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ミーティングに参加してみた



慣れない服装に苦戦しながらなんとか団長室についた。

今日はシリウスさんが開けてくれるようで、愛を片手で抱き、反対の手で扉に触れる。

昨日と同じはずなのに、今日の扉は一際おもたそうに見える。ゆっくりと開いた扉の向こうにはミルドレッドさん以外に2人の男性が立っていた。


「こっちにお座り。」


ミルドレッドさんが用意してくれていたのか、昨日はなかったテーブルと椅子が部屋の中央にあり、そこに座る。

2人の男性は不審げにこちらを見ている。居た堪れずに軽く会釈すると、1人はにこりと笑って手を振ってくれた。こちらの人は金色のサラサラショートのお兄さんで正統派男性アイドルって感じだ。王子様って言われても、納得しちゃうかも。もう1人も難しそうな顔のままではあったが会釈をしてくれる。こっちの人は鋭い目つきが印象的で、オールバックにきっちりと固められた黒髪が神経質さを表している。ドーベルマンぽい。


「さて、今日はお前たちにこの子を紹介しなければならないよ。」


「…シリウスの、隠し子とか?」


キラキラアイドル系男子が可愛らしく首を傾げながら爆弾を投下する。

思わずうげっと顔を顰めると、アイドルが吹き出して笑った。


「ははっ!そんな嫌そうな顔しなくても!!初めまして、僕は魔術師団第三部隊隊長のエリックです。よろしくね!んで、こっちの顔が怖いのが第二部隊のイーサン。」


「…勝手に話を進めるな。団長はまだ何も言ってないぞ。」


ベラベラと喋るアイドル・エリックさんと、勝手に紹介されたイーサンさん。

顔が怖いのは共通認識なんだ。

イーサンさんの眉間の皺はどんどん深くなる。

ミルドレッドさんの方をチラリと見ると、軽く頷いてくれたので、自己紹介をする。


「私の名前は光です。こちらのピンクのドレスの子が愛、黄色のドレスの子が望です。2人とも私の娘です。」


「へー!若く見えるのに!」


「いや、私これでも30歳で…」


「えー見えないね!」


もうこれはアイドルではなくてホストのように感じてきた。ぐいぐいくる感じに若干引いていると、イーサンさんが話を遮る。


「団長、ご用件は?」


助けてくれたのかと思ったけど、単純に早く終わらせたいようだ。

イーサンさん、ごめんなさい。

たぶん今日のミーティング長いっす。

ミルドレッドさんはシリウスさんを一瞥し、指をさした。


「そのバカがまたやらかしてねぇ。その子達、異世界から召喚しちまったんだよ。」


指さされたシリウスさんはヘラヘラと笑って手を振ってる。エリックさんはあんぐりと口を開けて、イーサンさんは鬼の形相だ。

あーこの感じ昨日もやったわーと他人事のように観察した。愛たちはまたサラさんにめんどう見てもらっている。

私もそっちで遊びたいなーと現実逃避しようとしたら、イーサンさんが机に足をついてシリウスに殴りかかった。


バ、バイオレンス!!!


「貴様あああああ!次から次へと問題を起こしおってええええええ!!」


「ごめんなさ〜い。ちょっとやってみただけだったんですよ〜」


顔をぶん殴られたシリウスさんは後ろに倒れて顔を抑えている。ものすごく痛そうでビビる。

それでもヘラヘラとしてるシリウスさんて本物のおバカなのかな…

今度はシリウスの上にイーサンさんは馬乗りになる。

これ以上娘たちにバイオレンス見せたく無い!と気持ちが焦る。椅子から立ち上がり、駆け寄ろうとするとミルドレッドさんの怒号が飛ぶ。


「いい加減におし!!子供がいるんだよ!!他所でやんな!!!」


ミルドレッドさんの声はビリビリと響き、イーサンさんの手がぴたりと止まる。イーサンさんは納得のいかない顔をしていたが、渋々と言った感じでシリウスさんの上から降りた。

どちらかと言うとミルドレッドさんの声に怯えている子供たちの目には涙が浮かんでいる。

このままじゃまた大惨事になりかねないのでどうしたもんかと思っていたら、エリックさんがハンカチを取り出して折り紙のように折り畳んで鳥のようなものを作った。

ちょいちょいっと愛を呼ぶ仕草をしたので、愛は恐る恐る近づく。


「アイちゃん、かな?アイちゃん鳥好き?」


「…すき…」


「じゃぁ、お兄さんからプレゼント。」


エリックさんは、キザっぽくウインクするとハンカチの鳥にキスをした。映画のワンシーンのように絵になる。愛もぽーっと見惚れていた。

すると、キスされたハンカチの鳥がパタパタと動き出し、部屋の中を飛び回った。


「わぁっ…!おにいちゃんありがとう!」


愛はたちまち機嫌が良くなり、鳥を追いかけるように部屋の中をくるくる回り始めた。

すげー。マジシャンホストじゃん。

我ながら残念なネーミングセンスだ。


イーサンさんはその様子を見てチッと舌打ちをし、ドカンと椅子に座った。

この人いちいち感じ悪いな。


「それで、お前はなんの召喚をしたんだ。」


腕を組んでふんぞり返り、シリウスさんに説明を要求する。


「聖女召喚だよ。」


「…聖女だと…?あんなもの物語にすぎん。」


「だよね〜僕もそう思ってやってみたけど違ったみたい。」


「と言うことは、つまり…」


エリックさんとイーサンさんの目線が一気にこちらに集まる。私は違う違うと手を振る。


「聖女はアイとノゾミの方だよ。」


ミルドレッドさんが助け舟を出してくれた。

今度は愛と望に視線が集まる。

そんなにグリングリン首を動かしてたら痛めそうである。

イーサンさんは頭を抱え出した。


「聖女が2人…?しかもあんな子供…?」


ブツブツとなんか1人で言ってる。やっぱりめちゃくちゃ怖いよ、この人。

ドン引きしている横で、ミルドレッドさんは話を続けた。


「その子らの母親のヒカリの役職は、聖母と出た。これは記録にないものだ。そんで、ヒカリのスキルも前例がない。」


ミルドレッドさんは見てもらった方が早いからと、ノートとペンを渡してきた。

私は受け取って、オムツの絵を描いた。


「…?」


シリウスさんにもスキルが発動したことは伝えていないので、シリウスさんも首を傾げている。男3人の頭の上にはてなマークが浮かんでいるのが見える気がする。

オムツを描き終えると、ボンっと言う音と共にオムツが出現した。


「ええええええええ!?」


シリウスさんとエリックさんは大きな声で叫んで、イーサンさんはもう言葉も出ないようだ。


「なにこれ!?」


「オムツです。」


「オムツ!?こんなのが!?」


「ちょっと、ヒカリ様!なんで僕に教えてくれなかったんですか!?」


「こうなると思ったからですよ!!」


エリックさんとシリウスさんに詰め寄られ、うんざりしながらも一つ一つ質問に答えていく。

ぎゃいぎゃい騒いでいるのがうるさい。事態を収束してくれたのはイーサンさんの拳だった。シリウスさんとエリックさんに拳骨をお見舞いしたのだ。


「黙れ。」


鬼がいる。

シリウスさんとエリックさんさんはあまりの痛さに蹲っている。

イーサンさんはふぅとため息をついて、私に向き直る。


「先程は失礼いたしました。」


頭を下げるイーサンさんの態度に冷や汗が出る。怖すぎる。

怖すぎるので、敬語をやめてくれと懇願する。最初は渋っていたが、話が進まないと判断したのか、敬語を取りやめてくれた。


「すまない、いくつか質問をしてもいいか?」


イーサンさんは昨日ライドンさんに聞かれたようなことを丁寧に確認していった。


「成程。確かに、日本という国はこの世界にはないな。それから時間軸が違っているのも気になる。」


「まぁそれは異世界じゃなくても時差は生じるとは思うんですけど、時差とも限らないというか、それを確認する術は今のところないです。」


「ふむ。そうだな。この…オムツの他に描いて作り出したものはあるか?」


「えっと、ミルドレッドさんに預けてあるのですが、私たちの世界で使っていたドライヤーです。」


「ドライヤー…?」


話を横で聞いていたミルドレッドさんが絵と一緒にドライヤーを出してくれた。

どうしてドライヤーを出したのかと言う経緯と、使い方を説明した。


「私たちの世界では魔法がなかったので、その代わりに科学が発達してました。」


「かがく…?」


「うーんと…身の回りに起きてることが、どうして起こってるのかってのを突き止めて、上手く使えるようにする学問…ですかね…」


「なるほど。こちらで言う自然学と似たようなものか。」


「魔法があれば必要ない学問かもしれません。」


「いや、こちらでも魔術が使えない人間はいる。」


「え、全員が使えるんじゃないんですか?」


話してみるとイーサンさんは割と話しやすい人だった。もしかしたら極度の人見知りなのかもしれない。

何を考えて質問してまとめているのかは分からないが、質疑応答は続く。


「他にはスキルで出したものはないか?」


ギクリと肩が揺れてしまった。

イーサンさんはその僅かな動揺を見逃さなかった。

鋭い眼光を向けられる。

もしかしたらこの質疑応答は試験なのかもしれない。私がどんな人間で、どんなことに活用するか、敵か味方か。

どうせ報告しなければならないことなので、覚悟を決めてイーサンさんを見る。

漠然とやってはいけないことをしたような気はしているので、きっと情けない表情になってしまっているだろう私を、イーサンさんは真っ直ぐに見つめている。


「死んだ夫を、描きました。」


誰も、言葉を発さない。


「結果は、夫は出現せず、写真が一枚出てきただけでした。すみません。」


視線に耐えられなくなり、頭を下げて下を向いた。

沈黙が怖くて頭が上げられない。

きっと、死んだ人を蘇らせるというのはどこの世界でもやってはいけないことなのだ。やろうとしてしまっただけでも罪なことだろう。

それが分かっているだけに、余計に沈黙が重くのしかかってくる。


「もういいだろ。」


ミルドレッドさんがいつの間にかそばに来ていて、頭に手を乗せていた。

恐る恐るミルドレッドさんを見ると、真剣な表情で問いかけてきた。


「あんたは、これからどうしたいんだい。」


どうしたいのかなんて分からない。だってこの世界に来て、何も分かってない状態なのにしたいことなんて考える余裕はない。


「どうしたいとかはまだ分かりません。正直な今の気持ちを話してもいいですか?」


ミルドレッドさんは片眉を上げると頷く。

私はイーサンさんを見つめた。


「私は、今までの皆さんの反応から、なんとなくではありますが、自分の能力や立場がそれなりに重要であるのことは分かりました。なので、魔術師団にて必要であれば、私の力の研究をしていただいても構わないと思っています。

出来ることならば、元の世界に帰りたいとは思っていますが、現在その方法が分からない以上、ここで生きていくことになると思います。」


イーサンさんもエリックさんも、真剣な顔で、私の話を聞いてくれている。


「もしかしたら帰れないかもしれないので、自分の能力をきちんと把握できたら、この国で出来ることをやって、最終的に親子3人で暮らせるようになればと思ってはいます。

その為には私はこの国のことを知っていかなければなりません。

なので、これからやりたいことと言うよりかは、やらなきゃいけないことは、自分の能力を知ること、この国について学ぶこと。この2つがメインになるかと思います。私個人のことではっきりと言えるのはこれくらいです。」


「…それはそうだな。」


本日何回目かのため息をついたイーサンさんは、疲れたのか、目頭を揉みながら呟いた。

なんとか納得してくれたようでほっとする。

エリックさんも、優しい顔でこちらを見ている。


「団長のお考えとしては今後どうなさるおつもりで?」


イーサンさんは今度はミルドレッドさんへ問いかけた。


読んでいただきありがとうございました!


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