結局パーティー満喫してみた
「…なんで?」
「ふふふー!久しぶりに魔術展開してみました!」
さっきまでぐったりしていたはずの望が、エミリーさんに抱っこされたままケロッとしている。
シリウスさんもビックリした顔でエミリーさんを見ている。
実は以前エリックさんから聞いたことがあるのだが、エミリーさんは人望はあったのだけれど、魔術を使うのは秀でていたわけではなかったそうだ。それで限界を感じていたのもあり、結婚を期に退職したそうなのだ。
きっとシリウスさんはその頃のエミリーさんをよく知っているので、望を回復させられるほどの魔術を使えたことに驚いているのだろう。
「ほら、うちにもよく頑張りすぎちゃう人がいるから…引退した後も魔力の回復だけは勉強し続けてたのよー。」
ほほほと笑いながらそう説明するエミリーさんの隣で、イーサンさんがバツの悪そうな表情をしている。なるほど、愛の力というわけか。
大人のイーサンさんの魔力回復ができるくらいなのだから、望の魔力回復はそこまで難しいものではなかったのだろう。
エミリーさんの腕の中から手を伸ばしてきた望を受け取り、力いっぱい抱きしめた。
「ありがとうございます…!」
「いいのよー。アイちゃんとルーカスもダンスの練習してきたんだし…せっかくだから踊らせてあげたいじゃない?」
確かにここで帰るとなると、2人のダンスを披露することなく終わってしまう。私は慌てていてそこまで考えることができていなかった。
ね?と首を傾げるエミリーさんに、なんだかとてつもなく大きな器を見せつけられたような敗北感を感じながら苦笑いした。
「イーサンさん、すごい方とご結婚なさったんですね。」
「…ああ。一生敵わん。」
イーサンさんは複雑そうな顔をしていたけれど、目はとても愛おしそうにしてエミリーさんを見つめていた。
「じゃぁ、皆にアイちゃんとルーカスのダンスを見てもらいに行きましょうか!」
満面の笑みのエミリーさんに私達は苦笑しながらついて行ったのだった。
愛とルーカスくんは緊張しながらも、とても楽しそうにダンスを踊っていて、会場の皆さんも微笑ましそうに2人の様子を眺めている。
私も、2人のダンスを見ながらなんだか感動してしまい、泣きそうになっていた。
「見られてよかったわねー!」
「ええ、本当にありがとうございます…私全然余裕無くて…」
情けないが、2人の成長した姿を見られたのもエミリーさんの魔術と配慮があったからだ。私は自分のことばかりで2人のことを考える余裕すらなかった。
そのことを反省していると、エミリーさんは微笑んでくれた。
「あらあら、そんなの気付いた人がやればいいだけよ?ゴミが落ちているのに気付いた人が拾えばいいし、散らかってるのに気付いた人が片付ければいいのよ。それと同じ。気付いた人が…できる人がやって、うまくまとまればそれでいいのよー。」
「うまく…」
「そうそう!もしね、今日のことで何か思う事があったのであれば、それを今度は違う誰かにしてあげればいいのよー。」
そう私に言い聞かせるように言ったエミリーさんはなんだか先生のようだなと感じる。エミリーさんの言うことは側からみれば綺麗事かもしれない。それでも、私はそれに救われているし、やっぱり素敵だなと思うのだ。
「本当に敵わないですねぇ。」
「ええー?そんなことより、2人のこと見てあげなくっちゃ!」
私はエミリーさんに促されて、また可愛い2人のダンスを堪能するのだった。
「本日はありがとうございました。主役でしたのに大したおもてなしもできず…」
帰りがけに挨拶に窺うと、あちこち回りながら忙しそうにしていたのにエドワード様はそんなこと微塵も感じさせない爽やかさでそう言ってくださる。
「いえ!子供達も大変楽しませていただきましたし…むしろお騒がせして申し訳ありませんでした。」
私が頭を下げると、エドワード様は優しく微笑んでくださった。これが本物の王子スマイルか…素晴らしいな。
やはり美男子というのは神様からの贈り物なのだろうなと馬鹿みたいなことを考えていると、愛がシリウスさんに抱っこをせがんでいた。
シリウスさんに抱えられた愛がエドワード様に話しかける。
「あたまいたいいたい?」
「…え?」
急にそう聞かれたエドワード様はビックリして愛のことを見ている。
愛はまともに目が合って恥ずかしかったのか、さっとシリウスさんの腕の中に隠れた。
戸惑った様子のエドワード様がシリウスさんの顔を見ると、シリウスさんは困ったように笑いながら説明した。
「えっと〜…アイ様のスキルが癒しでして…人の傷や痛みを癒す事ができて…最近スキルを使う練習をしてきたので、もしかしたら人の痛みに敏感になったのかもしれませんね〜。」
「はは、なるほど。全てお見通しというわけですか。」
エドワード様は恥ずかしそうに左手で首のあたりをさすりながら苦笑していた。
今日のパーティーではエドワード様への負担は相当なものだったに違いない。私はシリウスさんとイーサンさんの鉄壁なガードのお陰で自由に過ごす事ができたが、エドワード様は事を収める為に慌ただしく動いていたのだから何倍も疲れているはずだ。
それを外に出さないで過ごしていたのは、流石王族といったところだろうか。弱みを見せられないというのは大変だろう。
ここで気が付いたのも何かの縁だ。
愛のスキルで頭痛を治す提案をした。最初は遠慮していたエドワード様だったが、私達が帰った後もパーティーが続くんだから今のうちに治しておくべきだと説得し、渋々頷いてくれた。
愛に治していいと伝えると、シリウスさんの腕の中からおずおずと顔を上げて手を伸ばす。
エドワード様のサラリとした髪に触れると、愛はスキルを展開した。
「いたいいたいよとんでけー!」
愛が触れた部分が温かみのあるオレンジっぽい光に包まれた。ユウとユキの傷を治していくうちにスキル発動に慣れたようで、最近はこのような暖かい光が出てくるようになった。
その光がスッと消えると、エドワード様は目を見開いている。
「…これはすごい…こんなにスッキリしているのは久しぶりだ。アイ様、ありがとうございます。」
「…どーいたまして。」
感動しているエドワード様にお礼を言われた愛は、もじもじしながらそう言ってまたシリウスさんの腕の中に隠れてしまった。
恥ずかしがっている愛の代わりに私がエドワード様と話を進める。
「本当にありがとうございました。まさか治ってしまうと思わず…先程は失礼な態度をおとりしました。」
「いえいえ!むしろ娘も恥ずかしがって…申し訳ありません。でも、治ったならよかったです。本日は本当にありがとうございました。今後また何かありましたらよろしくお願い致します。」
「ええ、こちらこそ。」
「あ、あと、敬語やめてください。落ち着かないので…」
身分がだいぶ上の人が愛のことまで様付けで呼んでいるのが居た堪れなかったので、そうお願いすると、エドワード様はキョトンとした後、堪えきれなかったのか笑い始めた。
「はは!なるほど…母上が随分と気に入るはずだ。お言葉に甘えてそうさせてもらうよ。
…アイちゃん、どうもありがとう。今度ゆっくりお礼させてね。」
エドワード様はシリウスさんの腕の中に隠れている愛を覗き込んでそう言った。愛は顔を半分隠したまま、エドワード様に掌をむけた。その様子にピンと来てなかったのか、エドワード様が困惑してこちらを見ていたので、私とシリウスさんでタッチして見せた。エドワード様は自分の掌と愛の掌を見比べたあと、そっと手を合わせてくれたのだった。
色々なこともあったし、色々な人に会ったしで、本当に疲れた一日だった。馬車に乗った時には全員ぐったりしていたくらいだ。
何はともあれ、1番憂鬱だったイベントは終了した。これからはスライムと自分のスキル研究に集中できるぞー!
いよいよ、やりたい事ができるようになる喜びを噛み締めながらその日は泥のように眠ったのだ。
…後日、王家から大量のお詫びとお礼の品が届けられたことは言うまでもない…
読んでいただきありがとうございます!
評価、ブックマーク、感想、レビュー、嬉しいです。
誤字報告もありがとうございます…本当に助かります!!
これからもよろしくお願いします!




