完璧なクラス
名簿
田中正人 この物語の主人公。生物教師。
「模範クラス」1年1組担任。
「起立、礼、お願いします!
着席!」
生徒達が席に着く。
「えーっ、本日からこのクラスの担任をする事になります。田中正人です。今年で初めて担任を務めます。
が!しかし、皆さんは安心して一年間過ごせるのでご安心を!一年間よろしくな!」
パチパチパチパチ
拍手が鳴り渡る。それも、面倒くさそうではなく、まるで国家の誕生を祝うかのように盛大に。
ちなみに今日は入学式や、始業式ではない。
4月の終わり頃だが、他のクラスは既に今までの担任とホームルームをしているだろう。
そう、このクラスに俺が配属されたのは、
今までこのクラスを持ってきた担任が3人連続尽く退職したからだ。
その3人は、新任教師に始まり、ベテラン教師まで続いている。
勿論このクラスが原因である。
「それでは、何か気になる事はあるか?
何なら先生に対する質問でも良いぞ!」
明るく振る舞ってみる。
俺は残念ながらこんな所でくたばる玉じゃないぜ。
手が一斉に挙がる。
それも、クラス全員の手が。
まるで俺が挙げさせたみたいじゃねぇか!
ライブ会場かよ!
と内心思いながら、1人当ててみる。
「じゃあ、吉原 里美さん、どうぞ。」
ポニーテールで髪が纏められ、整った顔立ちと聡明そうな眼を持った少女だ。
ちょうど目の前に居たから当てた。
「先生の誕生日はいつですか?」
「‥‥!!」
少し普通すぎて驚いてしまう。
が、平静を立て直す。
「9月10日だ。
果汁とかで覚えてくれ。」
「はい、ありがとうございます。」
記者会見のようにメモを取りながら座る。
姿勢はとても良い。
「他には‥何か?」
まだ、里美以外の全員の手が挙がったままとなっている。
「じゃあ、深山 草太君。」
角刈りの、ガッシリとした体型の子を当てる。
「高校時代の部活などはなさっていましたか?
なさっていたのなら、差し支えなければ部活を教えて頂きたいです。」
丁寧だ‥。丁寧すぎる。
だがわかっている。このまま飲み込まれるとペースにハマってしまう。ここは冷静にだ。
「先生はバレーボールしてました。
何なら、県内ベスト4の結構強いチームだったんだぞ!」
「あ、はい。ありがとうございました。」
‥。もうちょいテンション上げてよ。
頑張って盛り上げようとしたんだから‥っていかんいかん!
もう既にこいつらの攻撃は始まっている。
この質問が終わると、まるで示し合わせたかのように全員が手を下ろしている。
「はい、じゃあまあそんな感じでこれからよろしくな!」
「よろしくお願いします。」
生徒全員が綺麗に揃えて発言する。
完璧。そう言わざるを得ない。
そう、このクラスにはいじめや、不良生徒、不登校などの一般的な問題もない。
むしろ、日本中の模範となるクラスである。
では、なぜ担任は辞めていったのか。
それは、
完璧すぎるからである。
号令が掛かる。
「起立、礼、ありがとうございました!、着席」
時計を見る。
8:40分。
ちょうど日程表でホームルームが終わる時間である。
あ、こいつらの質問って、この時間に合わせるためだったのか、と気付くと同時にこのクラスからの最初の攻撃を喰らった事に気づいた。
1年1組ってなんか強そうだよね。