久しぶりにスキル研究してみた
大騒ぎのランチタイムも終了し、久しぶりにスキル研究することになっている。
「今日はヒカリ様のスキルがものを出現させるための条件を細かくみていこうと思います。」
私のスキルの研究の担当はシリウスさんではなく、第一部隊環境部のテイラーさんだ。テイラーさんはワンレングスの前下がりボブで大人っぽいお姉さんだ。茶色の柔らかい髪を耳にかけながら説明してくれる。
ちなみにシリウスさんは事務仕事があるので一緒にはいない。
「以前ヒカリ様が挨拶に来てくださった時に、実物はなくても絵と文字の説明文があれば実体化させられるのかという質問があったんですけど、覚えてます?」
「はい、なんとなく…?」
「今日は、その辺を解明していきますね。まずはこれを見てください。触れないでくださいね。」
私の目の前にコトンと置かれたのはランプだった。
どこにでもあるようなランプだが、灯りになる部分に蝋燭は付いていない。私はどのように使うものか分からなかったが、とりあえずペンを走らせて同じものを描いた。
ボンっという音と共に出てきたそれをテイラーさんは手に取り隅々まで観察した。
「ヒカリ様、このランプつけてみてもらっていいですか?」
テイラーさんに、私が出現した方のランプを渡されたのであちこち触ってスイッチらしきボタンを見つけた。
そのボタンを押すと、シューというガスが出る音と共に火がついた。
私は火がついたランプをテイラーさんに見せると、テイラーさんは頷きながら説明してくれる。
私が最初に見せてもらったのは、スカーレットさんが作り出した魔石に魔力を込めることで使うことができる魔石ランプというものらしい。この魔石ランプは魔石に魔力を込めると、その魔力を自動的に炎属性に変換させて灯りとして使うことができる代物だそうだ。だから中に火をつけるところが無かったのだなと納得する。
テイラーさん曰く、私はそのランプがランプということは分かっていたが、魔石ランプだとは分かっていなかった。そのため、見た目は全く同じものができたが、火を使うものと魔石を使うものというように、性能が違うものが出現したということだ。
つまり、現物があっても、その現物を見るだけだとそこから私が連想する使い方のものが出てきてしまうということだ。
その後、魔石ランプの使い方の説明を一通り聞いてから同じようにスキルを発動させると、今度はちゃんとした魔石ランプを出現させることができた。
「では次は絵を見てもらいます。」
次にテイラーさんに見せてもらったのはこちらの世界で有名な画家さんが描いた絵だった。
細かいところまで描き込まれている絵で、完全に真似して描くことはできなかったのだが、描けるところだけ描いてスキルで出現させる。
すると自分でも驚くほど、そっくりな絵が出現した。
「なるほど…ヒカリ様の絵はこの画家の絵と全く同じというわけではないのにも関わらず、スキルで出現するのは全く同じもの…うーん。」
テイラーさんが険しい顔をして私の絵を見つめている。
「なんかまずいことでもありましたか…?」
「ああ、不安にさせたようならすみません。スキル自体に問題はないです。ただ、ヒカリ様のスキルでここまでできるというのは公にしない方がいいかもしれませんね。」
テイラーさんが言う公というのは世間全体ということで、魔術師団の中でも一部に留めた方がいい情報だそうだ。
私がスキルで限りなく本物に近い偽物を出現させると、そこら辺の贋作を作る画家に頼むよりも遥かに早い。そのため量産が可能だ。先日捕まったヘクターの家から贋作が山ほど出てきたように、贋作でも高値で販売されるので、私のスキルは贋作を使って金儲けをしようとする悪党からすれば喉から手が出るほど欲しいものだというわけだ。
もしそのような人達に知られてしまうと、私が狙われる要因を増やすことになる。
「本当に闇オークションにヒカリ様が出品されてたらとんでもない高値で取引されたでしょうね。」
「怖いこと言わないでください…」
真面目な顔して淡々と話すテイラーさんの言葉にゾワゾワと鳥肌が立つ。
人身売買が行われているということも驚きなのに、それに加えて自分が品物として出品されようとしていたなんて…実感が湧かないものの、とんでもないことに巻き込まれそうになっていたという事実は私に恐怖を抱かせる。私だけではなく、子供達も出品予定だったのだ。未然に防げてよかったと思う。
体をさすっていると今度は目の前に本が開いて置かれた。そのページには絵と文字が書かれており、よく読むとどうやらミシンのようなものだと言うことが分かった。
現在使われているミシンではなくて、もっと昔の、ミシンの原点になったようなもの。
そのミシンをスキルで出現させるように言われたので、イラストをそのまま真似して描いてみる。
イラストは一方向からしか、描かれておらず全体のイメージは掴めなかったものの、何とか描き終えてスキルを発動させた。テイラーさんによると出現したミシンは資料とほぼ同じものだったそうだ。
「今度は文章だけで再現できるかやってみましょう。」
テイラーさんは同じ本をパラパラとめくって、あるページを見せてきた。
そこにもイラストはあるようだけれど、上から紙を貼ってイラストは見られないようになっている。説明文…取扱説明書みたいな文章だけを読むと、どうやら食べ物を細かくするためのものらしい。どれくらいまで細かくなるのかまでは分からないので、私はとりあえずミキサーをイメージして出現させた。
テイラーさんと一緒にイラストと照らし合わせてみるが、全く違うものが出来上がっていた。
多分私が文章を読んで、その内容に合う元の世界の物を召喚してしまったということだろう。用途は合っていても構造は全く違っていた。
「なるほど…やはり絵と文の両方ないと忠実な再現は難しいようですね。」
「そうですね…」
今後、本を読む時は事前に必ず確認するように言われた。
元々興味がないので今まで好んで読むことはなかったけれど、今後武器関連の本を読み、知識を得てしまったら…その武器をスキルで出現させることができるようになってしまうからだ。
武器をスキルで作り出せるとなると、反乱を起こすことも容易い。それを目論む人達が私を利用しようとしたら…
そんなことになってはいけない。この国も、自分自身も守るために武器に関する詳しい記載がないかどうかしっかり確認して、武器の知識を得ることを事前に可能な限り抑えた方がいい。
もし図書室に行く時は、サラさんにお願いして付き添ってもらおう。
改めて自分の存在の危うさを知って、ため息をついたのだった。
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