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絵本を何冊か読み終えた頃に、シリウスさんがそわそわしながら寝室から出てきた。


「おー似合ってますよー。」


「…なんだかスースーして落ち着きませんね…」


シンプルな服ほど人物の造形を際立たせるらしい。シリウスさんはどっかのブランドのモデルさんのようにただのTシャツと短パンを着こなしていた。短パンと言っても、ハーフパンツくらいの長さだけどね。

たぶんここまで足が出てる服をこちらの世界の人は着ないのだろう。大きな男の人がもじもじしてるのはいくらイケメンでもなんだか薄気味悪い。

私はゴザの上をパシパシと叩いて座るように促した。

躊躇いながら靴を脱いで座ったものの、緊張しているのか正座している。


「いや、そんな風に座るもんじゃないですから。私たちを見て!!こう、ゴロンと!ゴロンとするもんです!」


本当は違うと思うけど、とりあえずリラックスするものだと伝えた。

シリウスさんは珍しく素直に私の言うことを聞いてくれて、ゴザの上で仰向けで横になり、胸の上で手を組んでいた。その姿はまるで生贄のようだったので、私が愛に耳打ちして上に乗ってくるように伝えると、愛は顔をくしゃくしゃにして笑うとシリウスさんの上に飛び乗った。

シリウスさんはぐえっとカエルが潰れるような声を出して悶えている。愛がシリウスさんのところへ行けば当然望も後を追う。子供二人に登られて、おもちゃにされているシリウスさんを見て大笑いした。


「笑ってないで助けてくださいよ〜!!」


「ははは、ごめんごめん。」


私は笑いながら謝って子供達を自分のところに呼び寄せる。シリウスさんは上半身を起こして、髪をかきあげて少し息を吐いていた。


「こっちの世界はこうやって親子でゴロゴロして遊ぶこととかあるんですか?」


「…少なくとも僕は知りませんねぇ〜…どうなんでしょうか?」


シリウスさんの返答を聞いてまた余計なことを言ったことに気付き、罪悪感を抱いて顔を覗き込むが、当人は気にしていないようだったので少し安心した。私は気を取り直して、愛と一緒に遊ぶことにする。

横になって足を折り曲げたところに愛を立たせて、そのまま愛の手をとり、自分の脛の部分に愛のお腹を乗せて持ち上げる。

シリウスさんはギョッとして止めようとするも、愛が楽しそうに笑い声を上げたことでそのまま様子を見ることにしたらしい。


「ひこーきー!!」


「ひこーきーってなんですか?」


「ぐっ…飛行機!空飛ぶ乗り物!」


「空飛ぶ…?そんなものが…?」


「ちょ…飛行機については後で説明するから…!!今は遊ぶ!!」



愛を足で持ち上げながら普通に会話するのは厳しい!

そう訴えるとシリウスさんは残念そうにしながらも黙って私と愛の遊びを眺めていた。愛がある程度満足したであろう頃を見計らって、望と交換する。


「じゃ、愛ちゃんは次シリウスさんにやってもらってね!」


「あーい!」


「えぇ!?僕!?」


まさかずっと見てるつもりだったのだろうか!?シリウスさんが驚いたことに驚いてしまう。その間にも愛はシリウスさんのところへ行って、足のところにべったりとくっついて催促している。戸惑っていたシリウスさんも、愛には敵わないのか恐る恐る飛行機ごっこを始めていた。

私とシリウスさんで交互に子供達の飛行機ごっこをした後、簡単にできるふれあい遊びを教えて子供達と一緒にやってみた。


「大根一本抜いてきてー」


「だ、だいこん?」


「サッサッサッサッ、泥おとしー

じゃぶじゃぶじゃぶじゃぶ、洗いましょー

まな板の上で、ゴーロゴロ

パッパッパッパッ、塩振ってー

ゴシゴシゴシゴシ、すりこんでー

まな板の上で、ゴーロゴロ

ツボにしまって、ぎゅっぎゅっぎゅー

一本漬けの出来上がりー!

いただきまーす!パクパクパクパク…」


「いっぽんづけとは!?」


「シリウスさんうるさい!」


いちいち突っかかるシリウスさんを黙らせて、付き合わせて一緒に遊んだ。

こんな風にふれあい遊びをすることも随分と久しぶりだったせいか、子供達は大喜び。愛はもう随分とお姉さんになっているので少し恥ずかしそうにしていたけれど、やっていくうちに何度も強請ってくるようになっていた。

大笑いして子供達が疲れてきたようなので、早めにお昼を食べようということになった。

私はスキルを使って、折りたためる小さなテーブルを出してゴザの上に設置する。


「シリウスさん、お湯沸てもらっていいですか?」


「はい、分かりました〜…でも何作るんですか〜?」


「ふふふ…罪の味、ですよ。」


私はニヤリと笑って、私とシリウスさんと愛の分のカップ麺をスキルで出現させた。望はまだ赤ちゃんなのでカップ麺は食べさせられないので、代わりにおにぎりを食べさせることにした。

カップ麺をシリウスさんに渡して、作り方を教える。

蓋を開けた時、こんなものが食べられるのか?と怪訝な表情をしていたシリウスさんをニヤニヤと眺めながらお湯を注いで時間まで待つ。


「…本当に食べられるんですよね〜?」


「当たり前でしょ。」


「あいちゃん、これすきよー!」


ブツブツ言うシリウスさんを適当にあしらって、蓋を開ける。もわっと広がる湯気から食欲をそそる香りが広がった。シリウスさんはカップの中を見ながら、謎の肉だったり、ナルトだったり、麺だったりをツンツンとフォークで突いている。

私は苦笑しながら愛の面を取り皿に移して冷ましながら食べるように言った。


「はい、手を合わせてください!」


「へ!?」


「シールス、おててぱっちーんだよ。」


「ぱっち〜ん?」


「こう!」


「はい、いただきまーす!」


「いただきまーす!」


「いただきま〜す?」


さっきからずっと文化の違いに戸惑っているシリウスさんに、愛が一つ一つ教えている。挨拶一つでさえこんなにも違うのだ。戸惑っているシリウスさんを見てここに来たばかりのことを思い出して苦笑する。私は少しなら外国についての知識もあるし、ここがその外国に近い文化だということを感じていたので慣れるのも早かったけれど、何の繋がりもない世界のことをやれと言われてもシリウスさんのように戸惑うのは当然だろう。

とりあえずシリウスさんはまだ食べられるものなのか疑っているようなので、私と愛で先に麺を食べる。


「あ、私達は箸で食べるけど、シリウスさんはフォークでいいんですからね。」


「えっと、これを食べるのにマナーは…?」


「マナー…?ないよ、そんなの。好きに食べてください。」


「…」


ずずずーっと麺を啜って麺を食べている私を眉を顰めて見た後、シリウスさんは観念したのか、恐る恐る一口口に運んだ。


「…なんですか、これ〜美味しいです…」


「でしょ?でもあんまり食べすぎると太っちゃうから、たまにしか食べられないんですけどね。」


シリウスさんがびっくりしてるのを見るのは楽しい。私は自分で開発したわけでもないのに、得意げになってしまう。一口食べて美味しさに気付いたシリウスさんはその後はパクパクと食べ進めて、最終的ににはスープまで飲んでいた。随分と気に入ってくれたようで良かった。

私は急いで食べ終わらせてから望が散らかした米粒を綺麗に片付け、愛の食事の手伝いをする。愛も望も久しぶりの元の世界の食事が嬉しかったようで、日本にいた時よりもがっついて食べている。

全員食べ終わったのを確認して、子供達の口の周りや手を綺麗に拭いてから号令をかける。


「はい、手を合わせください!」


「おててぱっちーん。」


「ぱっち〜ん。」


「ごちそうさまでした!」


「ごちそうさまでした!」


「でした〜。」


満足そうな顔をしている皆の顔を見て思わず笑ってしまったのだった。

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