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「しっかし、ライドンにはいつも驚かされるわよ…婚約破棄になった令嬢にその日のうちにプロポーズするなんて…」


そう言ったほろ酔いのチャーリーさんは頬杖をつきながら、グラスを傾けていた。食べ始める前にミルドレッドさんから今日は無礼講だと言われていたせいか、それともライドンさんがプロポーズしたせいか、ガブガブとお酒を飲み続けている。

そんなチャーリーさんの言葉にさっきまでかっこよかったオリビアは一変して顔を赤くして珍しくオロオロとしている。当のライドンさんは機嫌良くご飯を食べて続けていた。


「…まぁ、あんたらは?幸せそうだから?別にいいけど!?大変なのはここからなのよ!?ライドン!あんた分かってんの!?そもそも花束も!?指輪も!?無しに!?プロポーズですって!?なんだと思ってんの!?やり直しを要求するわ!!」


なぜ全然関係ないチャーリーさんがやり直しを要求するのか…ライドンさんはそれを軽くあしらってご飯を食べ続けている。チャーリーさんの隣ではエリックさんがお腹を抱えて笑っている。


「まぁ、よかったんじゃない?オリビア、おめでとう。」


笑いすぎて溢れた目尻の涙を拭いながらそう言ったエリックさんに、オリビアは言葉が出ないらしく、真っ赤になりながらお辞儀していた。そんな様子を愛おしそうに眺めるライドンさんの横顔にこちらが照れてしまう。


「いい!?オリビア!!アンタもしっかりなさいよ!!このバカと結婚すんだからね!!このアタシが!!あんたに色々おしえてやるわよ!!よくききなさい!!」


「は、はい!!」


チャーリーさん、ほろ酔いどころじゃなかった。泥酔だった。

チャーリーさんにビシっと指さされたオリビアは背筋をぐんっと伸ばしてチャーリーさんの話を聞く。


「こいつは何をするのも豪快でね!!ライドンの最後のおねしょは…」


「ちょちょちょちょ!!!何言い出すんだよ!?」


てっきりお家のことを話すのかと思ったら、ライドンさんの暴露話が始まってしまった。

慌てるライドンさんの姿を見て、みんなで大笑いした。


「いいね、皆!今日はお祝いだよ!!一つ仕事が片付いたのと、ライドンとオリビアのお祝いだ!!思う存分飲んで食べな!!!」


上機嫌にそう言ったミルドレッドさんの声に、歓声をあげ、随分と賑やかで楽しい食事会になったのだった。








だいぶいい感じにできあがってきたところで、子供たちもウトウトし始めた。随分と長い時間付き合わせてしまったらしい。楽しい時間はあっという間に過ぎていってしまうものだ。

そろそろお開きにしようということで、それぞれが退室していく中、オリビアに呼ばれた。


「どしたの?」


「…ヒカリ、ありがとう。あなた、私のために無茶したんでしょ?」


「…いや、そんなことはないけど…」


確かに、ヘクターに対する疑惑はあったというのもあるけれど、ヘクターに目をつけたのもオリビアのことがあったというのが大きな理由ではあった。オリビアに改めてお礼を言われるとなんだかんだ照れ臭くてつい否定すると、オリビアは目を潤ませた。


「…バカね…」


そう呟いたオリビアは私に抱きついてきた。突然のことにビックリして固まってしまったが、オリビアの震える肩に気付いて、そっと背中に腕を回した。

これから今まで以上に大変なことが起こるだろう。この小さな肩にのしかかるには、大きすぎることが。

それでも、きっとこの子は乗り越えていける。どうか、この子に降りかかる不幸よりも、もっともっと多くの幸せがこの子達の元に訪れますように。

そう願って抱きしめる腕の力を強めたのだった。




皆が部屋から帰った後、私は眠そうにしながらも頑張って起きてくれている愛と2人で久しぶりにゆっくりと過ごしていた。望は先に寝てしまった。

ここ1週間、夜寝る前もシリウスさんに結界を外してもらうために外出していたし、結界が張ってある間に関しては触れ合うこともできていなかった。

やっと落ち着いて過ごせるので、思いっきり抱きしめている。

愛は痛いと言いながらもとても嬉しそうにしている。


愛には随分と寂しい思いをさせてしまったと思う。

いくら構ってくれる人がそばにたくさんいるとは言っても、その人達と母親とでは話は別だろう。それに加えて、うちにはまだ赤ちゃんの望がいる。愛はなんでも一人でできてしまうので、後回しになってしまうことが多いのだ。

だからただでさえ忙しかった最近は、ずっと頑張ってくれていたのだろう。

離せと訴えながらも服を握りしめるその態度に愛おしさを感じる。ぎゅーぎゅーと抱きしめながら頬擦りをした。


「ママがんばったねー。」


突然、愛は私の頭を撫でながらそんなことを言ってきた。自分だって頑張っていたはずなのに、健気な態度に涙が出そうになる。


「ありがとう、愛ちゃん。でもママは愛ちゃんがもっともっと頑張ったの知ってるんだよ〜すごいねぇ、愛ちゃん。」


お返しとばかりに目ぇいっぱい褒めてやると恥ずかしそうにしながらも、この1週間で頑張ったことを教えてくれた。

ユウとユキの怪我の治療、ダンスの練習、望のお世話など、身振り手振りを加えながら一生懸命に話してくれた。

多少分からないところもあったけれど、色々なことを一生懸命頑張ってくれていたということは十分に伝わった。


ユウとユキの体にはまだまだたくさんの傷が残ってしまっているらしい。どれほどの暴力に晒されればそのようなことになるのか想像もつかない。愛はまだその傷がどのようにしてついた傷なのか、正確に理解できてないところも大きいだろう。愛が大きくなる頃には、子供を理不尽な暴力から守れるような社会になっていてくれるといい。


イーサンさんのところの次男、ルーカス君と遊んだことも話してくれた。お絵描きをしたり、お外で遊んだり…随分と楽しんでいたようだ。


「あいちゃん、るーかしゅとけっこんするの。」


突然の告白に盛大に吹き出してしまった。


「け、結婚てわかるの?」


ニヤける口元をおさえながら愛に聞くと、自信たっぷりに頷いていた。


「ずっといっしょにいること。あいちゃん、るーかしゅだいすきだから。」


愛の言う大好きが、ラブなのかライクなのか分かっているのかは定かではないが、昼間のやりとりもあったからか、結婚とはどういうものなのかというざっくりとしたイメージは分かるらしい。

私は微笑ましく思いながら頷いて聞いていた。


「…?ママとパパけっこんしたのにどうしていっしょにいないの?」


夫が死んだ時、愛はまだ3歳だった。当時は私も深く落ち込んでいたし、今以上に幼かったこの子に、死とはどういうものなのかということの説明がうまくできていなかったとは自分でも思う。

今もちゃんと説明できる自信はないけれど、曖昧にせずに話そうと思った。


「パパはね、お仕事から帰る途中に、事故に遭って死んじゃったんだよ。」


「おほしさまになったの?」


「んーそれはどうだろうね…ママも死んじゃった後のことは分からないんだ。でも、もう会えないってことは分かるんだ。」


「…ふーん。」


イマイチ納得しきれない様子の愛だが、それは仕方ないだろう。命の終わりなんてそう頻繁に遭遇する物ではない。死という物をきちんと受け入れられるようになるにはもっと時間がかかるだろう。


「らいどんもいなくなる?」


「なんで?」


「らいどん、けっこんする。」


ああ、そういうことか。

結婚すると男の人はいなくなってしまうと勘違いしたらしい。

そうではないんだよと伝えるが、よく分からないようだ。

やっぱり子供に対して説明するには難しい内容だった。いずれ分かるようになるよと伝えて、本格的に寝かしつけに入る。愛は不満げながらも睡魔には敵わないようで布団に潜ると目を瞑った。


「…愛ちゃん、生まれてきてくれてありがとうね。大好きだよ。」


「…あいちゃんも。」


その晩、私達は抱きしめ合って眠った。朝起きたら腕が痛くなっていたけれど、それもなんだか幸せだった。





大きな事件が一つ解決したものの、お披露目パーティーという大きなイベントがまだ残っている。息つく暇もないまま、私達は準備に励んだのだった。

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