の関係がどのように発展していくのか気になるところだ。


「本当はヒカリ様には見せないつもりだったんだけど…こちらに来てください。」


なんだかすごく怖いんだけど。







「ここです。」


私とシリウスさんは、二人に連れられて雑木林の奥を進んでいった。

そこには木が生えていない空間があり、こんもりと土が盛り上がっている部分がある。

ユウとユキはそこに跪いて手を合わせた。

一体何をしているんだろうか?

二人がこの場所で、何故そんなことをしているのか、訳が分からず首を傾げていると、二人が振り返り、真っ直ぐに私達を見た。


「これ、その時のドラゴンの墓なんだ。」


またも思いもよらぬ言葉に眩暈がした。





あの時、捕らえられたドラゴンは魔術師団に連れて帰っていたらしい。

そして、ここで殺され、しばらくの間は研究の材料となっていたそうだ。動物の遺骸を用いた研究など、どのようなことが行われるのか容易に想像できる。

動物実験に100%賛成はできないけれど、それが世の中に役立つこともあるというのは事実だ。ここの研究者達は優秀なので、きっと余すことなくその研究に役立てただろう。


「俺達、あの時さ、行きたいって言ったんだよ。ライドンの兄ちゃんも怖い顔して準備してて。オリビアの姉ちゃんなんか顔真っ青にしてガタガタ震えてたんだぜ。」


「…とても怖いことが起こってるんだってすぐ分かりました。」


ユウもユキも、当時のことを思い出しているのか、両手を握りしめながら話している。

淡々と話しているように見えるが、握られたその手は微かに震えていた。


「お願いだから連れてってくれって頼んだんだよ。でも、ダメだって言われた。何が起こるか分からないから、連れて行けないって。でもさ、俺…行きたかったんだよ。ヒカリ様とアイがいなくなったんだよ。俺をここまで連れてきてくれた、人と関わることの楽しさを教えてくれた人達だよ。」


「ヒカリ様が私を連れてきてくれなければ、私はきっと生きていません。名前もなく、個人として扱われることなどなかったでしょう。アイ様がいなかったら、私はここまで他人に心を開けていません。お二人は私にとっても、ユウにとっても恩人なんです。」


二人の目からは、ポタポタと涙が溢れ始めた。私とシリウスさんは二人に声をかけることも出来ずに黙って涙が落ちていくのを眺めている。


「おかしいじゃん…ノゾミは俺らより全然ちっちゃくて。全然まだ赤ちゃんでさ。途中からだったけど、ちゃんと自分の家族助けに行ったよ。でも、俺らは?なんもできなかった。させてもらえなかったんだよ!

俺らのスキル、珍しいんでしょ。役に立つんでしょ。いっぱい教えてくれたじゃん。褒めてくれたじゃん。だから、自信も持てたよ。あの日、舞台だってちゃんとやり遂げたでしょ。

それなのに!俺達は!肝心な時に何もできなかったんだ!!」


ユウがそんなに苦しんでたなんて知らなかった。


「元々、ライドンさんがお二人の救出に向かった時にはまだドラゴンの情報はありませんでした。だから…仕方ないのかもしれません。それでも、シリウス様がノゾミ様を引き取りにいらした時にお願いしたんです。でも…許可してくださりませんでした。

…私達がまだ、未熟、だったから。」


魔物遣いにもレベルがあるらしい。そもそも魔物を従えることができるだけでもすごいのだけれど、訓練をしていくことで、より強い魔物を従えられるようになると教わったことがある。

シリウスさんは、あのドラゴンと二人を対峙させるのはまだ早いと判断したのだろう。

私としてはその判断は賢明だったと思う。

もし、あそこでユウとユキに何かあったら、事態は確実に悪化していた。

二人もそのことは頭では理解しているのだろう。しかし、心から納得しているわけではない。


「すげー怖かったんだ。ヒカリ様がいない、アイもいない。ライドンの兄ちゃんも、シリウス様も…もしかしたら皆いなくなっちゃうんじゃないかって。待ってる間ずっと怖かった。でも、それよりも悔しかったんだよ。大事な人たちが大変な思いしてんのにさ、なんで、ここにいんだろって。」


「チャーリー姉様も、大丈夫だとおっしゃってくれていました。けれど…ずっとソワソワしていて…何もできない無力な自分が情けなくて…」


「二人とも…」


「だから!!」


ユウは、泣いてボロボロになってしまった顔を乱暴に拭って立ち上がった。

汚れた手で拭ったから、泥も付いてしまってぐちゃぐちゃだ。


「俺達、決めたんだ!絶対強くなるって!絶対絶対絶対!皆を守れるくらい、頼ってもらえるくらい!スライムのことはもちろんちゃんとやる!だけど、それだけじゃなくて!ちゃんと、ちゃんとした魔物遣いになるんだ!!」


ユウの叫びが私の胸に突き刺さる。


「その気持ちを忘れないように…あの時の弱い自分を忘れないように…ライドンさんにお願いして、お墓とネックレスを作らせてもらいました。これは…私達がなりたい自分になるためのお守りです。」


私は二人の決意に言葉を失った。

ただ、体は勝手に動き、二人のことを抱きしめていた。

二人が、これからを見つめてくれているのは嬉しかった。その日暮しをしていた二人が、将来の明確な目標を立てている…生きようとしてくれていることが嬉しかった。

しかし、私がここに連れてきてしまったせいで、二人は抱かなくていい罪悪感を抱いてしまった。小さな二人には重すぎる業を背負わせてしまった。


「ごめん…ごめん…」


連れてこなきゃよかった…とは言い切れない。私が裏通りからこの子達を連れ帰らなければ、まだあの暮らしを続けていただろうから。

日に日に健康的になっていくこの子達を見ていると、連れてきたのは正解だったと思う。

しかし、二人がここまで思い詰めてしまったのも私のせいだ。

こんなに小さな子達に、色々押し付けてしまった。全く別の世界に連れてきて、ただでさえ大変なのに…

生活が変わることがどれだけ大変なことか、私が一番よく分かっていたはずなのに、深く考えずに同じことをやってしまっていた。

私は馬鹿みたいに謝罪を繰り返す。

ユウとユキは私にしがみついて泣きながら、謝らないでと小さく言った。


「…俺達、頑張ったことなんて、なかったんだ。

だって意味ねぇじゃん。頑張ったって、腹が空くだけなんだ。何にもなんなかったんだ。だけどさ…ここは違うじゃん。頑張ったら、笑ってくれる人がいて、褒めてくれる人がいて。頑張るってすごいんだ。ここに来て、知ったんだよ。」


「…ヒカリ様…ヒカリ様のおかげなんですよ…私達が、先を見られるのは…」


「ぅあ…ごめ…っ!泣くつもりじゃ、なかっ、たんだけど…!」


二人の言葉を聞いて涙が止まらなかった。

ごめん、本当にごめん。

ありがとう。

最終的に、ボロボロ泣く私を二人が慰めてくれたのだった。


二人に抱きしめられながら泣いていた私は、案の定泥だらけになって、シリウスさんに洗浄魔法をかけてもらった。随分と呆れられたけどね。

私とシリウスさんもドラゴンの墓の前にしゃがんで手を合わせた。

ごめんね、ありがとう、と心の中で呟いて。

手を合わせた後、シリウスさんはしばらく挙動不審だったのでどうしたのかと思ったら、チラッとユウとユキを見て、モジモジしていた。


「…別に、君達がダメというわけではなかったんですよ〜。ただ、色々と、未知数だっので〜…まぁ、そんなに、気に病むことではない、とだけ。」


フォロー下手くそか!!

でも、シリウスさんにしては上出来だろう。その気持ちは二人にも伝わったのか、クスクスと笑っていた。







ユウとユキと別れて、私達は客室に戻った。色々あったので心身共にヘトヘトだ。部屋に戻ったらアンネさんに暖かいお茶でも淹れてもらおうと思っていたのだが、そこにはまだ誰もいなかった。

きっと魔術師団探検を楽しんでいるんだろう。

私はドスンと椅子に座って、深くため息をついた。


「っあーーーー。疲れましたね。」


私はそう言いながらシリウスさんに目をやると、シリウスさんは真剣な顔でこちらを見ていた。


「え?座らないんですか?」


「ヒカリ様、何か隠してるでしょ〜。」


ムスッとした様子でシリウスさんはそう言った。

私は頭をフル回転させて、どうにか誤魔化す方法を探す。

この人は口が達者だ。

綻びを見せたら、すぐにそこを攻められる。

鋭い視線に耐えきれず、いっその事もう全て話してしまいたくなるが、そうもいかない。

この魔術馬鹿にロレンツォの秘密を話すわけにはいかないからだ。

シリウスさんから目を逸らせぬまま、沈黙が続く。


突然、ガチャッとドアが開く音がした。


「ヒカリ様、こんにちはー。ちょっとお話が…」


タイミングわっるー!!!

いや、むしろいいんか!?

いや!?分からん!!


「あ…また、きます…」


「ちょっと待ってくださ〜い。どうしてあなたが?」


シリウスさんは驚いて、その人物に声をかけた。

そう、やって来たのはロレンツォだったのだ。

そりゃなんで第二部隊のロレンツォが私を訪ねて来るんだって話ですよねー。

あーーーー。

私はこの状況をどうすればいいのか分からず、より一層深いため息をついたのだった。


読んでいただきありがとうございます。


ブックマーク、感想、レビュー、評価、とても嬉しいです。

誤字報告も助かります。


これからもよろしくお願いします。

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