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実際にドレスを着てメイクをしてもらうと、まるで別人になったかのようで驚いた。本当に、これが私….!?って言いたくなるようなことってあるんだなと、今自分の身に起こっていることなのにどこか関係のないことのように感じた。
プロの仕事はすごいなぁと思いながら、アイリスさん達の様子を見ると、顔を赤くして震えながらこちらを見つめている。
「ヒカリ様…!想像以上です!!想像以上にお似合いです!!」
アイリスさんは大興奮でそう言ってくれたし、マリーさんは目に涙を溜めながらうんうんと頷いている。
そこまで感激されると照れくさいけれど、自分達で作ったものが形になった瞬間なのだから、そういう反応になるのも仕方ないのかもしれない。
「2人が作ってくださったドレスと化粧のお陰です。こんなに綺麗にしてもらって…ありがとうございます!!」
私がそう言うと、アイリスさんとマリーさんはハイタッチした手を握り合ってぴょんぴょん飛び跳ねている。なんて可愛らしいんだろうか。2人の様子に癒されていると隣で文句の声が聞こえた。
「僕は正直物足りないですけどね。」
フッと遠い目をして言っているのはジョンさんだ。先程まで張り切っていたジョンさんは私の伸びた髪で遊ぶと言っていたくせに、ウィッグをつけてキラキラ女子に仕上げようとしていたのだ。驚くような数のウィッグを用意していたのだが、それに気付いたチャーリーさんにこてんぱんに怒られて、私の髪の長さを変えずにヘアセットすることになったのだ。
それでも前回よりは髪が伸びていたので、多少手の込んだアレンジになっている。
全体的にウェーブをかけるように巻いた後、緩く七三分けにしてある。そして、七三分けの三の部分を4箇所に分けてねじり上げて止めている。
「体育祭とかでカースト上位の陽キャ男子がやってるような髪型ですね。」
「ヒカリ様ってたまに本当に何言ってるか分かんない時ありますよね。」
私が正直な感想を述べると、ジョンさんには伝わらなかったようでげんなりとした表情をされた。
一通り落ち着いたのか、アイリスさんはメイクの確認、マリーさんは装飾の確認を始めた。腕を広げたり、クルクル回ったり、歩いたりして服の見え方をチェックした。メイクの確認では口紅の色を変えたり、アイシャドウの色を足してみたり、メイクによって与える印象の違いを見ていた。
ジョンさんは特にすることもなかったのか、椅子に座りながらその様子を眺めている。気になる事があったら、アイリスさんとマリーさんに指摘して、たまに一緒に直していた。
「チャーリーさんは?」
「えっと…もうすぐ来ると思いますけど…」
アイリスさんが苦笑いしながらそう言うので、首を傾げているとガチャリと扉が開く音がしたのでそちらを見る。
するとそこに立っていたのはチャーリーさんとシリウスさんだった。
シリウスさんにどうしたのかと尋ねると、どうやら無理矢理チャーリーさんに連れてこられたようだった。
シリウスさんにも衣装のチェックをしてもらう必要があったのだろうか?私はチャーリーさんに説明を求めると、ニヤリとした笑みを返された。
嫌な予感がすんなー。
「アンタ達!大事な事忘れてんじゃない!?今回はダンスがあるのよ!!いくら衣装が素晴らしくてもそれだけではダメなのよ!!一回ちゃんと踊って見せてみなさい!!!」
ほらやっぱりぃぃぃぃいい!!
私はチャーリーさんにムキになりながら抵抗したけれど、シリウスさんが気持ちのいい笑顔で笑っていて全く意味をなさずに結局踊ることになってしまった。部屋にあった机や椅子を片付けて、踊るために必要なスペースを用意した。
チャーリーさんはどこから用意したのか分からないが、音楽プレーヤーのようなものを取り出した。
アイリスさんと流す音楽の相談をしているのを横目で見ながら、私はシリウスさんと踊る体制になる。シリウスさんの左手と私の右手を合わせ、シリウスさんの右手は私の左の肩胛骨あたりに、私の左手はシリウスさんの右肩の下あたりに添える。
ダンスの先生に耳にタコができるぐらい言われ続けたのがホールドの美しさの重要性についてだ。腕の力だけでホールドを張るのではなく、脇の下から背中にかけての筋肉でホールドを張ると良いらしい。そうしないと、バランスを崩して美しい姿勢を保つ事ができないのだとか…
私はダンスどころか、普通の運動でさえもしてこなかったのでまずこの姿勢を保つという事が難しかった。
あまりの筋力のなさに先生は絶句していた。
そんなスタートからよくここまでたどり着いたと自分を褒めてやりたい。ただ、そう思っているのは私だけで、先生からはまだまだだと言われている。その時、シリウスさんも苦笑いしていたので…そういうことなんだろうと思う。
踊る前に嫌なことを思い出してしまい、表情が死んだ私のことを察したシリウスさんが大丈夫だと言うように手を強く握って微笑んできた。私は曖昧に笑い返すと、ダンスに集中することにした。
「っぶわぁははははは!!アンタ顔が!!顔が必死すぎるわよ!!」
なんかこれさっきも同じような光景見たな。
チャーリーさんは私の顔を見ながらお腹を抱えてもらっている。もう立っていられないくらいに。
こちとら1ヶ月ちょっとしかダンスに触れてなかったのでね!!!すみませんね!!間違えないように必死だったもんでね!!
私はムーっとしながら笑い苦しんでいるチャーリーさんを見つめていた。
アイリスさんもマリーさんも苦笑いしてるし、ジョンさんも笑いを堪えて震えていた。
シリウスさんはニコニコ笑っているだけで何を考えているのか分からない。
「はぁー…まぁ、ステップは大丈夫そうだけど、アンタその表情どうにかしなさい。嫌々踊っているように見えるわよ。」
嫌々踊ってるんですけどね。
私はそんな言葉を飲み込んで、100%の作り笑いをチャーリーさんに向けて見せると、またもブッと噴き出された。
「んで!?肝心の衣装の方はどうだったんですか!?」
私はもうイライラしながらチャーリーさんに聞くと、チャーリーさんは深呼吸をして気持ちを整えていた。
「マリー、もう少しストーン使って光の反射を増やした方がいいかもしれないわ。マーメイド型のドレスだと、広がりが少ない分、他でカバーした方が見栄えが良さそう。」
「はい。」
「アイリス、メイクはもう少し目元を強調して。ヒカリの目は元々印象的だわ。それを引き立てるように工夫しましょう。」
「分かりました!」
「ジョン、特に言うことはないわ。」
「へーい。」
チャーリーさんは笑っていた割にはよく見ていたようで一人一人に細かいアドバイスをしていた。ドレスの調整は細かい作業になるので、そういうのが得意なマリーさんへ、メイクに関してはアイリスさんに指示を出した。
ジョンさんは相変わらず短い髪を弄るのが好きではないせいか適当な返事をして、チャーリーさんから拳骨を喰らっていた。本当に懲りない人だなと思う。
「ヒカリはその靴持っていってダンスの練習の時に履いていなさい。靴が変わるだけでダンスの調子も変わるものよ。足に馴染むようにしばらくはそのまま生活なさい。」
「ええ!?汚したり壊したりしたら怖いんですけど!?」
「バカ、そんなことになったらすぐに持ってらっしゃい。直してあげるから。」
先程まで笑い転げていた人とは思えないような頼もしさだ。
私もコロリと態度を変えて、拝むようにチャーリーさんの前で手を組んだ。チャーリーさんも満更ではないようで私に答えるように手をあげて、満足気な表情をしていた。
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