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私が聞いていた計画となんだか違うようなので、シリウスさんに耳打ちして聞いてみた。
実は最初に私がオークションに出品される話を持ってきたのは王后様だったらしい。何故王后様がその話を知っていたのかは定かではないが、そんなことはあってはならないとミルドレッドさんに報告してきたのだそうだ。しかし、それだけではどうにもできないと頭を抱えていたところで、丁度よくヘクターへの疑惑が生じたらしい。
どこの誰が私を出品しようとしているのかも分からない状態だったので、一か八か、私の疑惑に賭けてみることにしたそうだ。
そこで私を囮にした作戦を決行することになったのだが、その計画中に思わぬことが起こった。
それはユウの目撃証言だ。ミルドレッドさんは、ライドンさんからその報告を受けて、それを証拠としようとした。けれども、元々孤児であったユウの目撃証言にどこまで信じてもらえるのか疑問だ。
「ああ、それは鶴の一声ってやつですよ〜。」
ミルドレッドさんは王后様にユウのこととその証言を伝えたのだ。
王后様がその証言を重要と判断すれば、騎士団を動かすことは簡単だ。まさに鶴の一声で、騎士団と共にミルドレッドさんとシリウスさんが家宅捜査に行ったらしい。
抜き打ちで行われた捜索は家の隅々まで行われ、地下室までも見つけ出したらしい。その地下室の中には芸術品や薬物などにとどまらず、人体の一部や内臓、生きた人間までもが見つかったらしい。聞くだけでも気分が悪くなり、吐き気を覚える。シリウスさんは私を支えながら背中をさすってくれた。
地下室に隠されていた物は回収され、人々も保護されたそうだ。衰弱が激しい人も多いらしく、今後治療が必要になるらしい。ヘクターの父も知らぬわけがないということでその場で逮捕された。
「でも1番気持ち悪かったのはコイツの部屋でしたよ〜あの第三部隊の姿絵がぎっしり〜。拷問器具もたんまり〜。」
「おぅぇぇぇえ。」
耐え切れなくなって思わず嗚咽すると、ヘクターは顔を真っ赤にして叫んだ。
「黙れ!黙れ!黙れ!!お前らが悪いだろ!お前らさえいなければ今頃オリビアは俺の物になってたんだ!!それなのにお前らがいるからいつまで経ってもオリビアは俺の元へ来ない!!お前らが消えさえすれば!!!」
「いや、私達と出会う前からオリビアは魔術師団に入ってたじゃん?」
そう。コイツとの結婚から逃れるために。
「うるさい!!」
あんたの方がうるさい。
あまりの不快感に眉を顰めると、ライドンさんがヘクターに問いかける。
「ねぇ、なんでオリビアちゃんと婚約したの?」
「はっ。貴様なんぞに分かってたまるか。」
もうすっかり開き直ったのか取り繕おうともせずに悪意全開で話している。
「オリビアはなぁ、あんなに小さくて細い体で、力もない、権力もない、あいつが持っているのは可愛らしい見た目だけだ。だが、プライドだけは一丁前だ。あいつはどんなに自分が弱者であろうと、そのプライドだけは絶対に 揺るがねぇ。俺はあいつを幽閉してそのプライドを一生かけてへし折り続けて、あいつをぶち壊してやるんだ!!あいつは俺のもんなんだよ!!」
ヘクターはオリビアへの歪んだ愛を叫びながら高らかに笑っている。
その異常な執着心に鳥肌が立つ。シリウスさんは私を支えている手に力を込めて、ヘクターを無表情で見つめていた。
ライドンは拳を震えるほど強く握りしめて大きく振りかぶり、地面に叩きつける。その拳はまたもやヘクターの顔ギリギリに叩きつけられた。しかし今度は魔術も発動していたのだろう、叩きつけられたところを中心に、半径2メートルくらいのクレーターができあった。
あまりの威力に、ヘクターは白目を向いて気絶してしまったようだ。
「おいライドン!あたし達もいるんだよ!?手加減おし!!」
私達を含めてそのクレーター出現に、何人か巻き込まれて、転んでる人もいる。私はシリウスさんに支えられていたので無傷だ。ミルドレッドさんが怒鳴りつけるも、当のライドンさんは黙り込んだままだった。
ミルドレッドさんは怒りながらイーサンさんを呼びつけて、ヘクターを運び出すように指示を出した。イーサンさんはそれに従い、何人かの隊員を集めて運ぶ準備をし始める。また、混乱している隊員も多いため、イーサンさんはその対応をするためにあちこち走り回っていた。
「…終わった?」
シリウスさんを見上げて問いかけると、シリウスさんはにっこり笑って頷いた。
私はやっと終わった安心感からため息をついた。シリウスさんにその場で結界を解いてもらうように頼むと、シリウスさんは嫌々ながら応じてくれた。
私は身体中の痺れから解放されて思いっきり背伸びをした。
そして、ガストン、メーリン、ロレンツォのところへ向かって歩き出した。何故かシリウスさんもついてくる。
「…3人とも大丈夫?」
「えっと、何が何だか…」
呆然とするガストンとロレンツォの代わりにメーリンが顔を引き攣らせながら答えた。私は3人に向かって頭を下げた。3人を命の危険に晒してしまったのだ。しかもそれを予測できなかったわけではない。回避する方法はいくらでもあったはずなのに、それをしなかったのは私だ。幸い怪我はなかったものの、それは結果論でしかない。
3人の顔を見るのが怖くて頭を上げられないでいると、目の前に青くて可愛らしい花が差し出された。
ロレンツォがネモフィラの花を私に差し出してくれていた。
「くれるの?」
そう尋ねると、ロレンツォがコクコクと頷いたので恐る恐る受け取る。その美しさに涙が出そうになる。
「あーなんだ。なんだか分かんねぇけど、お疲れさん、ってことだな。」
ガストンは腕を組んで私とロレンツォのやりとりを見ながら通訳のようなことをしてくれた。私がロレンツォにお礼を言うと、ロレンツォは恥ずかしくなったのかガストンの後ろに隠れた。メーリンさんと笑っていると、ファーガスさん達までやってきて、ちょっとした騒ぎになってしまった。私は一人一人に謝罪と感謝を伝えるのに夢中になっていて、シリウスさんのことをすっかり忘れてしまっていた。
「ヒカリ様。もう行きますよ。」
最終的に痺れを切らしたシリウスさんに小脇に抱えられることになったのだった。
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