王后様と面会してみた
衣装部でダンスについての指摘を受けてから残りの日数を死に物狂いで練習し、今日はいよいよパーティー当日だ。しかし、その前にやることがある。
実はパーティーの2時間前には王宮へ向かうように指示されていた。パーティーへの準備が忙しく、王后様との面会の時間が取れていなかったのだ。その為、王后様からの提案で、パーティーの当日早めに集合して、その分お話でもしようということになったのだ。
昼食を食べ終え、少しまったり過ごしていると衣装部の皆さんが客室に訪れた。
「ほら、気合入れるわよ。」
チャーリーさんには背中をバシンと叩かれた。多分私が緊張していることに気がついていたのだろう。今はそういう優しさが身に染みる…
「もー…チャーリーさん好きになっちゃいそう…」
「何馬鹿なこと言ってんのよ。アタシはまだまだ死ぬつもりはないわよ!」
「何それ!?どういう意味!?」
なんかものすごい酷いこと言われたような気がする!私が好きになると死ぬってこと!?死ぬ程嫌だってこと!?そんな風に言うことなくない!?そうやってぎゃーぎゃー騒ぐ私のおでこにデコピンを喰らわせて黙らせてくるチャーリーさん。パチーンといい音が響き、痛くてうずくまった私はチャーリーさんを見上げる。腕を組んで仁王立ちているチャーリーさんは片眉をあげて呆れた表情のまま、親指で自分の後ろの方を示す。私はおでこを抑えながらその後ろを覗き込むと、そこにあったのはシリウスさんにもらった花で作ったハーバリウムだった。
私はその意味に顔を歪めた。
「アンタ、アタシが何も知らないと思ってんの?」
「分かった。もう何も言わないし、何も言わないで。」
私が降参のポーズをしてチャーリーさんにアピールすると、勝ち誇った顔で笑われた。
あれから私の気持ちの変化もないし、シリウスさんからも特に何かされた訳でもない。まぁ、たまに意味ありげな視線をよこされることはあるけれど、それ以上何かが起こる訳でもない。表向きは今まで通りという状況が続いているが、なんというか、居心地は良くない。そのうち慣れるか、飽きられるかするだろうと思って過ごしている。
そんな状況をどこまで知ってるのか分からないけれど、チャーリーさんも思うところがあるのだろう。
藪をつついて蛇を出すようなことにならないように、私はそれ以上何も触れずにアイリスさん、マリーさん、ダリアさんと一緒に着替えをするために、部屋の奥へ移動した。
襟元、袖、裾部分にストーンが付け加えられたドレスは少し眩しいくらいの輝きを放っていた。メイクも自分ではここまでしないんじゃないかってくらいに派手になっているが、日本人らしいのっぺりした顔には丁度いいのかもしれない。
ジョンさんも、中性的な髪型を作るのに相当なストレスを感じているのかギリギリと歯軋りをしながらも綺麗に仕上げてくれた。ごめんね、ありがとう。後で思いっきり女に仕上げていいからね…
チャーリーさんに仕上がりをチェックしているとシリウスさんが迎えにきてくれた。愛と望はイーサンさんが連れてきてくれる。愛のダンスのお相手として、ルーカスくんがパートナーとして来てくれることになったのだ。巻き込んでしまって申し訳ないが、家族皆で美味しいものが食べられるとエミリーさんは大喜びしていたらしいので、お願いすることになったのだ。イーサンさんはちょっぴり憂鬱そうだったけれど。
私はシリウスさんと一緒に馬車に乗り、王宮へと急いだ。
「王后様にはどんな話をすればいいですか?」
「そうですね〜スライムのことと、ユウとユキについて…ヘクターを捕獲した時のことですかね〜…殿下が興味を持ちそうなのはそれくらいかと。あとは聞かれたことを伝えればいいとは思うのですが…他に話したいことありますか?」
本当のことを言えば、今保護されている人達についての話がしたいが、それをシリウスさんに言ったら反対されそうなので今は言わない。
特にないかなと首を傾げて見せると、じっとこちらを見つめながら軽くため息をつかれた。
多分気付かれてはいるとは思うが、不機嫌そうにするだけで何も言われたりはしなかった。
スライムの現状については、温室の申請が済んでいるそうなので、何となくは殿下も把握しているだろう。詳しい現状についてはシリウスさんがライドンさんから聞いておいてくれたそうなのでその辺は任せてしまうつもりだ。
ユウとユキについては健康状態も良好だし、能力についてもこの目で確認しているので大丈夫だろう。
ヘクターについても同様だ。
「…1番の問題はダンスじゃないっすかね…」
私はチベットスナギツネのような顔でシリウスさんを見ると、シリウスさんは思わず吹き出してしまった。
「ははっ!いや、随分とマシになられましたよ〜。」
「マシ…ね。」
決して上手だと言わないところがシリウスさんらしいと思う。
実際に別に上手くはなっていないが、楽しく踊る…というかヤケクソでやってみたら割と表情も安定したのだ。
私の心情を把握しているシリウスさんからしてみれば面白いことこの上ないのだろう。私は肩を震わせて目を逸らしているシリウスさんを引き続きチベットスナギツネで見つめていた。
「…そういえば、結構大々的に行なわれるようで、ライドンの御両親なんかも来るようですよ〜オリビア嬢の方は来ませんけど。」
「侯爵家までが来るってことですか?」
「ええ。」
「…ケイレブさんとフィオナさんも?」
「…多分…。」
フィオナさん来るんかああああああ。
皆の前で余計なこと言わなければいいなと思う。シリウスさんは何を考えてるのかは分からないけど、ニコニコして私の引き攣った顔を見ている。
随分と不安要素を残したまま、パーティーに参加することになりそうだ…。
前回王宮に来た時は、控室に通されてから、やたらと広い部屋に行ったのだが、今日は直接王后様のサロンに向かうようだ。サロンっちゃ何だと思って聞いたら、応接間のようなところらしい。じゃぁ応接間でいいじゃんって思うけれど、それにも作法があるのだろう。そんなことが気になってしまうほどに気持ちが荒んでいることに自分で気付いて、切り替えるために頭を振った。
パーティーは前回王様達と会った広いところで開かれるそうだ。
私とシリウスさんはサロンにあるソファに隣り合って腰掛けて、王后様の到着を待っていた。
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