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一通り説明を終えたところで、私も気になっていたことを聞いてみることにした。
「…オリビア、婚約のことはどうなったの?」
私が今回の騒動に参加した一番の理由はオリビアのことだった。正直自分がもっととんでもないことに巻き込まれていたとは知らなかったので、思ったよりも大事になってしまったことに戸惑いはあるのものの、本来はオリビアの婚約事情をなんとかしたいと思って行ったことだった。
私の問いに、オリビアはどうでもよさそうに、あぁ、と呟いてから話し始めた。
「お父様はヘクターの逮捕は知らなかったようだから、どうなるか分からないとは仰ってたけれど、こうなってしまったらもう破棄ね。お父様はヘクターの家の財産が目当てだったようだから。ヘクターの家はきっと爵位もなくなるでしょうし…そうなったら意味がないもの。これから私の家にも捜索の手が入るでしょうね…」
「え?関わってんの?」
私はその線は全く頭になかったので驚いて前のめりになって聞いてしまった。オリビアは弱々しく首を振った。
「私は何も知らないわ…でも、婚約関係にあった家のことだから全くの無関係とも言えないでしょう?多少の疑いはかけられるし、ヘクター同様、家宅捜査はされると思うわ。今頃大騒ぎでしょうね…何も出てこないといいけど…」
オリビアは、ふぅっと息を吐いてまるで他人事のようにそう言った。
そして、その場にいる全員の顔をゆっくりと見回した後、頭を下げたのだ。
「知らなかったとは言え、私の婚約者とその家が貴方達に迷惑をかけてしまったのは変わりありません。本当に申し訳ありませんでした。」
「そんな、オリビアが謝ることないでしょ?」
他人行儀な話ぶりに違和感を感じて、慌てて否定する。実際オリビアは何もしていない。しかし、頭を上げて弱々しく首を振るだけでその態度は変わらない。
「いくら…形だけだったとは言え、私の婚約者であったのは事実ですわ。彼と向き合うことから逃げていたバチが当たったのね…彼と私が婚約関係にあったことを知っている人は大勢いますし、これだけ大きな事件が起こってしまったのですから、私は魔術師団を退団いたします。」
「ちょっと待って!?なんで!?」
私は大きな間違いをしていたのだろうか。オリビアとヘクターが婚約破棄をして、オリビアが自分自身で幸せを掴みにいけるようになって欲しかった。結果的にヘクターとの婚約は破棄になったが、オリビアには罪の意識を背負わせてしまっている。
皮肉にもヘクターの言葉を思い出す。
揺るがないプライド。
オリビアの芯の強さが表れている、その真っ直ぐな瞳が、ヘクターは好きだったのだろう。オリビアは形だけだと言っていたが、ヘクターは違っていた。彼なりにオリビアを好きだったのだと思う。今更それをオリビアに伝えたところで、もうどうにもならないけれど。
私は覚悟を決めたその表情を目にして、何も言えなくなってしまった。
「魔術師団辞めてどうすんの?」
口を開いたのはライドンさんだった。第二部隊を出てから、初めての発言だった。相変わらず無表情ではあるが、真っ直ぐにオリビアを見つめている。オリビアはライドンさんに向かって諦めたように笑った。
「婚約破棄になって…しかも、罪を犯した人との元婚約者を妻にしようとしてくれる人はいないでしょう。いたとしても…期待はできないと思います。」
やはりオリビアは婚約破棄というものがどういうものかちゃんと理解していたのだ。しかも今回はただの婚約破棄ではない。ヘクターの家の財源が犯罪を犯して得たものだったのだから、オリビアの家に対する風当たりも一層強くなるだろう。
「だったら余計に辞めないほうがいいんじゃないの。」
ライドンさんの問いかけにオリビアは微笑んでいる。慈愛に満ちた表情はいつもの彼女とは別人のように見えた。
「修道院にでも行きますわ。魔術師団で学んだことを活かして、ヘクターの分まで、他人の為になることをしていきます。」
ヘクターが犯した罪を、オリビアは一緒に背負うつもりなのだろうか。愛していたわけでもない、むしろ嫌っていた存在なのに。
そのことを、今愛しているライドンさんに伝えているオリビアの気持ちは一体どうなるのだろう。オリビアはライドンさんへの気持ちを伝えずにここを去っていくつもりなのだろうか。
せっかく婚約破棄が出来たというのに…私はやりきれない気持ちになり、どうにかオリビアを説得しようとした。
しかし、できなかった。
シリウスさんが私の顔の前に手を出して、話そうとしたのを止めたからだ。びっくりしてシリウスさんを見ると、シリウスさんはニヤリと笑っている。
こんな状況で笑っているなんてどういう神経してんだ!?
私は不快感に顔を歪ませていると、ライドンさんが口を開いた。
「オリビアちゃん、俺と結婚しようよ。」
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