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驚きの訪問者



エリックさんにたっぷり叱られた後は私に出来ることも確認することもなかったので魔術師団の客室に帰ることになった。

1人で揺れる馬車に乗って部屋に入る。


「…どういう状況?」


そこにはなぜかシャーロット様がいたのだ。シャーロット様は第二王子の婚約者で断罪イベントされたあのお嬢さんだ。

そんな方がここに来ているということも驚いなのだが、シャーロット様の膝の上には愛が座っており、絵本を読んでもらっている。

いやいやいやいやとんでもないことしてんなぁ!?

状況を整理するのにもたついている間にシャーロット様が愛に断りを入れて立ち上がり、まさにお姫様のご挨拶と言った華麗な礼を見せてくれた。


「突然の訪問、申し訳ございません。失礼なことだとは承知しておりますが、なかなか時間がとれずにこのような形になってしまいました。お許しください。」


「いやいや許すも何も…そんな、いつでも来てくださって構わないんですけど…どうしたんでしょうか…」


正直なところ、シャーロット様については気になってはいた。

シャーロット様が晒し者になってしまい、そこに割って入ったのは純粋に助けたいと思ったからだ。しかし、シャーロット様の気持ちはどうだったのかは分からない。もしかしたら、余計なことをしてしまったのかもしれないし、その後自分の計画に一方的に巻き込んでしまっている自覚もあった。悪い言い方をすれば利用しようとしていたのだ。その後ろめたさもあって、シャーロット様のその後について確認する勇気が出なかったのだ。

私の罪悪感を表情から受け取ったのか、シャーロット様は困ったように笑った後、私に深く頭を下げた。


「あの時は申し訳ありませんでした。知らなかったとは言え、聖母様方のお披露目の為のパーティーだったと後に聞かされました。そのようなパーティーで、騒ぎを起こしてしまったこと、大変申し訳なく思います。」


「ええ?シャーロット様はひとつも悪いことなんてないでしょう。それに謝られても…勝手にでしゃばって騒ぎを大きくしたのは私ですし…今思えば頭使ってお芝居だってことにして逆に盛り上げちゃえばよかったですよねぇ…」


「え?」


私の言葉にシャーロット様は目をパチクリさせていた。

あの時は望がスキルを発動してしまって、周りのことを考える余裕がなかった。しかし、考えれば考えるほどもっと上手に騒ぎを収める方法はあったはずなのだ。自分の視野の狭さに嫌悪する。


「そうすれば第二王子の評判を落とさずにいけたかもしれないのに…自業自得だとは思うけど…小さい頃からの婚約者だったんですよね。私、その辺の感覚が分からないから余計なことしちゃって…」


「…そんな…」


「いや、シャーロット様の気持ち聞かないで勝手に色々やったし…こちらこそ早くそちらに謝罪すべきでした。ビビっててすみません。」


自分が面倒から逃げて陛下に丸投げしていた罰の悪さから、自分がいつになく饒舌になっているのを感じながら頭を下げる。

シャーロット様はいつまで経っても声をかけてこないのでしばらくそのまま頭を下げていたのだが、何も反応がなかったので恐る恐る顔を上げてみた。


シャーロット様、泣いてる。


ポロポロと涙を流しながら、シャーロット様はフリーズしていた。こういう時ってどうすれば…!?

私は泣かすつもりはなかったし、泣くポイントがどこにあったのかも分からない。分からないからどう声をかけていいのか分からない。私がとりあえず涙を拭くものを持ってこようとモタモタしているうちに救世主が現れた。


「おねーちゃん、どうしたの?ぎゅーする?」


我が家のアイドル愛ちゃんは流石の対応です。シャーロット様の顔を覗き込んで両手を広げている。

愛の方に目線を下げたシャーロット様の瞳からは更に涙がこぼれ落ちた。それを見た愛は、ん!と言いながら更に手を伸ばした。

困惑したままのシャーロット様だったが、愛の元へヨロヨロと力なくしゃがみこんで目線を合わせてくれた。その隙に愛はシャーロット様へ抱きついて、トントンとまるで赤ちゃんを寝方つけるように背中を優しく叩いたのだ。


「おねーちゃん、だいじょぶよー。いいこねー。」


…望をあやしているのと同じ気持ちなのだろうか?赤子扱いも無礼に当たるのではないかとハラハラしていたら、シャーロット様はぐっと眉を顰めた。しかし、それは怒ってしまったのではなく、ギリギリ保っていた理性が壊れてしまったのだろう。そのまま愛にしがみついてわんわんと泣き始めたのだった。




「…っ…申し訳っ…あびばぜんっ…!!」


ぐずっぐずになりながらも、多少落ち着いたのか何とか声を発したシャーロット様は未だに愛を抱っこして座っている。愛の肩に顔を埋めたままなのは顔を見られたくないからだろう。アンネさんに頼んで温かいお茶をシャーロット様に淹れてもらったのだが、とても飲めるような状態ではないようだ。

王后様に随分と評価されていた彼女がこんな風になってしまったのだから、相当我慢していたのだろう。私は少し深呼吸して、頭の中で考えながらシャーロット様に声をかける。


「…何に対して謝ってるのか分からないけれど、もし、泣いてしまったことに対して謝っているのなら、それは間違いです。謝る必要なんかない。私はあなたが今までどんな思いをしてきたのか全く知りません。それでもね、辛かったろうなってことくらいは推測できます。それを我慢してきたんだろうなってことも。それが、溢れ出してしまったことは悪いことじゃないんだから謝んないでくださいよ。そもそも私だってあなたを傷つけた人間のうちの1人です。罵倒したっていいんだから。」


むしろ、こんな若い子をこんな風になるまで追い詰めてしまったのだからお前のせいだと言われてもしょうがないと思うわ。

私の言葉を聞いたシャーロット様は愛の肩に顔を埋めたまま、首を左右に振ってポツリポツリと話し始めた。




読んでいただきありがとうございます!


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