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昨晩よく眠れていなかった子供達はご飯を食べてお腹いっぱいになったらうとうとし始めた。

娘達の間に挟まれて寝転がって寝かしつける準備をした。寝かしつけというのは子育てにおいてかなり難易度が高い部類に入ると思う。なぜなら『その場にいる全員が寝るという雰囲気』を作り出さなければならないからだ。

ちょっとでも、寝かしつけが終わったら片付けしようとか、ちょっと自分一人の時間楽しんじゃおとか、そういうことは考えてはならない。

もうこのまま一緒に寝るぞ!くらいの気持ちで寝かしつけに挑まないと、子供達はママが寝ないなら私達も寝ませんとばかりにテンションを上げてしまうのだ。

更に今日はシリウスさんも一緒だ。

寝たくないのは百も承知!ただ、ここで寝なければこの先グズったり、変な時間に寝てしまうという地獄が待っている事も分かっている!

そう意気込んで横になっている側で、シリウスさんはちょこんと座って私達を見下ろしている。


「…シリウスさんも寝て。」


「え?いや、無理ですよ〜?」


「…いいから横になって目をつぶっていてください。」


「…床で?」


「ゴザあるからいいでしょ。早くして。子供達が眠れない。」


私の言葉に戸惑いながら愛の隣に横になったシリウスさんは落ち着かないのかチラチラと愛の顔を見ている。

愛もそれに気付いているのか、シリウスさんの方をジーッと見つめていた。

これはもしかしたら今日は寝かしつけできないかもしれないなぁ…と思っていると、愛がシリウスさんに手を伸ばした。


「シールス、ねんこだよ。とんとん。」


はぁ?うちの子可愛すぎん?

愛はシリウスさんのお腹の上をトントンしながら寝かしつけようとしている。シリウスさんは愛の意図が分からずに顔を赤くして助けを求めてきたので、ジェスチャーで目を瞑るように伝えた。挙動不審になりながらも寝たふりを始めてくれたシリウスさんに後でちゃんと説明しようと思いながら私は小さな声で子守唄を歌った。

この子守唄は私が子供の頃に見ていたアニメに出てきた某キャラクターの技の子守唄である。あの、ポケットのモンスターに出てくる、ピンクくて丸くてかわいいやつです。愛の寝かしつけに苦戦していたころ、相手を眠らせるといえばこれだろ!?とトチ狂った私が歌い始めたのがきっかけで我が家の子守唄はこれになった。

習慣というのは恐ろしいもので、寝かしつけの時にこれを歌い続けてきたおかげで、これが我が家の寝る時間の合図となったのだ。子供達は次第に瞼が重くなってきたのか瞬きがゆっくりになっていく。

薄目を開けながら子供達の様子を確認してちゃんと眠れているのか判断する。いつも先に寝るのは愛だ。愛が寝たあと、望も少し時間がかかったものの小さな寝息をたてていた。


「…シリウスさん、もう大丈夫です…ってシリウスさんも寝てんのかい。」


もう寝たふりをしなくても大丈夫だと伝えようとしたが、シリウスさんもすっかり寝入ってしまっていた。

なんだかんだ昨晩はシリウスさんもよく眠れていなかったのだろう。

私はみんなを起こさないようにゆっくりと起き上がり、布団代わりに3人にかけるためのバスタオルを取りにお風呂場に向かった。




私は3人にそれぞれバスタオルをかけて、一人でソファに寝転がり、ぼんやりと元の世界のことを想った。置いてきてしまった母親や義実家のことを考える。

なんだかんだこちらの世界では良くしてもらっているし、不自由もしていない。それでもあちらのことを考えてしまうのは罪だろうか。帰りたいと思うのは間違っているのだろうか。

こちらに来てから次から次へとスキルを使いこなせるようになっているのを感じる。こちらの世界にどんどん染まっていっていて、自分の都合のいいように魔術を操っていることにすら違和感もなくなってきた。

心も体も…存在自体がチグハグなことは自分でもよく分かっている。


「…消えてぇなぁ。」


思わず口から溢れた言葉は誰の耳に届くわけでもなく吸い込まれていった。





いつの間にか自分も寝てしまったのか、体を起こすと背中がズキズキと痛んだ。子供達はまだ眠っているらしいが、シリウスさんは一人起きてお茶を飲んでいた。


「起きてたんですか?」


「ええ、すみません。先程は寝てしまってたみたいで〜。」


「シリウスさんは体痛くないですか?慣れないと痛いですよね、床で寝るの。」


「まぁ〜…久しぶりだったので少し痛くなりましたね〜。」


そうか、シリウスさんは裏通りで生活してたから初めてってわけではないのか。私はソファから降りてシリウスさんと一緒にお茶をいただく。

まだぼんやりとする頭に、温かなお茶がじわじわと染み込んでいくような気がした。

おやつは何を作ろうかな。またポテチでも作ろうかな。でも、ジャガイモもらいに行くなら着替えなきゃいけないだろうからめんどくさいな。なんかお菓子あったかな…なんてごちゃごちゃ考えていたらシリウスさんと目があった。


「…あの、そちらの世界ではこの服が主流なのでしょうか?」


「え?主流ってわけじゃないけど…まぁ普通に着ます。」


「…こんなに肌が出てもいいのでしょうか?」


もじもじとしながらそんなことを言い出すシリウスさんに吹き出してしまった。

肌が出るって言っても膝から下だし、ただの半袖だ。私だって同じ範囲でしか露出はない。むしろこの服は露出してるうちに入らないと伝えると、シリウスさんはびっくりしたのか顔を赤くしてパクパクと口を開いたり閉じたりしている。


「ドレスだって背中がばっくりあいてんのあんじゃん…」


「…でも足は出ませんよ…」


「ああ、問題は足か…」


確かに足が出てる服を着ている人を見たことはないなと思うが、やはり私はこの格好は楽だと思う。アンネさんやダリアさんがいない時ならばずっとこのままでいたい。


「でも、着心地よくない?これ。私は動きやすいから好きですよ。」


「その点は同意します〜。」


シリウスさんもなんだかんだ気に入っているようでこれからも着てくれるそうだ。

そんなことを話していると、望が寝返りを打って起きたようだ。泣き出す前に駆け寄って抱き上げるとその騒がしさに愛も起きてしまった。

愛はシリウスさんに抱っこしてもらえたので、泣くことはなかったが随分と不機嫌そうな顔をしていた。私達はその顔を見て必死に笑いを堪えたのだった。






シリウスさんが必要なものを取ってきてくれるというので、必要な野菜を伝えて、鍋も持ってきてもらった。


「晩御飯はカレーです。」


「かれー…?」


カレーに馴染みがないみたいだったが、一度食べたら病みつきになるということは身をもって知っていたのでワクワクしながら料理を始める。

シリウスさんも手伝ってくれるそうなので、私が皮を剥いた野菜を切ってもらうように伝えた。私は具がゴロゴロとしたカレーが好きなので大きめに切ってもらった。包丁を扱う機会がなかったようで、ハラハラさせられるような手つきだったけれど怪我することなく切り終えてくれたのでホッとする。

シリウスさんが切ってくれた不揃いの野菜を鍋に入れて、お肉と一緒に軽く炒める。あとは水を入れて火が通るまで煮込む。


「あいちゃんもおてつだいしたいー!」


「じゃーまぜまぜしてくださーい。」


私は愛におたまを渡して混ぜてもらうように頼む。万が一鍋に触ってしまったら火傷をしてしまうので、愛の後ろに立って触らないように目を光らせる。

途中、愛からおたまを受け取ってアク取りをしながら火が通るのを待った。


「そろそろ火を一度止めてカレールーを入れます。」


望の分の野菜を一度取り出して、私はカレールーをシリウスさんに見せてから鍋に落としていった。本当は一つ一つおたまの上で溶かして入れていくのがいいようだけれど、めんどくさいのでやらない。次第に部屋の中にカレーの匂いが広がっていき、涎が出てくる。カレーにとろみが出るまで煮込んで出来上がりだ。

本来ならばご飯と一緒に食べたいところだけれど、そこまで用意するのは大変なので主食はこちらの世界のパンにすることにした。

お皿によそってテーブルに並べると一気に食欲が湧いてくる。


「手を合わせてくださー…」


「ねぇ!?ちょっと待って!?すげぇいい匂いすんだけどなに!?」


バーンとノックもなしに部屋の扉が開かれて、大きな声と共に部屋に突入してきたのはライドンさんだった。

私達は驚いてライドンさんを見つめると、その後ろからひょっこりオリビアとユウとユキが顔を出している。

なんでも休養日だとは知っていたが心配して差し入れを持って様子を見にきてくれたらしい。

私たちの目の前に並べられたカレーを目にしてライドンさんは興味津々で目を輝かせていた。私とシリウスさんは目を合わせて苦笑して、全員分のカレーをよそい、ライドンさん達が持ってきてくれた差し入れも並べた。

結局最後はいつも通りの食事になったけれど、十分リフレッシュはできたと思う。


「ちょっとヒカリ!?なんですのその格好は!?そんな風に足を出すなんていけません!!」


オリビアにもいつものようにお小言をいわれましたとさ。

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