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「あの〜…」


話がまとまったと思ったら、サラさんが遠慮がちに手を挙げた。

一斉に視線を集めたので、ビクリと肩を揺らすが、意を決したように話し出した。


「他の団員についてはどのように説明しますか?」


ミルドレッドさんをはじめ、隊長さんたちはすっかり忘れていたようで、うーんと考え込んでいた。

サラさんは遠慮がちに話しはじめた。


「実は…ヒカリ様をシリウスさまの…その…恋人だと噂する声が出ておりまして…」


「いや絶対無理!!」


なんでそんな噂立てられてんの!!

絶望で頭を下げたら、まんまとおでこを強打してしまった。痛い。

なんでも、客室に泊まっているのは誰かという話が出て、サラさんもいたにも関わらず、シリウスさんが出入りしていると言うところだけ切り取られて広まったらしい。更にシリウスさんの家からメイドさんが付けられたことや、ドレスを大量にもらったことで大騒ぎになってしまっているとのこと。


本気で嫌がる私に、シリウスさんは微妙な顔をしているし、ミルドレッドさんとエリックさんは笑いを堪えているのか肩がぷるぷるしてるし、イーサンさんは可哀想なものを見るような目で見ている。


「ねぇどうにかしてくださいよおおおおお」


どうしてくれんだ!と、シリウスさんに掴みかかると、シリウスさんはお手上げのポーズをしてヘラヘラしている。


「ママまた!シールスにやったらだめでしょ!」


「愛ちゃんー!ママ悲しいよー!!」


愛が間に入って止めに来たので、ぎゅーぎゅーに抱きしめて落ち着こうと努めた。愛は、ママの頭を撫でるようにぐしゃぐしゃしてくれる。

一通り撫でたら、おしまい!と言ってわたしから離れてシリウスさんのところに行った。

シリウスさんは愛に目線を合わせるようにしゃがんだ。


「シールス、いたいいたいよとんでけー!」


なんだかちょっと違う気もするが、可愛いので良し。

イーサンさんに殴られて赤く腫れていた頬を触りながらそう唱えた。

シリウスさんはニコニコ笑って愛に付き合ってくれている。


すると異変が起こった。


愛が手を離したら、頬の腫れが引いて、元の綺麗な顔になっていたのだ。



「えええええええええええ!?」



もう次から次へと…!!!

流石のイーサンさんも驚きの表情だ。

愛もびっくりして、自分の手を眺めている。

愛の手を引いて、私の方に向かせ、愛の体に異変がないか確認する。


「愛ちゃん、痛いところある?」


パッと見たところ、外傷はない。どこか異常がないか聞くと、愛は黙って首を横に振る。


「あいちゃん、いたいいたいよとんでけできた?」


「う、うん。できたみたい。」


シリウスさんの顔を見て、私に確認すると、パーっと表情を明るくしてはしゃぎ出した。

魔法が使えたのが嬉しいのだろう。

嬉しいのは分かる。

でも、これはまずい。

これに味を占めて、色んなところで治療し始めてしまっては危険だ。


助けを求めるようにミルドレッドさんを見る。

ミルドレッドさんは近くに手招きをして、愛を呼んだ。


「アイ、よーく聞くんだよ。」


「うん!」


「シリウスの顔を治してやったのは良くやったね。簡単にはできることじゃないよ。

だけどね、これは色んなところで使ってはいけないよ。」


「どして?」


「アイの力がまだどんなものか分かっていないからさ。もしかしたら、痛いのがアイに移ってしまうかもしれない。そしたら、アイが痛い思いをするんだよ。」


それは怖い。

優しい子だから、怪我をしている人をそのままにはできないだろう。

たまたま今回が成功しただけかもしれないし、どうなるかさっぱりわからない。

もし、広まってしまったら戦場に駆り出されるかもしれない。

そうなると愛が危険だ。


「今度、誰かを治したいと思ったら、必ずあたしか、ここにいる大人、ママでもサラでもいい。誰かに相談するんだよ。」


「うん…わかった。」


「ちゃんと約束できるかい?」


「あいちゃんできるよ。」


ミルドレッドさんはにっこりと笑って愛の頭を撫でてくれる。

愛は嬉しそうにしている。

まだ小さいので、もしかしたら約束を忘れてしまうかもしれない。そうならないようにしっかり様子を見ていかなければならない。


「まさか、ここまでとはな。」


イーサンさんが考え込むように呟いた。どう言うことなのか分からず、首を傾げるとエリックさんが説明してくれる。


「アイちゃん、まだ4歳だよね。そんな小さい子がスキルを使えるのって無いってわけじゃないけど、稀なんだよ。大体10歳くらいから使えるようになるの。」


「それは…」


親としては、娘が優れているというのは喜ばしいことだと思う。

ただ、喜んでばかりもいられない。小さい子供が力を持っていると、それを使おうと企む奴が必ず出てくるのだ。

子供は自分で良し悪しを判断することができない。

だからこそ、慎重にならなくてはならない。


心が不安で埋め尽くされそうになる。

私はこの子をちゃんと守ってやれるのだろうか。

考え込んでいると、ドンッと肩に何かぶつかった。


「おー?」


望が、顔を覗き込んでいた。

どうやら肩にぶつかったのは望で、何やら喃語を一生懸命に話している。

何を伝えたいのか全く分からないが、慰めようとしてるのかと勝手に解釈した。

望を抱き上げて立ち上がる。


「皆さん、ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。確実にお手を煩わせると思います。どうか、私たちが正しい判断ができるようになるまでで構いませんなので、協力していただけないでしょうか。」


みんながいるを向いて頭を下げる。

私はこの人たちがいないと何もできない。


「もーヒカリちゃんてば。さっきみんなでそうするって決めたでしょー?」


エリックさんがくすくすと笑っている。

顔を上げると他のみんなも頷いてくれている。


「まーったく!あたしらが責任取るって言ってんだろ!ちょっとは信頼しな!」


ミルドレッドさんが近づいて来て軽く頭を叩かれた。

安心しな、と囁かれる。

この人たちがいてくれれば、なんとかなる気がする。


「私も出来ることはやります!」


引っ込み思案のサラさんにまでそう言われたら、グズグズ言ってるのがバカらしくなる。

大丈夫だ、きっとなんとかなるだろう。

私はやっと心から笑えるような気がした。


「よろしくお願いします!!」


改めて皆さんに挨拶した。

今度は心からの言葉で。








…なんか忘れてるような気もしてるけど、いっか。

読んでくださり、ありがとうございます!

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