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あれから数日が経ち、ようやくアポが取れたので私は強ーい味方…になってくれればいいんだけどどうなんだろうって方に会いに行く為、シリウスさんと馬車に乗っていた。
子供達は久しぶりにイーサンさん一家と遊んでもらっている。魔術師団から出るのはまだ危険ということで、今日は皆さんに客室に来てもらって遊んでいる。
ルーカスくんはダンスの練習で何度も来ていたが、他の子達は来たことがなかったのでものすごく興奮していた。父親であるイーサンさんの職場の見学にも行くそうで、目を輝かせていた。
奥さんのエミリーさんは元魔術師団員だったこともあり、案内役にはピッタリだし、何かあったら対応できるようにアンネさんやダリアさんの他にも、今回はサラさんも一緒にいてくれるそうだ。
母親である私が不在で申し訳ない気持ちもあるが、エミリーさんが張り切って引き受けてくれたのでお願いしている。
ちなみにこのお願いをする時にイーサンさんに今回のことで御礼と謝罪もした。でも、イーサンさんにも自分の部下がすまないと謝られてしまった。後処理で忙しいのもあるが、すっかり自信を無くしてしまったようで、随分とげっそりしていた。
何と声をかけるべきか迷ったが、たった一人の部下の誤ちよりも、その他大勢の功績を見てほしいと伝えることしかできなかった。実際に助けに来てくれたのは大勢の第二部隊の人達だしね。
私の気持ちが伝わったのか、こちらに気を遣ってくれたのかは分からないが、イーサンさんは少しだけ微笑んでくれたように見えた。
「…本当にヒカリ様は度胸がおありで〜僕も日々鍛えられてる気がしますよ〜。」
シリウスさんはムスッとしながら馬車の窓のところに頬杖をついて恨言を吐いてくる。
私もシリウスさんを振り回している自覚はあるので言い返さずに愛想笑いを浮かべる。
「…あなたこれから自分がしようとしていることがどんなことか分かってるんですか〜?」
「ん〜ちゃんとは分かってないかもしれませんね。だからこんなに呑気なんですよ。」
ヘラヘラしてそう言うと、シリウスさんはわざとらしく大きな溜息をついた。
正直なところ、割と大変なことをしているなという自覚はある。それから、早く色んなことを片付けようとしているということも。
最近、大丈夫ですか?と聞かれることが多くなった。
ふとした時に、ロレンツォに言われたことを考えてしまうから、ぼんやりしてることが急増した。
周りの人たちは、こないだの事件のせいだと勝手に勘違いしてくれるので深く追求されずに済んでいる。
もしかしたらシリウスさんは何か違和感を感じている可能性はあるけど。
私はシリウスさんの嫌味を聞き流しながら窓の外を眺めて、目的地への到着を待った。
「ヒカリ様、シリウス様、お待ちしておりました。」
到着した私達を出迎えてくれたのはシャーロット様だ。相変わらず完璧な礼をしてくれて、思わず見惚れてしまう。
私達がやって来たのは王宮。
強ーい味方…というのはシャーロット様ではない。
今回はシャーロット様にも、関係がある話なので同席してもらえるようにお願いした。
「今回のことは何と申し上げたらいいか…ご無事で何よりです。」
「あぁ、割と大丈夫です。今日はよろしくお願いしますね。」
「…本当に実行なさるおつもりで…?」
「まぁ…言ってみないと分かんないんで。」
緊張した様子のシャーロット様に何度も確認されたが、私の気持ちは変わらない。お待たせしているだろうから、早く案内してもらうように頼む。
「この人、こういう人なので諦めた方がいいですよ〜。」
躊躇しているシャーロット様にシリウスさんがにこやかにそう言った。
それはそうなんだけどシリウスさんに言われると微妙に腹立つな。
若干険悪な私とシリウスさんの間に挟まれたシャーロット様はオロオロしながら歩き始めた。
「陛下、シリウス様とヒカリ様をお連れいたしました。」
「はーい。」
部屋の中から声が聞こえたので扉を開けてもらい、お辞儀をして中に入る。
私達が今日、会いにきたのは王后様だ。だいぶ無理を言って時間を作っていただいた上に、今からお願いしようってんだから流石にちょっと申し訳ないので手土産も持参している。
「まぁまぁ、今回は本当に災難だったわね。会いに来てくれて嬉しいわ。」
「いえ、こちらこそ御多忙中お時間をさいていただいてありがとうございます。こちら、よろしければどうぞ。」
私は準備しておいたハーバリウムの品々を渡した。可愛らしい形の瓶や、細長い形の瓶に詰められたハーバリウムを何個かと、ネックレスやイヤリングも用意した。
「これはハーバリウムと言って、ドライフラワーを詰めたものです。普通の花よりもだいぶ長持ちいたします。好きなところに飾っていただければと思います。あとこちらのアクセサリーは…陛下のお召し物としてはだいぶ控えめだと思ったのですが、陛下のご意見もいただきたく、お持ちしました。」
「あら、そんなのよかったのに…大変な思いをしたんだから、こんな気遣いいいのよ。でも、せっかくだからよく拝見させていただくわ。」
王后様は一つ一つ手に取ってよく見てくださっている。王后様が見ている間、私は取り扱いについて簡単に説明した。
うんうんと頷きながら笑顔で聞いてくださっている。
「長持ちするのは素敵だわ。これは喜ぶ人も沢山いるはずよ。それに、このアクセサリーも…たしかに貴族がつけるものとしては物足りないけれど…本物の花を使っているなんて素敵だわ。侍女達にも意見を聞いておきましょうか?」
「はい、ありがとうございます。」
ハーバリウムは陛下も気に入ってくれたようでホッとする。
やはりプレゼントとして花は最強だな。
私達は促されるままに椅子に腰をかけて、陛下からの質問に答えていく。
主にこないだの事件についての話だったが、報告も聞いているようなので内容の確認といった感じだ。
あらあらまぁまぁと穏やかに聞いてくれているものの、時折眼光が鋭くなるので心臓に悪い。私のせいじゃないんだけどさ…
「本当に災難だったわねぇ…まぁ、これであのオークションについてはどうにか片付けてもらうわ。こちらの騎士団も使うけれど、そちらの第二部隊にも協力していただくことになると思うわ。」
「はい、もちろん〜。」
「第二部隊も今は大変でしょうけど…」
陛下はこちらのことも気遣いながらも、何としても片付けてね、という圧力を感じる。
…本当に一掃できるのを願うばかりです、はい。
「…で?シャーロットがいるのは何故なのかしら?」
きた。
本題だ。
私達はその王后様の美しい笑顔に気圧されそうになり、ぐっと息を呑む。
頑張れ、私。
私はその美しくも恐ろしい瞳を見つめ、口を開いた。
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