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みんなで休養してみた




「ママ!!」


「アイ様!急に入っては…!!」


バタンという音と共に開かれた扉にびっくりして飛び起きると愛がベッドによじ登ってきた。扉の向こうからは望が大泣きする声が聞こえている。


「ママ、だいじょーぶ?」


「愛ちゃん…ごめんねーママ具合悪かったみたい…」


まだぼんやりとしながら、愛を抱っこして頭を撫でる。ぎゅっとしがみついてくる様子から、相当怖い思いをしただろうと思う。愛には夫の記憶がある。自分のパパがある日突然いなくなるという体験をしているので、もしかしたら今回も同じような恐怖を抱いていたのかもしれない。私はその小さな手に応えるように、体に手を回して抱き返した。背中をさすりながら扉の外に目をやると、アンネさんは部屋に入るのを躊躇っているし、ダリアさんは泣いて暴れる望を抱っこしながら困っていたので手招きをして2人を呼んだ。

顔をぐちゃぐちゃにしている望を受け取ってあやしていると、愛も泣き始めてしまって収拾がつかない。

…よくこんなにも騒がしいなかでぐっすり寝てられるよな、シリウスさん。

シリウスさんはソファベットが体に合っていたのか、余程疲れていたのか泣き声が響くこの空間でまだ夢の中にいる。

アンネさんは窓を開けたり、部屋を整えてくれた後に、シリウスさんを覗き込んで呆れたようにため息をついていた。


「あ、そういえばすみません。シリウスさんに面倒見させてしまって…そんなところで寝かせてしまって…」


自分の雇主であるシリウスさんに仕事をさせてしまったのだから、アンネさんからすればあまり気持ちの良いものではなかったのではないかと思い立ち、そう頭を下げる。するとアンネさんはキョトンとした後、クスクスと笑って首を振った。


「いえいえ〜坊ちゃんが譲ってくださらなかったんですよ。もちろん、お着替えは私どもにやらせていただきましたけれど…自分がそばにいるからって。」


私は自分の頬が赤くなるのを感じながら、はははと笑って誤魔化した。

シリウスさんの気持ちはありがたいが、やはり甘えすぎているような気もする。一体何が正解なのだろうかと、うまく働かない頭で考える。

アンネさんは、さてと、と言ってシリウスさんの枕元に立って、両手を自分の腰の横に当てた。


「坊ちゃん!いい加減起きてくださいまし!ヒカリ様も目が覚めていらっしゃいますよ!!」


シリウスさんはバッと体を起こして辺りを見回すように首を左右に振っていたが、その目はまだ開いていなかった。目を瞑ったままだったら何も見えないだろうに…その様子がおかしくて私と愛は思いっきり笑ってしまった。2人分の笑い声で流石に目が覚めたようで、顔を少し赤らめながら頭をガシガシと掻いている。


「シリウスさん、おはようございます。」


「しーるす、おはよー。」


「…おはようございます…ヒカリ様、体の調子はどうですか〜?」


「ええ、だいぶいいですよー。」


私の言葉にホッとしたように笑ったシリウスさんはゆっくり立ち上がって、ベッドを折り畳む。それを見てアンネさんと愛は目を輝かせており、シリウスさんはなぜか自慢げにソファベッドをアピールしていた。アンネさんと愛はシリウスさんに教えてもらいながら交代でソファベッドに座って、広げて、畳んでを繰り返して遊んでいる。

楽しそうで何よりだなぁと思って眺めていると、朝食の用意を終えたダリアさんが呼びにきてくれたのでみんなで朝食を食べることにした。

昨日ご飯を食べ損ねていたので目の前にあるいつもの朝食に涎が出てくる。一食ぬいているので、ダリアさんが胃に負担がかかりにくいものを用意してくれたようだ。

こんがりと焼かれたパンにバターをたっぷりと塗って齧り付く。いつも食べているのに、いつも以上に美味しく感じて食べれば食べるほどお腹が空いてしまう。一緒に野菜をくたくたに似たスープも飲むと、その暖かさや優しい味に力が抜けていくような気さえした。手を休めることなく食べているとシリウスさんに笑われた。


「はははっ!もうその調子だったら大丈夫そうですね〜でも、今日は休んでくださいね〜ここでゆっくり過ごしてください。」


私は口に入った状態だったので、モゴモゴと動く口元を押さえながらコクコクと頷いた。

アンネさんが望にご飯を食べさせながらシリウスさんにシリウスさんにも休むように言っている。

実はシリウスさん、休みらしい休みをとっていなかったらしい。魔術以外に好きなことがないので、休みでも魔術の研究をしているらしく、それだったら仕事と同じだからと休んでなかったらしいのだ。


「こんなことがない限りお休みになられないんですから、せっかくですしお休みなさってください。」


「え〜?でもそんな急に…」


「ヒカリ様の付き添いだとでもおっしゃれば融通も利くでしょう?」


「まぁ〜…そうかなぁ〜?」


アンネさんに詰められてしどろもどろになりながら目を逸らしているシリウスさん。日頃のちゃんと仕事しろとアルフレッドさんに言われているのをアンネさんは知らないので後ろめたさがあるのだろう。

私はそんな様子を横目で見ながらご飯を食べていたが、私もいいことを思いついたので提案してみることにした。


「ねぇ、じゃぁ、ここにいる全員今日休みにしませんか?アンネさんたちに子供達のこと一晩見てもらっちゃってたし、皆なんだかんだで忙しかったですから。アンネさんとダリアさんは食事が終わってからお家に帰って、シリウスさんは休めるか確認して、休めるようならこちらに来てください。ついでにライドンさん達にお昼は無しって伝えてくださると助かります。」


「ええ!?でもそしたらヒカリ様達の食事などは…」


「私も料理はできるし、最悪スキル使えばいいですから。

…昨日の夜お2人寝られてないでしょう?望の夜泣きは…ね…」


私が遠い目をして望の夜泣きを思い出していると、アンネさんもダリアさんも困ったように笑っていた。これは相当暴れたようだな。

そんなこんなでなんとか説得して今日は全員が休養する日となったのだ。







「…あのー…休みって何するんですかねぇ…?」


シリウスさんがソワソワしながら椅子に座っている。休みと言われただけですっかり落ち着かなくなってしまうのだから不思議だ。

んーと私も腕を組んで考えるも、これと言って特にでやりたいことも思いつかない。

愛も望も私にべったりとくっついていておもちゃで遊ぶという気分ではないようだ。


「…あ。シリウスさん、異世界体験してみます?」


「…へ?」


私はポカンとするシリウスさんの顔を見てニヤリと笑って、掌に絵を描いた。私が出現させたのは180センチの正方形のゴザだ。もちろん、ちゃんとイグサで作られているものを出した。

本当ならば畳を出したほうがいいのだろうけれど、畳はかさばるので丸めてしまっておけるゴザで妥協した。

それから、Tシャツと短パンを全員分出した。もちろんウエストはゴム!!

日本を体験させるって思うと、浴衣とか甚平とかの方がそれっぽいかなとも思ったけれど、私がくつろげないから却下。


「じゃぁ、私たちは寝室で着替えてくるから、その間にこのマットを床の上に敷いて、シリウスさんも着替えて待っててください。」


私は愛と望を連れて寝室で着替える。ただの白いTシャツと、ネイビーの薄手の半ズボンに履き替えるだけでなんだかものすごく落ち着く。愛は久しぶりの格好だったが、やはり馴染みがあるのか自分一人で上手に着替えてくれた。望もいつものドレスよりも動き安いのか、張り切って走り回っている。

愛の髪も適当にお団子にくくってあげて、私たちは準備万端だ。

シリウスさんの元へ向かうと、シリウスさんはきちんとゴザを敷いておいてくれたが、そのござの上にTシャツと短パンを広げてじっと見つめている。


「…何やってんの?」


「…いや、着方が分からなかったんですよ〜…そうやって着るんですね〜。」


着方わかんないとかある?と思ったけれど、まぁ確かにそうか。私は素肌に着ていいこと、パンツの上に履くことを伝えてシリウスさんを寝室に追いやった。

そして私と愛と希は靴を脱いでゴザの上でゴロンと横になる。

あー!これこれ!休みって感じ!!

私は両脇に子供達を寝かせて、うつ伏せのまま3人で絵本を読んでシリウスさんを待つことにした。


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