2
最終的にルーズサイドテール…と言うのだろうか。片側にまとめた髪を緩く三つ編みしたような髪型のウィッグを使用することに決まった。
当日更に飾りを差し込んで華やかにしてくれるらしい。
私もそのウィッグをかぶって、ドレスを試着してみる。3人で揃えられた衣装を着る機会なんて今までなかったので、照れくさい気持ちもあるが、それよりも嬉しさが込み上げてきた。
チャーリーさん達は遠目で見たり、近付いて見たりしてこれから衣装をどう変えていくか話し合っている。
愛は綺麗なドレスが嬉しいのか裾を持ってゆらゆら揺らして微笑んでいる。
一通り話し終えたのか、脱いでもいいと言われたのでそれぞれ手伝ってもらいながら元の服に着替えることになった。
私はマリーさんに手伝ってもらっている。慣れた手つきで紐だかリボンだかを解いていき、私はあっという間にドレスから解放される。何度かドレスを着ることがあったものの、やはり全然慣れないな。
トルソーに丁寧にドレスをかけるマリーさんの背中を見ながら、先程のエリックさんとのやりとりを思い出していた。
「さっきエリックさんと話してたんですけど、婚約者さんについて惚気られちゃいましたよー。」
「…隊長が?」
「ええ、ニコニコしながら。」
「そうですか…。」
マリーさんは驚いたように目を見開いてこちらを見てから、サッと目を逸らしてしまった。
表情が暗い。何かまずいことでも言ってしまったのかと、今更後悔しても遅い。そもそもエリックさんのプライベートな話を勝手にしてはいけなかったなと反省する。
「…すみません、聞かなかったことにしてください。」
「え!?な、なんでですか!?」
「…なんか悲しそう見えたんで…もしかしたらマリーさんってエリックさんのこと好きだったのかなって…」
「えぇ!?それは誤解です!!隊長は素晴らしい方ですがそんな気持ちを抱いたことはありません!」
ぶんぶんと手を振りながら否定するマリーさんは、うーんと悩んだ顔をしたり、パッと決意した顔をしてこちらを見たりを繰り返していた。きっとエリックさんのことを話すべきなのか悩んでいるのだろう。私はそこまで重要なことだと思っておらず、何か話のネタにでもなればいいなと思った程度だったが、マリーさんがそんな風になってしまうくらいだから私が知らない事情があったのかもしれない。そういう事情があるのならば、マリーさんから又聞きするのではなくエリックさん本人から聞くべきだ。私は慌ててマリーさんに話さなくていいと伝えると、少しホッとしたような悲しそうな顔をしたのだった。
私達は着替えを終えてから、多少気まずさを残したまま皆のところへ戻った。そこではチャーリーさんが図案を広げて愛に見せながら真剣な顔をしてうんうん唸っていた。
何をやってるのかと思えば、ユウとユキの分の衣装をどうするのかまだ決めていないと言うのだ。
私も図案を見せてもらったが、どれもこれも気合の入ったもので目を見張った。
「んーもう!!ユウもユキも可愛いから絶対に全部似合うのよ!!だからどれにしようか迷っちゃって!!しかも顔は見せられないって言うでしょ!?全く…顔を見せなくてもあの子達の可愛さが全て伝わるようにしたいのよ!!」
そう興奮しながら頭を抱えているチャーリーさんに苦笑しながら一枚一枚見ていく。どれもこれも服の装飾が多い。
「あの、ユウとユキのパフォーマンスってどんな感じなんでしょうか?もしいっぱい動くのであれば着慣れてる格好とか、動きやすい格好の方がいいかもしれません。私ほどではないと思うんですけど…こちらの服、慣れないと動きづらいので…」
「…なるほどねぇ…私達は生まれた時からこの形の服を着てるからなんとも思わなかったわ…悲しいけれどあの子達は違うものね…」
チャーリーさんは悲しそうな顔をしてから図案を眺めていた。
「…そうだ!貴方達の世界で動きやすくて可愛い衣装とかないかしら!?」
「ええ!?」
今度は私が頭を抱える番になってしまった。私は動きやすい服を思い浮かべていた。運動するときの服はジャージがいいと思うが、それはフェスティバルの衣装としては相応しくないだろう。そこで私が思い付いたのはハロウィンだ。魔物使いとして皆の前に出るのだから魔物の仮装とか可愛くない?
私は早速紙とペンを借りてダボっとしたオーバーオールを紙に描いて、そのお尻の部分にふさふさとした尻尾をつけた。その衣装とセットで、帽子から耳が生えた物を描いて出現させた。
チャーリーさんに頼んでトルソーを持ってきてもらって、オーバーオールをかけた。
「この下にはいつも着てるシャツを着て…この衣装は犬っぽいイメージで作ったんですけど、魔物モチーフにして尻尾や耳を付けて、目元を仮面で隠す感じ…くらいですかね、私が思いつくのは…」
説明しながら、なんだか物足りないような気がしてきた。チャーリーさんも可愛いと褒めてくれたがやはりピンとはきていないようだった。
「でも、参考にさせてもらうわ。着眼点はおもしろいもの。」
「大してお役に立てず申し訳ありません…」
「なに言ってんのよ!衣装を作るのが私の仕事なんだから!絶対当日までに二人を最っ高に可愛く見せるデザインの服を作るわよー!!!」
拳を握りあげて気合を入れるチャーリーさんに皆で苦笑したのだった。
その日の夜、私はなかなか眠りにつくことはできなかった。
エリックさんの様子、それからマリーさんの様子について考えていた。
こちらの世界での恋愛事情についてはまだ理解しきれていない部分があるのだろうと思う。エリックさんにも複雑な事情があるのだろうと推測はできるが、それ以上のことは何一つ分からない。
正直言えばめっちゃ気になる。
私のことを散々揶揄ってきたんだから自分のこと話してくれてもよくない?とも思うのだけれど、こればっかりはエリックさんに委ねるしかない。
隠し事があったとしても、エリックさんと私の関係性に特に影響はないしね。それでも、いつも戯けているエリックさんの姿を思い浮かべて複雑な気持ちになったのだった。
読んでいただきありがとうございました!
評価、ブックマーク、レビュー、感想も嬉しいです。
誤字報告も助かっております!
これからもよろしくお願いします!