温室に行ってみた
すっかり間が空いてしまったのだが、ようやく自分のやりたいことに集中できる時が来た。
私が離れている間、スライムの養殖は少しずつではあるが、前進しているようだった。
2ヶ月かけてようやく温室が完成したと聞いたので、早速見せてもらいにいくことにした。
「ライドンさん、おはようございます。またよろしくお願いします。」
「ヒカリ様、昨日は色々あったんだってね?」
ライドンさんはニヤニヤしながら昨日のパーティーについて聞いてきた。
もうそれは色々ありましたとも。
きっとその場にいたご両親から話を聞いたのだろう。
私は苦笑しながらも頷くと、ライドンさんは堪えきれずにぷっと吹き出していた。
「いやーびっくりしたよね。なんかやってくるとは思ってたけどさ。」
ライドンさんがどんな話を聞いたのか確認してみると、デービット様がシャーロット様と婚約破棄しようとしていたこと、そこに私達が乱入したこと、望がスキル発動させたこと、デービット様の恋人が老婆だとシリウスさんが見破ったこと…まぁ大体のことは忠実に伝えられていた。
私がライドンさんのお父さんに高い高いされたことまでね!!
ライドンさんはそれを聞いて想像したのか、話の途中で大爆笑していた。そばにいたユウとユキは気の毒そうに私を眺めている。
ユウとユキも高い高いされたのかと聞くと、毎日されていると言う。朝起きた時、帰ってきた時…何も無くても会う度にやられているそうだ。ユウは諦めたようだけれど、ユキはまだ少し怯えているらしい。
…ちょっと待って。私、ユウとユキと同列な訳…?オバサンなんですけれども…。
新たな事実に衝撃を隠せない。ユウはドンマイとでも言いたげな表情で私の肩を叩いた。
笑い終えたライドンさんは一息つくと、私達が帰った後のことも教えてくれた。
私達が帰った後、ライドンさんのご両親とシリウスさんのご両親は私たちとまともに挨拶をしたせいで、随分と質問責めにあったらしい。適当に流してくれたそうだけれど、きちんとお話しできたわけでもないので申し訳ない気持ちになる。
更にエドワード様は愛に頭痛を治してもらった事をお喜びになっていたようで、大絶賛してくれていたらしい。
愛を評価してくれたことはありがたいと思うが、また変なことに巻き込まれなきゃいいなと不安が過ぎる。
そんな不安を察してか、ライドンさんも少し黙って考え込む。
大勢の前に出てしまったのだから、今までよりも私達の顔を知っている人が増えてしまった。
それは仕方がないことなのだけれど、また見えない敵に気を付けなければならなくなった。
「まぁ、魔術師団にいれば安全だとは思うよ。」
「そうですね。」
なんと言ってもミルドレッドさんが目を光らせているからね。
あと、シリウスさんも。
不安は拭いきれないものの、今は気にしてもしょうがないので考えるのをやめてスライムの温室へ向かうことにした。
「そういえば、ライドンさんはオリビアとはどうなってんの?」
私は温室に向かうまでにライドンさんとオリビアについて聞いてみることにした。
ライドンさんは困ったように頭を掻いている。
「実は…婚約のお願いに家に行ったんだけど…親父さん、びっくりして泡吹いて倒れちゃって…」
「ええ!?なにそれ!?」
ライドンさんの話によると、犯罪に加担してはいないものの、そのような家と婚約を結んでいたことで、貴族としての今後についてどうしていけばいいのか大騒ぎになっていたらしい。
オリビアにはお兄さんがいるそうなのだが、お兄さんまで婚約破棄されそうになっていたらしく、オリビアの婚約を勝手に決めたお父様は家の中で奥様にも、息子にも責められ続けていたそうだ。
そんな時に、オリビアが格上の家柄のライドンさんを連れて帰ってきて、結婚させて欲しいと言ったもんだからもう何が何だか分からなくなってしまったそうで、そのまま泡を吹いて倒れてしまったらしい。
すっかり体調を崩してしまったお父様はそのまま寝込んでしまっており、話が進んでいないようだ。
「お袋さんの方は随分と喜んでくれて、親父さんの体調が戻ればうまく話もまとまると思うんだけどさ。」
お母様の方はでかした!とばかりにオリビアを褒め称え、お兄様も泣いて喜んでいたそうだ。
もうお終いだと思っていたところでの侯爵家との結婚話だもの、渡りに船とはこういうことだろう。
「大変そうだねぇ…まぁでも恋人ってことだよね。」
「そうだなー。でも、俺は早く婚約者になりたいよ。アイツは婚約者だったんだ。なんか嫌。」
ライドンさん、それはヤキモチというものですよ。
ムスッとしているライドンさんをニヤニヤしながら覗き込むと、恥ずかしそうに目を逸らしたのだった。
雑木林に着くと、私が使ったビニールハウスの隣にその2倍くらいの広さのガラス張りの温室が出来上がっていた。
「…これ、いくらしたの。」
「…聞かないで。」
その言葉に血の気が引いた私は青い顔のままライドンさんを見ると、ライドンさんはクスクス笑った。どうやら冗談のようだけれど…ガラス張りの温室だよ?二畳くらいのサンルームだって300万くらいするじゃん?こんだけ大きな温室って…考えただけでもゾッとする。この温室を作るほどの価値がある研究なのか自信がない。
「ヒカリ様が気にすることじゃないって。」
…果たして本当にそうなのだろうか?私はとにかく頑張るということを心の中にいる神様に誓ったのだった。
「今いるスライムは全部で10匹。スライムの数に対して随分と広いけどそのうち大量に増えることになるからこれくらいが妥当だとは思う。」
「はい…」
「それから、スライムがこの温室を壊さないように、外へ出て行かないように俺の結界が貼ってあるよ。その結界が破られることがない限りはコイツらはガラスを壊すことも、外に出ることもできない。」
「ライドンさんの結界は破られることはほぼないんですか?」
「そうだな。俺よりも魔力が高いだけじゃなくて、複雑な結界にしたから、その術式が分からないと解けないかな。」
ライドンさんは温室の外をぐるぐると回りながら簡単に説明してくれる。その間、ユウとユキは先に温室に入ってスライム達と戯れている。
ビニールハウスにいた時よりも随分と楽しそうに跳ねるスライムが可愛く見える。
私はその様子に耐えきれず、ノートとペンを取り出して絵を描いた。
一心不乱にペンを走らせて、ボンボンボンっとスキルを発動させた。
「なにそれ。」
「キャットタワーと、ハンモックと、猫じゃらし。」
そう、私は猫グッズを作り出した。
だって、飛び跳ねてるの、なんか猫っぽかったんだもの。
私はその猫グッズをライドンさんにも手伝ってもらいながら温室の中に運び込むことにした。
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