体育の1番つまらない時期
名簿
1年1組
田中正人 この物語の主人公。生物教師。
「模範クラス」1年1組担任。
吉原里美 ポニーテールで髪が纏められ、整った顔立ちと聡明そうな眼を持った少女。
深山草太 角刈りの、ガッシリとした体型の少年。
高田 徹 学級委員。
原田 美咲 学級委員。
その他
近藤 夏雄 体育教師。田中とは元同級生で、今も飲みに行く仲。
二限目 体育
「気をつけ!!礼!!お願いします!」
何処かの国の軍隊を彷彿とさせる揃い方と声量で、奴ら一年一組は授業開始のゴングを鳴らした。
ガタガタガタガタ
隣には、至って平凡。ザ・平凡の一年二組。
震えが止まっていない。
「えーっと、じゃあまず一列から二列になる所から始めるぞ!」
俺の名前は近藤 夏雄。
田中とは同級生で妙な縁でこうやって同じ学校で今教師をやっている。
そして、だ。
このクラスの噂も勿論聞いているし、目の前に見せつけられてもいる。
だが、だ。
俺は思った。
これはもしかして新手の生徒の反抗ではないのか、と。
噂では、入学式の日から、オーダーメイドのようなピシッとした制服を着て、大きめの制服に身を包んでいなかったそうではないか。
卒業式の鉄板のフレーズを亡き者にしたそうではないか。
また、噂では七限の授業を八限にしようとし、土日にも毎日自学を教室でしているらしいではないか。
間違いない。
奴らは、成績や内申点の向上と共に、我々教師に復讐しようとしているに違いない。
許せん。
特に更に容姿端麗で、クラスにはまるでアニメに出てくるようなほとんど全キャラが、それも、どんな人でも絶対にタイプが1人いるようなバランスでいると言うのが更に許せん。
更に、スポーツ万能であったならば更に許せん。
俺の体育教師としての名にかけて、
こいつらにダメ出しを喰らわしてやる。
と、そう俺は決意し、この場にやってきた。
そうこうしている間にも、まだ説明していないのに、一組だけ既に二列に、この学校のやり方で完璧に移動している。
説明してないのに!
だが、きっと既卒生の兄弟とかから聞いたのだろう。
あえて、そこには触れない。
問題はこれを注意するかどうかだ。
俺はまだ、動けとは言っていない。
だが奴らは動いている。
そして、まるでもう確認テストであるかのように平然としている。
見ろ、二組の顔を。
あれ、習ったっけ?みたいな顔してるじゃないか。
許せん。
そう思っている隙に、彼等は一列に戻っている。
しまった、突くチャンスを失った!
やられた…。
こいつらまさか、
俺の心を読んでいるのか!?
俺が今注意しようと考えていたのを読んでのこの行動…。
なるほど。
どうやらもう既に俺は一撃喰らってしまったらしい。
挑発行為だ。
間違いない。奴らにとってこの行動は、先制攻撃。
奇襲作戦。本能寺の変。
許せん。
一通り説明が済む。
奴らは丁寧にメモまで取っている。
分かってるくせに!!!
見ろ、二組の顔。
あれ、今日メモ持って来いって言われてたっけ?
みたいな顔してるじゃないか!!
許せん。
「じゃあ先に二組、次に一組でやってみよう!」
勿論二組への配慮である。
この場で一組に先にやらせることはすなわち、二組の集団行動に求められるレベルをマックスにする行為、つまりは死刑宣告だからだ。
二組の集団行動が、一通り済んだ。
まあ、悪くない。動きは少し怪しいやつもいるが、全体として特に目立つこともない。
後は‥。
「よし、一組!やってみてくれ。」
二組の連中が唾を呑むのが分かる。
例えば、二組への評価の仕方を料理教室の先生が、体験の方の料理を美味しい!と言ってくれるくらいだとすると、
お前らは三つ星レストランの判定ぐらい厳しくするからな!
一組の先頭の少年が、息を吸い込む。
「全たぁぁぁぁぁい!!二列ぅっっ!!!!」
「1、2、3ぁんん!!!」
…。
地面が奴らの足踏みに合わせて躍動する。
「全たぁぁぁぁぁい!!進めぇぇぇ!!!!」
「1・2・1・2!!!!」
…。
その行進中、彼らの後ろには、日本国旗が見えた。
「全たぁぁぁぁぁい!!止まれぇっっっ!!!」
「1・2・3っっ!!!!!」
止まった瞬間、空気がビリビリと駆ける。
二組の中には、覇王色の覇気を食らってしまったように、失神している者もいた。
「いかがでしょうか?」
一組の体育委員が、聞いてくる。
「満点。\(^o^)/」