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「ほんっとにヒカリ様といると色々ありますねぇ〜。」
周りには聞こえないほどの小さな声で、シリウスさんは話始める。私は踊ることに精一杯でそれどこではないのだけど、なんとか笑顔を保ちながらシリウスさんの動きに合わせて話を続けた。
「今回のは私のせいじゃないですよ。むしろ私がちょっかいかけなかったらもっと大変なことになってたでしょー?」
「いや〜どちらかと言えばノゾミ様のおかげですよ〜。」
確かに。それはそれで私は誇らしい気持ちになった。
大物になるだろうと踏んでいたが、まさかここまでだとは思っていなかったので、とても嬉しい。
自然とにやけてしまう顔をシリウスさんは満足そうに見ている。
「これからノゾミ様のスキルについても研究していかなくてはなりませんね〜。」
「ノゾミはまだ言葉も十分に話せないし、焦らなくてもいいのでは?」
「それもそうですが…今回のように突発的にスキルを発動した時の対処を検討する必要はありますね〜。」
また同じようなことが起こったときのことを考えて…ということか。それは必要だろうと思う。もし、先ほどのように結界を張るような状況になってしまって、魔力切れを起こしてしまったら更に危険な状況に陥ってしまう。発動することを防ぐこと、発動してしまった時のことを考えなければならない。
なんだかんだやることが増えてしまった事に気付いて、2人で苦笑した。
「本当に人員確保できるといいですねぇ〜…」
「あとは陛下達にお任せしましょ。私達割と貢献してると思いますよ。」
「…引っ掻き回してる気もしますけどね〜。」
シリウスさんは曖昧に笑いながらそう言ったが、何か思い出したようにハッとしていた。
「そういえば、ヘクターからオリビア嬢に贈られた物の鑑定も終わったようですよ〜。」
「そうなんですか…」
「…安心してください。盗品や偽物はありませんでしたよ〜流石にオリビア嬢には渡せなかったようですね。」
「ほーんと不器用な奴ですね。」
そこで思い留まれるほどの気持ちがあったのであれば、最初から悪いことに手を出さずにいられただろうに。
彼の中ではオリビアに対する愛情だけは本物だったのだ。
それでもオリビアや、他の人を傷つけてしまったこととはまた話は別だ。きちんと罪を償わなければならない。
いつか、そのことに自分で気付くことができる時が来るだろう。
とにかくこれからオリビアが幸せになってくれることを願った。
話しながら踊っていたらいつの間にか終わっていたらしい。緊張から解放されて、深いため息をついた。
やはりシリウスさんは私をリラックスさせていたらしい。足を踏みつけることなく、無事に踊り終えたことに安堵し、私とシリウスさんは顔を見合わせた後、思わず笑い合った。
会場から歓声や拍手が鳴り、我に返った私たちは腕を組んでそこから出ていこうとしたが、私達の前にケイレブさんとフィオナさんが現れたのだ。
「2人とも、立派だったわ。」
フィオナさんは私達のダンスを見ていたようで、そう言って褒めてくれた。服装についても細かく触れてくれているが、正直なところ急いでいる。
「フィオナさん、今日に至るまで、講師を派遣してくださったり、ご協力ありがとうございました。」
「いいのよ。遠慮なさらないで。」
「本当にありがとうございました。
…すみません、お礼もお話もしたいところなのですが、実は望が…後日改めてお礼に伺わせていただいてもよろしいでしょうか?」
「やはり魔力切れを?」
「はい…」
流石はシリウスさんのお母様だ。望のスキル発動を見ていたことから、現在の状態も予想していたようだ。
都合の良い日を後日連絡くださるということだったので、大変申し訳ないが、失礼させていただくことになった。
早く行ってあげなさい、と送り出してくれたフィオナさんとケイレブさんに礼をして子供達の元へと急いだ。
望や愛を一目見ようと人だかりができていて、離れてしまったことを後悔する。私達に気付いた人が道を開けながらコソコソと話している。良い気分はしないけれど、今はそれどころではない。人だかりの中心部で、イーサンさん達は大きな男性と、スラリとしたスタイルの女性と話をしていた。
「イーサンさん、すみません!お待たせしました!」
焦って声をかけると、ヒグマのようなおじさんがこちらを振り返る。
でっかー!!!人類でこんなに縦にも横にもでかい人見たことない!!私はあんぐりと口を開けてその人の顔を見ると、その人は人好きのするような可愛らしい笑顔でこちらを見ていた。
「おー!君が!!本当色々ありがとうなぁ!!君のおかげで今俺は最高に充実している!!」
ぐわっと大きな腕で掴まれて、まさかの高い高いをされた。私成人してから10年も経っているんですけど!?高すぎて怖い!!なに!?
私は恐怖に言葉を失って泣きそうになる。
「ちょっと!あなた!何してるの!!びっくりしてるじゃない!!」
スタイルの良い細身の女性が扇子でパコンとヒグマの頭を叩くと、豪快に笑ったヒグマはゆっくりと私のことを降ろした。
私が高い高いをされていたのを近くで見た愛と、ルーカスくんはヒグマに高い高いをして欲しいとおねだりに行っていた。
本当に急いでるのに何だっていうの…
私はヘロヘロになりながらイーサンさんを見ると、イーサンさんも疲れた顔をしていたのでエミリーさんに説明を求めた。
「チャーリーちゃんと、ライドンくんのご両親よー!」
なんと…!!
この2人からあのチャーリーさんとライドンさんが産まれていたのか…!!そう思うとこの強烈さにも納得がいった。
「初めまして、ヒカリと申します。ご挨拶に伺わなければと思ってはいたのですが….遅くなってしまい申し訳ありません。」
私は奥様の方に挨拶をすると、チャーリーさんによく似た綺麗な顔で微笑んでくれた。
「初めまして、イザベラよ。あちらのクマさんが私の夫…バーナード。さっきは失礼したわね…」
イザベラさんが言ってるのはさっき私が高い高いをされたことについてだろう。呆れた様子で子供達と戯れるバーナードさんを見つめていた。
「い、いえ…チャーリーさんと、ライドンさんには大変お世話になっておりまして…この衣装もそうですが、私のここでの生活を支えてくださってます。ご家族様には…その、ユウやユキのことを始め…オリビアのことも…」
私は思いつく限りお世話になっていることを挙げていったのだが、迷惑をかけすぎていることに気付いて途中からしどろもどろになってしまった。
申し訳なさそうにしていると、イザベラさんは私の頭に手を置いて撫で撫でしてきた。
「…いいのよ。あなたのおかげで私達、今とても楽しいもの。ユウとユキを我が家に連れてきてくれてありがとう。」
そう優しそうな目で言われて涙が出そうになった。とにかく深く頭を下げて、後日改めてご挨拶させていただくことを伝えて望の元へと駆け寄ったのだった。
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