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小さな家の中で、愛の居場所を探すのには時間がかからなかった。
廊下に出て一番奥の部屋の扉を開けると、そこは寝室で、シングルサイズのベッドが2つ並んでいる間に一回り小さなサイズのベッドが置かれている。
真ん中の小さいベッドに駆け寄ると、布団に入っていた形跡はあるものの肝心の愛の姿がなかった。
愛は隣のシングルベッドに移動したようで、そこには愛とシェイラさんと思われる人物が横たわっていた。
「愛ちゃん、愛ちゃん、起きて!」
私は愛を必死に揺さぶって起こそうと試みる。だいぶしつこくした甲斐もあり、顰めっ面をしながら唸り始めた。
「ぅ〜…おきない…まだねてる…」
「愛ちゃん!ママ!ママだよ!!」
「…ママ…?きたの…?」
目を開けないままにそう話す愛を無理矢理抱えて上半身を起こし、その暖かさを確かめるように抱きしめる。
ああ、とにかく無事でよかった…
愛は苦しかったのか、腕を伸ばして私の顔を押しやってくる。私は渋々離れることにして、シェイラさんの方に目を向ける。
プラチナブロンドのふわふわの髪に、同じ色の長いまつ毛、小さな鼻がとても愛らしい顔立ちをしている。肌は白いのを通り越して青白い。
この人が、エリックさんの婚約者…
私がまじまじと見てると、愛がシェイラさんについて説明し始める。
「シェーラしゃん、エリックのおひめさまなの。びょうきでずーっとねんねしてるんだって。あいちゃん、いたいいたいよとんでけすればげんきになる?」
「ん〜…どうだろうね。」
「あいちゃん、やってみたい。」
私は何と言っていいのか分からずに言葉を濁した。私は魔術についてまだよく分かっていない。愛がどれほどの力を持っているのか、コントロールがどの程度できるようになっているのか、分からないから安易に判断するわけにはいかないのだ。
私よりもライドンさんの方が分かるかもしれない。
とりあえず愛を抱っこして、そっとベットから抜き出して、シェイラさんに布団をかけ直す。
「…ちょっと待っててくださいね。」
私は一言だけ声をかけて寝室を後にした。
「二人ともちょっといいですか?」
そう声をかけると、悲壮感たっぷりの表情の二人が同時にこちらを見た。
私はシリウスさんの手から滴り落ちている血にギョッとする。
とりあえずシリウスさんの方に行って手を開かせて自分が着ていた検査着の裾を破って巻きつける。検査着だからまぁまぁ清潔だろう。
申し訳ないが今はシリウスさんのことは後回しにさせてもらう。
「あのね、愛、シェイラさんのこと治したいんだって。」
「…え?」
驚いて声を上げたのはエリックさんだ。シリウスさんは無表情で自分の手に巻かれた布を眺めていた。
「でも、私にはどの程度効果があるかも分からないし、悪いけど愛が魔力切れを起こすまではやってほしくない。」
「…うん。」
「そんで、今望とライドンさんが外にいるの。愛はユウとユキの治療をやってきてるから、ライドンさんなら私よりもよく分かってるかもしれない。だから連れてきてもいいかな。」
「もちろん…!!ごめん、ヒカリちゃん…本当に…ありがとう…!!」
エリックさんは泣きそうな顔をしていた。
流石にまだエリックさんと過ごす気にはなれなかったので、エリックさんとシリウスさんの二人でライドンさんを呼びに行ってもらった。
ちなみにエリックさんの手はシリウスさんの結界で手錠のように括られ、逃げようとしても逃げられない。
私は愛を膝に乗せたまま、ダイニングチェアに座ってみんなを待つ。
「…なんでシェイラさん助けたいと思ったの?」
愛に聞いてみると、愛はまだ眠たいのか目を擦りながら話し出す。
「あいちゃんねーエリックすきなの。」
「…うん。」
「エリック、ずっとかなしいかおしてる。エリック、シェーラしゃんすきでしょ?」
「そうだね。」
「あいちゃんがねー、いたいいたいよとんでけしたらエリックにこにこなるかなー。」
ああ、そうだった。この子はそういう子だったわ。
私は複雑だけど、優しい子に育ってくれたのだなと思い、愛の頭をそっと撫でた。
サラサラの髪の毛の感覚を楽しんでいると、みんなが戻ってきた。
「のんちゃんだー!」
愛は無邪気に望に手を振って喜んでいる。望もニヤッと笑って愛に手を伸ばした。二人揃った娘の姿を見て私はなんだかホッとしてしまう。
そして大人たちの顔を見てギョッとする。
…エリックさん、ライドンさんに殴られたんだな。
左頬を真っ赤に腫らしてボロボロになったエリックさんは困ったように笑っていた。
そして、ライドンさんは愛の目線に合わせてしゃがみ、愛の小さな両手を包み込むように握った。
「はー…アイ様、無事でよかった…」
お腹の底から絞り出すような声に、胸がギュッと締め付けられる思いだ。ライドンさんは愛と話し合いながら色々確認している。お腹がすいてきたら必ずやめることとか、いくつか約束事を決めて、私たちは再びシェイラさんのところへ向かった。
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