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今回、暴力的表現や女性蔑視など、センシティブな内容に触れる部分があります。あくまでも小説の演出としての表現であり、他意はございません。苦手な方は閲覧をご遠慮ください。
「察しが悪いな。あの家だけが特別扱いされるのが気に入らん。聖女を召喚したから何だというのだ。シリウスとかいうガキは裏通りのゴミを拾ってきただけのこと、アランの方は我が家のネイサンと大差ない。それなのにあれほどまでに国王と深く関わっているのはおかしいとは思わないか?」
「…で、何で私が子供を産むことになんの。」
パウエルの主張は下らない嫉妬だ。それが私とどんな関係があると言うのだ。パウエルはチッと舌打ちをして私の顔から乱暴に手を離す。爪が当たって頬が引っ掻かれたようで、ピリピリとした痛みが走る。
「あの家は随分と貴様にご執心のようだからな。私が奪って、あいつらが欲しがっている子を産ませればどんなに悔しがることか。しかもお前は聖女を2人も産んでおる。私との子供はどんなスキルを持って生まれてくるのか…楽しみだ。」
ニタニタと笑って私を見下ろすパウエルに吐き気がする。
なんて馬鹿げた考えだろう。
エリックさんがわざわざ意見を変えてまで私に聖女らしい格好をするように提案したのも、散々御託を並べていたくせに、結局はパウエルが気に入るようにしただけだったのだ。
「きっしょ…」
「何だと?」
「気色悪いっつったんだよ、クソ野郎。」
私がパウエルに向かってそう吐き捨てると、パウエルは顔を真っ赤にして私のお腹を蹴り上げた。くっそいてぇ。
エリックさんは、パウエルの後ろで腹を抱えて笑っている。
「ハハハッ!!ヒカリちゃん流石だねぇ。でも、もう決まったことだよ。僕は愛ちゃんが欲しくて、君が邪魔だった。パウエルさんは、君が欲しかった。その利害が一致したのさ。だからネイサンが協力してる。」
「…ご丁寧に…ご説明どうも…」
お腹が痛いので背中を丸めながらエリックさんに嫌味を言う。だが、そんなものはエリックさんにまるで効くわけもなく、ただ楽しげに笑っていた。
「我が子を産んだ後は魔物とでも子を産ませて、その子供を高値で売り払ってやるわ。精霊との子とまでは行かぬとも、それ何のものが生まれるだろう。精霊の子はいくら探しても見つからん。だったら新たに高値で売れるものを作るだけだ。聖母ならそれくらいできるだろう。」
精霊との子というのはシャーロット様から教えてもらった絵本のことだろう。
売り払うという単語が出たことで、ヘクター達が行っていたオークションのことが頭をよぎる。こいつも繋がっていたのだ。こいつは人の命を何だと思っているのだろう。私はパウエルの下劣さにうんざりした。
「私がテントでネイサンに会った時も仕組んでたってわけ?」
「いや、あれは偶然だよ。ネイサンの存在は必要以上に君に知られたら厄介だと思ったからね。良くも悪くもネイサンを意識されると、動きづらくなるからね。だけど、君には驚かされてばかりだよ。まさかあの一瞬であんなに仲良くなるなんてね。だから敢えて利用することにしたの。」
はー、最悪。
まんまとエリックさん達の都合がいい方に自分で転がっていっちゃったってことね。自分の認識の甘さをここまで呪ったことはない。
私が後悔していると、ずっと黙っていたネイサンがスッと手を挙げて発言する。
「父上、私、ヒカリ欲しい、です。」
「…は?」
ネイサンの突然の言葉に私だけではなくパウエルもエリックさんも同時に目を丸くした。
「…ネイサン、何を言ってる。」
「私、ヒカリと結婚したい、です。」
あまりの展開に流石のエリックさんも予想していなかったようであんぐりと口を開けている。
私も全く同じ気持ちだ。ほぼ接点などないのにどうしてそんなことになったのだろうか。
「ふざけるな!何故お前が?元はと言えばお前が最初にしくじったのがいけないんだろう。」
パウエルは呆れたように吐き捨てる。しかし、聞き捨てならない発言があった。最初にしくじった…?
「どういうこと?」
エリックさんを見上げると、ポリポリと頬を掻いて困ったように話し出す。
「いやー…あの時は僕も関与してなかったんだけど…第二部隊でアランが怪我したことあったでしょ?ヒカリちゃんが狙われてたんじゃないかーってあれ、やったのネイサンなんだって。」
「なぁ!?」
「ねーびっくりするよねー。あの時からパウエルさんはヒカリちゃんを狙ってたっぽくてさ…まぁ、今は殺すつもりはないみたいだし、よかったんじゃない?」
「良くねぇから!馬鹿じゃないの!?」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ私とエリックさんをよそに、親子喧嘩は繰り広げられる。
「あの時お前がこいつを殺してれば、わざわざこんなことせずとも良かったのだ!!お前の尻を拭ってやろうとしているのに何故私の邪魔をする!?許さんぞ!」
パウエルは汚く唾を撒き散らしながらネイサンを怒鳴りつけるも、ネイサンはどこ吹く風だ。それどころか、ネイサンはパウエルに人差し指を向けた。
「…何のつもりだ。」
「父上、うるさい。もう、いい。殺す。」
「いやいやいやいやいや!!ちょっと!ネイサン!ダメ!いや、どうなんだ!?私もちょっと死ねばいいと思っちゃってるけど!?」
「ぶゎっはっは!!もうヒカリちゃん面白すぎ!!」
「笑っとる場合か!!!」
急に行ったネイサンの暴走に、私が大慌てで止めるも、エリックさんの笑いを誘ってしまったらしく、現場は大荒れだ。パウエルだけは自分の置かれた状況を理解しており、顔を真っ青にしている。
すると、ネイサンは誰の話も聞かずにスッと人差し指を振った。
「ぐぁっ…!!」
パウエルは耳を押さえて片膝をついた。一体何が起こったというのだ。パウエルが抑えていた耳からはタラタラと血が流れ始める。
ネイサンのスキルは音を操れる。もしかしたらその音を使って耳の中を破壊したのかもしれない。
「父上、私、ヒカリ、欲しい。」
「待て…ネイサン…!!お前にはこんな奴よりももっと上等な奴を探して来てやる。お前ほどの者が、わざわざこんな使い古しなどと結婚なんぞしなくても良い!」
ほんっとクソ野郎だな。ミソジニーもいい加減にしろ。
腹が立ったのは私だけではないようで、ネイサンはもう一度指を一振りして、パウエルのもう片方の耳にも攻撃した。
「やだ。」
蹲るパウエルの元へゆっくりと歩み寄り、ネイサンは冷たく見下ろした。パウエルはただガタガタと震えるだけでそれ以上言葉を発せずにいた。
そこへ助け舟を出したのはエリックさんだ。
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