エピローグ――再会
現実の世界で、就職したナナは、思いがけない人と再会することになります。
4月1日。私は、京都に就職した。
理由は、親元に近かったからだ。
三勝した採用試験の中で、一番、実家に近かった。
それだけだ。
京都は、ミッションのルートに入ってなかった。ミッションでは、大津辺りまで南下した後、琵琶湖の西側をぐるりと周り、敦賀の方へ出たのだ。
まあ、実際、夢のミッションに影響されて、就職先を決めるって馬鹿なことはしないわけで。
三月の末、京都へ出発した。
野麦峠じゃあるまいし、売られていくわけでもないんだけど、大学へ行くときとは違った思いがあって、何となくしんみりした。
でも、それも束の間のことだった。
就職先に着くと、期待で胸がふくらんだ。
少しずつ、街の探検をして、この街を私の拠点にするんだ。
そう、金沢みたいに。
最初の二週間は、研修期間だった。
研修所と宿舎を往復する。
配属先が決まったら、住む場所を決めなければならない。
研修中、いろんな大学から来た連中と仲良くなった。
彼等も、法経職試験の受験経験者で、ついでに京都の採用試験を受けたって口だ。
すぐに仲良くなって、街へ繰り出した。
京都は、金沢より規模が大きい。
考えて見れば、金沢のことを小京都って言うじゃない。
ってことは、京都は金沢より大きいってことだったんだ。うん。
でもって、盆地だから、夏暑くて冬寒い、らしい。
その辺りは、これから経験することになるのだろう。
研修期間が半ば終わったある日、仲間と街へ繰り出した。
土曜日とあって、街は人で溢れている。
その中で、目を引く一団がいた。
宗教の勧誘のようだ。
数人の人が、パンフレットを手に、限りある地球について訴えていた。
どこにでも、マメな人はいるものだ。
布教している人たちは、どの人も髪が長い。
男も女も長髪なのだ。
中には髪が腰まである人までいた。
ゆったりした上着と長い髪が性別を超越して、独特の雰囲気を醸し出している。
まるで、そこだけ空気の色が違っているようだ。
見るとはなしに見て驚いた。
中心にいる人は、ホシヨミそっくりなのだ。
いや、ホシヨミその人だった。
一瞬呆然として、引き寄せられるように近づいた。
ホシヨミの近くにいた人が、私を不審人物だと思ったのだろう。怪訝そうに、でも意識的に通せんぼした。
そうだ。
もし、この人がホシヨミ本人だとしても、記憶があるかどうか分からない。
ホシヨミにあの夢の世界の記憶がなければ、私が精神異常だと思われるのが関の山だ。
でも、彼は生きていた。
生きていたんだ。
それだけで充分嬉しい。
私に気が付いたホシヨミが私を見る。
どこかで会いましたか?
目で、そう問いかけた。
覚えてないんだね。
やっぱり。そんなに上手く行かない。
一抹の寂しさを感じたが、彼は生きていたのだ。
それで良いじゃないか。
ただ、現実で言葉を交わしたいという思いを抑えきれなかった。
「もしかして、以前、別の場所でお話を伺ったような気がするんですが……」
「申し訳ありません。
私は、つい先日、京都へ出てきて布教しているので、他の場所というのは、ないと思います」
そんなに上手くいかない、か。でも、良いんだ。今度からここに来たら会えるだろうし。
でも、少しでも話をしたくて、すがってみる。
「そうですか。
じゃあ、よろしければ、お話聞かせていただけませんか?」
丁寧にお願いすると、向こうも丁寧に応対してくれる。
ホシヨミと話すときは、丁寧の法則で行くべきだ。
「教理は簡単です。
宇宙には様々な星があります。そして、星にも、太陽にも命があり、それは地球だって同じことです。
太陽が死ぬことに比べれば、地球が死ぬことも些細なことです。
更に言えば、地球が生命体の住めない星になるのは、もっと小さなことなのです。しかも、人類が滅びる日が来るのは、ごくごくありふれたことなのです。
滅びの日を迎える人類は、何やかやと抵抗します。
でも、そんなことをしても無駄なのです。
全ての生き物は死ぬ運命で、人類もその流れの中の一つでしかないのですから」
聞いていて涙が出た。
やっぱりホシヨミだ。
ホシヨミはこっちへ来れたんだ。
ホシヨミは、あのミッションから解放されたのだ。
現実の世界へ連れてってほしいと言っていたけど、ちゃんと、こっちへ来ていたのだ。
「どうされましたか?」
「いえ、何でもありません」
ありがとうございます。よく……分かりました。
これからも……頑張ってください。
そう言うと、ホシヨミの目がふわりと笑い、小さな声で告げられた。
「新しいミッションがあるんです。
内戦の際、神崎博士のグループを援護するミッションなんですが、参加されますか?」
ホシヨミは例外だった。
当局による洗脳を受け付けなかったのだ。
だから、私を助けてくれた。
だから、私を支持してくれた。
だから、シュウたちからブラックボックス地域に合流するよう誘われても、立場上できなかった私を現実で待っていてくれたのだ。
あれは夢、夢なのだ。
私は、こちらで生きて行くことにした。
現実側で新しいミッションに参加して、時々夢の世界を懐かしみながら生きて行くのだ。
完
最後まで読んでいただいてありがとうございました。
よろしければ、感想なんか書いていただければ、嬉しいです。




