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どれくらい寝てたのだろうか。息苦しさを感じて目が覚める。

息苦しさの原因は望だったようで、見事に私の顔面を椅子にして座っている

苦し臭い。いや、むしろ座ってくれててよかったというか。ベッドから落ちてなかったことにホッとする。

モゾモゾと動いて望を顔面から下ろして、無理矢理添い寝させて抱き締める。


「のんちゃん、おはよう。」


「うー。」


不服だったようで唸られた。ついでに顔も叩かれる。ひどい。

悲しかったので抱き締める手を強めると、抵抗もより一層強まった。

あまりにも暴れるので諦めて手を緩め、代わりに愛を探す。

愛はなぜか布団から抜け出して、上の方で猫のように丸まって寝ていた。

よほど疲れていたんだろうな。動かすと起こしてしまうので、布団をかけてあげる。

望を抱えてベッドから降りて、ノートに新しくオムツの絵を描いて、望のオムツをかえてあげる。

オムツかぶれもチェックしたが、問題なさそうだ。

早く動きたくて寝返りをしようとする望と格闘しながらなんとかオムツ変えをする。新しいオムツでスッキリしたようで、よたよたと部屋中をお散歩し始めた。


今度は自分の準備に取り掛かる。

まず顔を洗おうと、あくびをしながらお風呂場に向かった。


「うわ、ブスだな!!」


泣いたまま寝てしまったので目がとんでもなく腫れて、顔もパンパンになっている。

驚きのブスさ!!

もうこれは仕方ないので、顔を洗った後冷たい水で濡らしたタオルを目の上に置いて冷やすことにした。

タオルを手にソファーに横になり、顔の上にタオルを置く。

気持ちよくて寝てしまいそうだったが、タオルを望に奪われる。


「のーんーちゃーんー!!」


子育て中に優雅なひとときを得るのは難しい。タオルを取り返しては奪われ、奪われては取り返して…の繰り返しで、いつの間にか追いかけっこになってしまった。

朝一で追いかけっこは辛い。


「ママうるさい!!」


大騒ぎしてたので、愛が起きてしまい、怒られました。すみません。

元々寝起きが悪い愛は、私と望をぐっと睨みつけている。

きっと空腹も相まって機嫌がものすごく悪いのだろう。

サラさんはまだ来ないのかな…

今が何時なのかも分からないが、外の様子から無事に朝まで眠ったのだろうと推測する。

なんとか気を紛らわせるものがないかと部屋の中を散策していると、タイミングよくノックの音がした。


扉を開けると、サラさんと、メイド服を着た女性が2人立っていた。

中に招き入れると、1人のメイドさんはご飯を、もう1人のメイドさんはお洋服を持ってきてくれた。


「おはようございます、ヒカリ様、アイ様、ノゾミ様。」


「おはようございます、サラさん。」


「サラちゃん!おはようございます!」


愛はサラさんが来た途端にベッドから降りて駆け寄ってきた。さっきまで極悪人みたいな顔をしてたのに。

望もご飯の匂いに大興奮だ。

ご飯のメイドさんと、お洋服のメイドさんも並んで挨拶をしてくれた。


「初めまして。私たちはミルドレッド様からのお申し付けにより、皆様のお手伝いをすることとなりました。よろしくお願いいたします。」


ご飯のメイドさんはアンネさんという人で、40歳くらいに見える。体格のいい、お母ちゃんって感じだ。

洋服のメイドさんはダリアさん。ダリアさんはルウさんと同じくらいの年齢だろうか?すらりとした美人である。


「お世話なんて…申し訳ないですが、とてもありがたいです。ご迷惑をおかけすると思いますが、よろしくお願いします。」


元いた世界では、3人で暮らしていたので、大体のことは当たり前のようにできるが、時間すら分からない世界では何をするのにも困難だ。30歳にもなってお世話をしてもらうのは大変申し訳ないが、正直なところありがたい話である。

色んなことが自分たちで出来るようになるまでだとは思うが、いい関係を築いていきたいと思う。


アンネさんはお母ちゃんらしく、愛と望の食事の世話を積極的にやってくれた。最初警戒していた娘たちも、ご飯の美味しさや、アンネさんの人当たりの良さにどんどん心を開いていく。

そんな皆の様子を見ながら、私も朝食を食べた。こんなに落ち着いてご飯を食べられるのなんて何年ぶりだろうか。アンネさん様々である。

先に食べ終わったので、アンネさんの手伝いをしようと席を立つと、ダリアさんに呼び止められる。


「ヒカリ様はこちらでお着替えをなさってください。」


「え!でもまだ子供たちが食べてるし…」


アンネさんの方を見ると、ニカッと笑って行っておいでと手で促してくれた。

子供たちもご飯に夢中なようで、謝りながらダリアさんの方へ行く。


「ヒカリ様、まずはベッドに横になってください。」


「着替えなのに?」


「ええ、今回はまずマッサージをまずさせていただきます。」


あまりの対応に、気が引けてしまう。

どうにかお断りしようと考えていると、後ろからアンネさんが大きな声でこちらに話しかけてくる。


「ヒカリ様、遠慮なんてしないでくださいな!今回は坊ちゃんが随分と迷惑をおかけしてしまったんですから。これくらいさせて頂かないと、私たちの気が済みませんから!」


坊ちゃんて、誰だよ。

と思うが、すぐに思い当たる。


「もしかして、ミルドレッドさんのお家の方じゃなくて、シリウスさんのお家の方なんですか?」


「ええ、私は坊ちゃんが、これーっくらいの時からお仕しているのですよ。」


親指と人差し指で1センチくらいの隙間を作り、茶目っ気たっぷりで笑うアンネさん。本当にお母ちゃんって感じだ。どうやらミルドレッドさんはシリウスさんのお家にお手伝いの人を寄越すように言ったようだ。

自分でも失礼だと思うが、シリウスさんのお家の方なら、まぁいっかと思い、お言葉に甘えることにした。


ベッドに横になり、ダリアさんにお任せすると、テキパキと手際のいい動きで身体中をマッサージしてくれる。

マッサージも、久しぶりで気持ち良さにまた眠気が襲ってくる。

このまま寝てしまってはいけないと、ダリアさんと色んな話をしてみた。


ダリアさんはシリウスさんと姉弟のように育ったらしく、沢山の失敗談を知っているそうだ。今度じっくり教えてもらう約束をした。

体が一通り終わった後、顔のマッサージにうつる。


「…本当に申し訳ありませんでした。」


急にどうしたのかと思ったら、優しく瞼を撫でられ、そういえば目が腫れていたことを思い出す。

そりゃ、こんだけブスな顔をしてたら泣いてたのバレバレだよな。

だけど、これはシリウスさんのせいでは無い。


「いや、これは違うんです。ちょっと、夫を思い出して。」


それだけでは無いが、一番大きな理由はそれだ。事情を聞かされているのだろうダリアさんは、痛ましそうに顔を歪めた。


「今度惚気話聞いてくださいね!」


昨日たくさん泣いてスッキリしたので、強がりでもなんでもなくそう言えた。すると、ダリアさんは優しく笑って、是非と言ってくれた。


マッサージを終えて、化粧を施してもらい、だいぶ綺麗にしてもらった。

問題はドレス選びだった。

予想した通り、こちらではドレスを着る際にコルセットを着用するそうだ。

しかし、どうしてもそれは嫌だった。苦しいし、慣れていないので咄嗟に動けないと思ったからだ。

子供を連れていると、どうしても咄嗟に動かなくてはいけないときがある。

自分の運動神経ではとてもじゃないが動けないと思ったのだ。

自分の服を昨日のうちに洗ったのでそれを着たいと言っても聞き入れてもらえなかった。

なんとか説得して、コルセットなしで着られそうな淡いグリーンのAラインドレスにした。

レースでできた袖は二の腕までを隠してくれる長さで、全体的に同色の刺繍が施されている。光に当たると刺繍がキラキラと輝く。

形はシンプルだが、刺繍が細部まで施されており、いつまでも見ていられるような素敵なドレスだった。


どうにか着ることができたが、ここでまた問題が生じる。

今度は髪型だ。

男の子に間違えられてしまうほど短い髪ではドレスとは合わない。

せっかく綺麗にしてもらっても、今のままでは女装をしている少年だ。

うーんと唸っていると、サラさんが遠慮がちに手を挙げた。


「あのー…花などはどうでしょうか?」


例えば…と、指を振るとポンっと大きな百合の花が出てきた。

サラさんは花だけなら魔術で出せるからと次々と花を出してくれた。


「素敵です!お借りしますね!」


ダリアさんは嬉しそうにしながら、いくつか花を選び、私の耳の上あたりに飾り付けてくれた。

なんとか女らしくは見えるようになった。


「ママようせいさんみたいだよ!」


いつの間にか着替えを終えていた愛に褒められると少し照れ臭いが嬉しくなった。

愛は大好きなピンクのふりふりしたドレス、望は黄色のドレスを着させてもらっている。クルクルと回って広がるスカートを楽しむ愛と、ふりふりした飾りに迷惑そうな顔をする望に笑みが溢れる。


一通り準備が終わって愛の喜びの舞を見ながら皆で和んでいると、またノックの音がした。アンネさんが扉を開けるとシリウスさんが立っていた。


「皆様、おはようございます。こちらの服もお似合いですね。」


紳士のようにお辞儀をするシリウスさんに愛が駆け寄る。


「シールス!あいちゃんかわいい?」


「ええ、大変可愛らしいですよ。」


シリウスさんに褒められてご満悦だ。

どうやらシリウスさんはベビーカーのようなものを持ってきてくれたらしく、望を抱っこして乗せてくれた。

愛のことは抱っこしてくれた。

そのままミルドレッドさんのところへ行くようだ。

ベビーカーは、サラさんが押してくれるという。

何から何まで申し訳ない。

しかし、なんせ日頃からスニーカーばかり履いていたので、ドレスを着てハイヒールの靴を履いているので、皆さんの気遣いに甘えることにする。


これからどんなことが起こるのが想像するだけで気分が悪くなりそうだが、気を引き締めてミルドレッドさんの元へ向かった。

読んでくださり、ありがとうございます!

ブックマークしてくださっている方もいらっしゃることに昨日気が付きました。ありがとうございます。励みになります!

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