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重苦しい夕食は早々に終わらせて、ユウとユキに愛と望の相手を頼み、大人たちだけで今回のことを話すことになった。
「その…ヒカリは本当に大丈夫なんですの?」
オリビアは私のことを随分と心配してくれている。
サラさんも同じようで、悲しそうな顔をしてこちらの様子をうかがっている。
なんというか、怖い思いはした。他人の悪意と歪んだ愛情をこれ以上ないくらいにぶつけられた。
でも、何か起こる前にシリウスさんやイーサンさん達が来てくれたのでそんなに心配されるほど落ち込んでもいない。
そのことを伝えると、納得はできないが受け入れるという姿勢になってくれた。
私に起こったことを覚えている範囲で最初から話す。
パウエルの発言や、ネイサンの行動を聞いているときの女性陣はものすごい顔だった。特にサラさんはそんな顔できたんか?ってくらいに嫌悪に満ちた顔をしていた。
シリウスさんとライドンさんは正確な記録を残すために、メモを取りながら改めて聞いてくれている。所々、この時自分たちはこういう風に動いてましたーってのも教えてくれた。
本当に今回はたくさんの人にお世話になったのだなとしみじみ思う。
「その…ネイサンはこれからどうなるんですか?」
「あー…パウエルとネイサンは余罪がありそうだから、このまま一生牢屋だよ。
パウエルの方は自分は悪くない関係ないって喚いてるようだけど、無駄だろうね。これで上手いことオークションの方を片付けられるといいんだけど…
ネイサンは…牢屋でずっと歌ってる。」
「…歌?」
「聞いたことない歌なんだけど、空飛びたいーみたいな。」
「…それ、多分私が教えたやつです。」
誘拐事件が起こる前に私がネイサンと出会った時のことをまだ話していなかったので皆に伝えると、なんとも言えない表情をされた。
たった一度、一緒に歌ったことをきっかけにあそこまで執着されるということに疑問を抱いたのは私だけではないようだ。
もしかしたら、ネイサンは誰かと歌うとか…楽しいことだったり悲しいことだったり…そんな些細なことを共有できる人が一人もいなかったのかもしれない。
それはとても寂しいことだし、もし本当にそうなら同情するけれど、だからと言って今回のことを許す気にはなれなかった。
ライドンさんは少し咳払いをして気持ちを切り替えたのか、今度はエリックさんについて教えてくれた。
「正直なところエリックはちょっと難しい。あいつあんなんでも隊長だったから、だいぶ功績あるし、今まで罪を犯したわけでも人殺してるわけでもない。理由が理由で情状酌量…ってのもあるんだけど、だからといって魔術師団には戻れない。でも、魔術師団について知りすぎてるから野放しにもできない。
…だから結局は一生出てこられねぇかもなぁ。」
「ご家族はどうなんでしょう?家柄もいいんですよね?」
「あー…アイツ用意周到で。離縁届用意してたわ。家には迷惑かけないようにしてた。まぁ、シェイラ嬢のご両親は泣いて喜んで、エリックの減刑を求めてる。エリックん家はだいぶショック受けてるっぽい…当たり前だけどさ。」
ライドンさんは心底残念そうにそう言った。それを聞いていた皆も同じような表情をしている。
私自身、エリックさんに対する感情は複雑だ。
今までしてもらったことを考えるとたくさん助けられたが…娘を狙われたのだ。母親としては、もう関わりたく無いという気持ちもある。愛のシェイラさんを治療したいという気持ちは尊重したいにしても…なるべくならばエリックさんに近づかない方法をとらせたい。
しかし、夫を亡くした身としては…エリックさんが必死になっていた気持ちも分からなくはないのだ。やり方は間違えたと思うけれど、彼の婚約者を思う気持ちは否定しきれない。
「…私はもうエリックさんを信用できません。」
そう言ったのはサラさんだ。
サラさんはグッと手を握りしめて、眉を顰めて続けた。
「エリックさん、婚約者様のことがあったのでよく図書室にいらしてたんです。だから…接する機会も第一部隊の中では多い方だと思うんですけど…その時はいつでも感じ良く接してくださいました。
…ただ、その裏で今回の事件を起こす為の計画を練っていたのだと思うとゾッとします。何よりも…小さなアイ様を標的にしたことが許せないのです…」
「…そこは私も同感ですわ。でも、仕事は本当に優秀でしたの…」
皆が皆色々と思うところがあるらしく、うーんと唸りながら頭を抱えている。
「もういっそ、こき使っちゃいましょうか〜?」
シリウスさんがボソッと言った。
「ほら、人体実験とかどうでしょ〜?」
ニコニコと楽しそうにそう言うシリウスさんはまるで悪魔のように見える…
…でも、悪くないかもしれない。
それはあまりにも…と言うライドンさん達に私も発言する。
「解剖とかそういう実験ではなく…例えばこの歯のGPSみたいなものを試しに使ってもらう人みたいなのはどうですか?私はこれ付ける時とか、結界張った服とか着る時に自分で試行錯誤しながらやってましたけど…顔面はめちゃくちゃに腫れたし、体は痺れてたしで割と生活に支障出てたんですよね。そういうのをエリックさんにやってもらうっていう感じで。」
「割と皆が嫌がりそうなことですし〜仕事ない人がやるにはちょうどいいかな〜って。」
それを聞いた一同は、悪くは無いが良くもないだろ…といったような反応で、イマイチ決めかねていた。
「結構いい案だとは思うけど、常にそれがあるわけじゃないだろ?それが無い時は一体どうすんの?それじゃあまりにも軽いだろ。」
ライドンさんの指摘は最もだ。
そもそも全部が全部歯を抜いたり、体が痺れたりするものではないので、ほぼ魔術師団で働いていたのと変わらない。
…あれ、そういえばさっき夢でなんか言ってたよね?
強ーい味方…?
強い…
「んああああああああああ!!!ちょっといいこと思いついたかも!?」
私があまりにも大きな声を出したので皆ビクー!っと体を震わせた。ごめんね。サラさんなんかお茶ちょっと溢しちゃったね。
私が目を輝かせて皆に話すと、だいぶ反対されたけど…これが一番いい方法だと思う。
私は早速行動に出ることにした。
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