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ふと目を開けて一番最初に見えたのは見覚えのある天井だった。

どうやら私は客室に連れてこられたらしい。

電気も消えていて、窓の外も暗いのでだいぶ寝てしまっていたのだろう。

首を左右に動かして、子供達の存在を探すもどうやらベッドの上にはいないらしい。

ズキズキと痛む頭を押さえながら上半身だけ起き上がり、部屋の中を見回すと、少し離れたところにシリウスさんが椅子に座ったまま寝てしまっていた。


「…シリウスさーん。おーい。」


私は立っているのが辛かったので、シリウスさんの目の前にしゃがみこんでシリウスさんの顔を覗き込んだ。

シリウスさんって、私たちの世界で言うところのアルビノの人なんだよね?多分。

透き通るような白い肌に、真っ白な髪…まつ毛までも真っ白だ。私はこの世界に来て、色々な髪の色の人に出会った。肌の色もみんな違う。日本ではあまり見られなかった光景なので、未だに慣れない部分もある。

…正直この世界に自分が受け入れられていないような気さえする時もある。そんなのただの思い違いに過ぎないし、裏を返せば私がこの世界を受け入れられていないのだ。

シリウスさんのこの美しい姿は私の汚い部分を照らし出しているような気になってしまい、気にしないふりをしてきた。

月明かりに照らされて淡く反射するその髪を眺めながら、自分の器の小ささを痛感する。


「…はー…シリウスさん…起きてよ…」


私は膝を抱えて座り込み、顔を下げて蹲った。なんだか情けなくて泣きそうになって鼻を啜る。


「…ん…わ!ヒカリ様!?起きたんですか!?どこか痛いんですか!?」


シリウスさんも目が覚めたようで、目の前に私が座っているもんだから驚いたのだろう。ガタガタと音を立てて立ち上がったのが聞こえた。

私は顔を見られたくなかったので、蹲ったまま話をした。


「…愛と望は?」


「ああ、ヒカリ様熱も少しあったようなので今日はダリアとアンネに任せてますよ〜。今日はもう深夜ですからそのまま朝までお一人で休んでください。」


「私どれくらい寝てたの?」


「10時間くらいでしょうか…?魔力切れかと思ったんですが、それよりも疲労が原因みたいですね〜疲れが溜まっていたようですよ〜。」


「…老いを感じるわー。」


疲れている自覚はなかったのだが、倒れてしまってはそれも勘違いだったというわけだ。空回りしている自分の滑稽さが嫌になる。

体調が悪いと気分まで落ちてしまって、このまま八つ当たりでもしてしまいそうな気がする。

私は痛む頭を押さえてゆっくり立ち上がり、シリウスさんを見上げた。


「ありがとうございました。一人で広いベッドで寝られるなんて何年振りでしょうね。体調崩してラッキーだったかも。シリウスさんももう自分の部屋に戻ってくださって大丈夫ですよ。椅子に座って寝るよりも、布団で寝た方が疲れも取れるから。それに一晩同じ部屋で過ごすのは良くないでしょう?今更遅いかもしれないけど…本当にもう大丈夫ですから。ご迷惑をおかけしました。」


できる限り笑顔でそう伝えたのだが、シリウスさんはムッとしている。

…あからさますぎたかな?

本音は今すぐに出て行ってほしい、一人にさせてほしいと思っているのだけれど、もしかしたらそれが伝わってしまったのかもしれない。油断するとシリウスさんに対してひどく当たってしまうという自覚はある。だからこそ、意地悪を言う前に出て行ってほしいのだけれど。

様子を伺うようにシリウスさんを見ると、シリウスさんは小さくため息をついて人差し指を振った。

すると、なんと私の体が浮かび上がった。

そのままベッドの上に運ばれて、ゆっくりと降ろされる。私は突然体が浮いたものだからびっくりして、目を見開く。心臓がバクバクして痛いくらいだ。

シリウスさんはフンっと鼻を鳴らしてそのまま椅子に座って腕を組んでいる。


「心配しなくても指一本触れませんよ〜…運ぶ時は緊急だったのでカウントしません。そんなこといいから病人は黙って休んでりゃいいんですよ〜。」


「いや、びっくりして完全に目が覚めたわ。」


シリウスさんは心外だと拗ねているけれど、私は上手いこと頭が働かない。魔術ってなんでもありなんだな。

そう思うとなんだかどうでも良くなった。頭もまだ痛いし、めんどくさいからもう布団入ろ。

私は考えるのを諦めて布団に入って、シリウスさんの方に体を向けた。


「ねえ、その椅子じゃなくて他になんかないんですか?」


「この部屋にはないですね〜。」


「ふーん。」


いや、申し訳ないだろ。私はフカフカのベッドで寝てんのに。

そう思って私は布団の中で掌の中に小さなソファベッドを描いて出現させた。よく考えてなかったからベッドの上に出現させちゃったけど。

突然ベッドの上に小さな一人がけのソファが出てきたもんだからシリウスさんはびっくりしていた。


「病人なのに何してるんですか!?」


私がスキルを使ったのはお見通しらしいシリウスさんはプンプンしながらそのソファをベッドの脇に下ろした。

最初ベッドの方に向けてソファを置いたので、ソファの向きを90度動かすように伝える。


「それ、座るところ、マットが折り畳んであるんですよ。広げれば布団になるから広げて寝て。」


使い方を説明すると、シリウスさんは困ったように眉を下げた。


「気を遣わせてしまいましたね〜。」


そう呟いてソファの座る部分を広げた。ベッドの横に広く伸びたマットの上にちょこんと正座して座るシリウスさんはなんだか緊張しているようだった。

いくらソファベッドとはいえ、分厚い敷布団に寝ているのと変わらない高さなので抵抗があるのかもしれない。実際私のベッドの高さより随分と下にシリウスさんの寝床がある。


「あー、シリウスさんがベッドで寝ます?私は床で寝るの慣れてるから、別にそっちでもいいですよ。」


「いや、そういうことではないんですけど〜…そもそもヒカリ様は病人なんですからベッドで寝てくださいよ〜…」


はーっと深いため息をついて、心底呆れたように呟いたシリウスさんは観念したようにマットの上に横になった。


「そういえば掛け布団ないですけど、どうします?」


「…そんなのいいですよ〜。このまま寝ます〜。」


お互いの顔は見れないけれど、近くに人が寝ているのを感じると少し照れ臭くなる。

私はなんとなくシリウスさんのいる方に背中を向けるように寝返りを打った。


「…床に寝るのに慣れるってどういうことですか?」


「ええ?日本…私が住んでた世界では外と家の中を完全に分けて暮らす文化だったので、玄関で靴を脱いで生活するんですよ。そんで、床に直接布団を敷いて寝てたり、寝なくてもゴロゴロしながら過ごしたりするんですよ。」


「ああ、そういう…」


「え?貧乏すぎてベッド買えないと思ったとか?」


「…まぁ、そんなとこです。」


「貧乏でしたけど、布団はありましたからご心配なく…」


シリウスさんの意外な反応が面白くて笑ってしまった。私たちはそのまま、また眠気がやってくるまでお互いのことを話していた。お互いのことと言っても、ほとんど私の日本での暮らしいいについて聞かれていたのだけれど。

文化が全く違うので、シリウスさんは面白かったのか、興味津々で根掘り葉掘り聞かれた。

食事も服装も、街並みも何もかもが違う元の世界のことを思い出して、懐かしくなったり、寂しくなったりもしたけれど、割と楽しく話せていたと思う。

しばらくしてまた瞼が重くなってきた。


「…シリウスさん、ごめん。そろそろ眠いかも…。」


「は〜い。そろそろ寝ましょうか?」


私達はおやすみと言い合って、再び目を閉じたのだった。

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