2
「今日のパーティーは、母上が紹介したい人がいると開いたパーティーだ。母上にはまだ伝えていなかったのだが、どうやらどこかで私が運命の人に出会ったことを聞いていたらしい…新しい婚約者として皆に紹介しよう!グレッタだ!」
騒ぎの中心に近付くと、デービット様はそんな馬鹿げた台詞を大声で叫びながら赤茶の髪の女の子、グレッタを抱き寄せた。グレッタさんは勝ち誇った笑みを浮かべて周りに手を振っていた。
『紹介したい人がいる』という言葉だけでよくそこまで飛躍した考え方ができるものだと感心してしまう。
それからもデービット様の暴言はシャーロット様に投げ続けられた。
辛気臭いだの、暗いだの、つまらないだの幼稚な言葉の暴力を受けて、シャーロット様は涙を堪えて震えていた。
私は意を決して、その騒ぎの中心に乗り込んだ。
「はいはーい!すみません!ちょっといいですか!?シャーロット様ですよね!?ちょっとお話があるのできてもらってもいいですか!?」
「なんだ貴様!?第二王子のこの私が話しているところに来るなんて…男…いや、女か…?」
「そ、そうよ!何なのよあなた達!!」
突然登場した私達に戸惑いながら怒鳴り散らすデービット様とグレッタさんの言葉を無視して、私はシャーロット様のところに駆け寄る。
シャーロット様は突然のことにポカンとしている。私はドレスの内ポケットからハンカチを取り出してシャーロット様に手渡して、手を引きながら王后様のところへ連れて行こうと歩き出した。
「ちょっとシャーロット様の話を聞きましてね、是非とも協力して欲しいことがありまして…」
「えっと…あの、あなたは…?」
早くその場からシャーロット様を連れ出そうと早歩きでぐいぐい引っ張りながら一方的に話しかける。私の無礼さにシリウスさんは額に手を置いて随分と困ったようにしていた。
ごめんね、パーティーに備えていっぱいマナー教わったのに無駄にして。
一応悪いとは思っているので、目は合わせられない。
「ちょっと待て!!貴様ら、誰の許可を取ってそんな勝手なことしておるのだ!!」
「やっばー。マジでそんなこと言うんだね、王子様って。」
「なんだと!?馬鹿にしているのか!?」
誰の許可って、あなたのお母さんの許可は取ってますけどね。
そんなことを知らないデービット様は顔を真っ赤にして追いかけてくる。グレッタさんもデービット様の後から怖い顔をして歩いてきており、自分たちの晴れの舞台だと信じて疑わない彼らはそれを台無しにされたことにこの上ない怒りを感じているようだった。
「くっ…おい!誰かアイツらを捕まえろ!!」
そう叫びながらデービット様がこちらを指差して、騎士達に指示を出した。
騎士達に囲まれてしまったので、これはいよいよまずいかも?と思ってシリウスさんの顔を見る。シリウスさんはやれやれとでも言いたげな表情で私達の前に立ち、魔術を展開しようとしていた。
しかし、ここで予想外のことが起きてしまった。
「びぇぇぇぇぇぇえんあああああ!!」
大勢の人に囲まれたことにびっくりした望が大声で泣き始めてしまったのだ。その声は超音波のように空気を揺らしながらパーティー会場全域に響き渡った。あまりの声の大きさに私たちはびっくりして思わず身を縮める。そして、更に驚くことにその泣き声は私たちを囲んでいた騎士達を弾き飛ばしてしまったのだ。
「…え?シリウスさん、なんかやった?」
「…まだなにも〜…」
あまりの状況に頭が追いつかず、2人で顔を見合わせた。私に手を握られたままのシャーロット様も呆然としている。
周りを見回してよく観察してみると、うっすらと結界のようなものが張られているのが分かった。シャーロット様と繋いでいた手を離してペタペタ触ってみると、確かにそこに結界は張られていた。
「…ノゾミ様、スキル発動してますね〜。」
「ええ!?今!?」
確か、望のスキルは守護だった。本能的に危険を察知した望はスキルを発動し、私たちを囲うようにして結界を張ってしまったらしい。
私は胸の中で泣き続けている望を見て困惑する。このまま結界を張り続けてしまっては体力を消耗してしまう。しかし、まだ赤ん坊の望にどうやって伝えればいいのか分からず途方に暮れてしまう。
そんな中、シリウスさんに抱えられたままの愛が望に手を伸ばし、トントンと背中を叩いた。
「のんちゃーん、だいじょぶよー。えーんしないよー。」
そう言って望を慰め続ける愛のおかげで、望は徐々に落ち着いていき、泣き声をあげるのをやめた。
ヒクヒクと肩を揺らしながら呼吸する望を、愛と一緒に宥めていくとスッと
結界が消えていく。
「貴様ら…一体何者なんだ…?」
デービット様は自分の騎士達があっという間にのされてしまったことで、顔を真っ青にしながらこちらに問いかけていた。
その問いかけに答える暇もなく、低くて重い声が響き渡った。
「そこまでだ、デービット。」
「父上…!!」
そこには王様と王后様が立っていた。
デービット様は2人に向かって私たちの無礼さを訴えて、すぐに処分するように訴えている。
しかし、2人の反応は冷たいものだった。
「私達の客人にとんでもないことをしでかしてくれたな。」
「…え?」
王様は鋭い目付きでデービット様を睨みつけた。その酷く怒りの込められた言葉にデービット様は困惑しながら、私たちのことを見つめる。
「皆の者、うちの愚息がこんな騒ぎを起こしてしまってすまない。改めて紹介させてもらおう。魔術師団第一部隊隊長、シリウスの召喚術により召喚された、聖母ヒカリ、聖女アイ、聖女ノゾミである。」
私たちは王様の紹介に合わせて全体にお辞儀をする。愛もシリウスさんから下ろしてもらって、恥ずかしそうにしながら、上手にお辞儀をしていた。
場内のざわつきはより一層大きくなり、私たちは久しぶりに好奇の目に晒されている。
先程の断罪イベントはすっかりかき消されたようだ。
それもそうだろう。愛がスキルを発動した時でさえ驚かれていたのに、赤ん坊の望がスキルを発動させてしまったのだ。意図せず、大衆の面前で聖女としての素質をこの上なく示したのだ。
本物の聖女が現れた上に、聖母という聞き覚えのない単語を耳にして、興味はこちらに移ってしまった。
「もう、もっとちゃんと紹介したかったのに。」
王后様は拗ねたようにそう言って私達のそばに寄ってきた。
私達はそんな殿下の振る舞いに苦笑しながら応える。近くにいた人達にもその言葉は聞こえたようで、特にデービット様は顔を更に青くしていた。
「…まさか…紹介したい人って…」
「そうよ。どこかの身の程知らずを紹介する為のものではないの。」
冷たい目で睨みつけられたデービット様は、腰を抜かして尻餅をついた。皆から見下ろされる形になっていることも忘れ、座り込んだまま立ち上がることが出来ないほどに動揺しているようだった。
「デービット、お前には失望したぞ。こんなにも愚かだったとは…その根性叩き直してやる。2人を捕まえろ。」
王様は騎士達に指示を出してデービット様とグレッタさんを捕まえ、会場から連れ出そうとした。しかし、2人とも激しく抵抗しており、大声で怒鳴り散らしていた。
すると何を思ったのか、シリウスさんはデービット様…ではなく、グレッタさんの方に歩み寄った。
そして軽く指を振ったのだ。
「ぎゃあああああああ!!!」
読んでくださり、ありがとうございます!
評価、ブックマーク、感想、レビューも嬉しいです
誤字報告もありがとうございます
これからもよろしくお願いします!